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緑禍  作者: もちづき裕
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第八十九話  燃える車

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 車は金持ちの象徴、一種のステータスみたいなものだ。

 わざわざヨーロッパから輸入して来た車をこれみよがしに運転する。いや、運転手に運転してもらって、自分は後ろに座るのかな?よく分からんけど。


 バンジードにはこまめに情報を送っていたから、この車の中に金塊が詰め込まれていると奴らが考えたとして、六人から七人くらいは車の方に送り込まれることになるだろう。


 人数を多くして互いに監視させるようにしないと、金を持って行方をくらませるなんてことが起きる可能性が高くなる。襲撃者は三十人ちょいだとするのなら、やっぱり六人から七人を車の方に向かわせることになるだろう。


 僕は直接火をつけているから、車に向かったのが六人だったということを知っている。燃え上がった倉庫を消火はしない。燃えたままの方が敵も動揺するし、燃えている何かがあった方がこちらの視界を確保することが可能となる。


 バンジードの中には案内役としてジョアンを潜り込ませている。

 カマラーダのリーダーであるジョアンは、顔だけは厳ついし怖いし、農場の文句を垂れ流していたので奴らもだいぶ信用しているようだった。


 そのジョアンがミナスジェライス出身で、鉱山を爆発させるための火薬を持っていると吹聴させた。何かあればこの火薬で爆発させるから大丈夫だと豪語させたんだけど、周りはその話を信じているらしい。


 火薬は黒い、だからこそ、似たような砂鉄を袋に入れてちょっと見せるような真似をすればバカな奴ほど納得する。昔は黒人奴隷が手掘りをしていた金鉱も、最近では火薬を使って大規模な穴をあけるようになっている。そこから火薬を盗んできた、十分に信じられる話だと考えるだろう。


 バァアアアアアアンッ

 と、車が爆発する轟音が轟き渡ったとしても、

「あいつら火薬を使ったな?」

 と、思う奴が出てくれば御の字だ。


 女は自分たちで慰み者にすることも出来るし、売ることも出来る。だから、農場労働者居住区の方に回った男たちは居住区の家々を回って、男を殺し、女を集めて回る。もちろん、農場主夫妻がいる邸宅の方にも人を回さなければならないから、邸宅の方には八人くらいは向かわせるかな?


 カマラーダ(賃金労働者)には屈強の者が居ることもあるから、抵抗する前に片付けようと、そちらの方にも人を回すことだろう。


 東側の門から侵入する人間は、そのまま居住区を狙って動き出すだろうから一番人数が多い集団となるだろう。こいつらを農場で働く男たちに任せるとして、邸宅の方にはマティウスみたいな農場で働く古株や、ブラジル人カマラーダで迎え撃つことにした。


 カマラーダの住居のすぐ近くにも出入り口はあるのだが、そこは日本人カマラーダ四人組に任せている。カマラーダの家と邸宅の方では、実はやることが同じだったりする。どちらも熱した油をかけて火をつけるだけだ。


 日本みたいな木造家屋だったらまずは出来ないことだけれど、ブラジルの家は煉瓦を積み上げて外と内側に漆喰を塗ったもので出来ている。要するに、少々燃えたところで燃え広がるということがない。


 今日に備えて全てのカーテンは外しているし、壊れて困るものは外に出している。対する相手が多い場合は油は非常に効果的だ。少しかかっただけでも激しく痛むというのに、その面積が広がれば広がるほど、衝撃と痛みはより激しいものとなる。


 この作戦で一番困るのが、油をかけられた人間が無闇矢鱈に発砲することだ。戦場で一番怖いのは、実は流れ弾だったりする。よもやそんな場所から?というところから銃弾が飛んでくる恐怖といったらない。狙って撃たれたものなら、こちらも予測して避けることが出来るんだけど、流れ弾、しかも味方が撃った弾だとか、本当に洒落にならなかったりする。


「「「「ぎゃああああああ!」」」」


 男たちの悲鳴と共に、何発もの銃声が発射される。その時、ようやっと僕は邸宅の方に到着したんだけど、裏口から駆け出してきたジョアンとマティウスが真っ青な顔をして僕の方へと走ってくる。


「「マ・・マ・・マツ〜!」」


 バンジードと顔馴染みになったカマラーダのリーダージョアンは、金の分け前を貰うという理由でバンジードたちの案内役を買って出た。リーダー格らは金目の物がある2階へと向かうことになるだろうが、下っ端たちは1階を漁り出すことになるだろう。


「実は金が入ってそうな金庫が隠されているんだ」

 そう言ってジョアンがこっそりと一階組を誘導し、厨房の隣にある使用人たちの休憩所へと案内する。

「俺たちで出来たら金は分けて、上の人間には内緒にしよう」

 そんなことを言いながら休憩所に入り、

「俺は裏に人が居ないか確認してくる」

 と言って、裏口から出てジョアンと合流。


 二人で煮えたぎった油の鍋を持って、金庫を探す男たちに回しかけ、火種を投げたら逃げてくるように言ってあったんだ。


 明らかに金庫なんかなさそうな場所でも、地下に埋めてあると言えば信憑性がグッと上がる。使用人が居るような場所なんか誰も気にしないだろう?とでも言えば、男たちは床板の何処が外せるのかを探して回ることになるだろう。


「ボセシュコンセギーロンネ(成功したでしょう)?」

「エ(うん)」

「アショ〜(たぶん)」


「クアントスペッソーアスエスタラ(何人いた)?」

「オイト(8)」

「クアントスペッソーアスジャマトウ(何人殺した)?」

「ナオンマトウナオン(殺してないって)」

「シンコ(5)」

「キッソルチ(ラッキー)!」


 ということは、三人が二階に向かったということになり、半分以上が戦闘不能となったわけだ。


 こちらの利点は数の多さだ、その数の多さに恐れをなして逃げ出すような奴や、はぐれて動き出すような奴らは、九郎さんに任せるようにしている。


 果樹園側から侵入してくるのが邸宅狙いだとは思っていたけれど、数も予想通り。奴ら、ほとんどの人間が眠っているだろうから、少数の人数でも、簡単に殺して回れると考えていたのだろう。


 カマラーダのリーダーとやらは、農場で働く人間だということで、ジョアンやマティウスの言うことを鵜呑みにするべきではなかった。例え火薬を持っていると言っていたとしても、それを取り上げて本物かどうかを確認するべきだったんだ。


 そもそも、車が燃え上がっている時点で、邸宅からも倉庫が燃える姿は見えているはずなのに、自分の仲間の誰かがやったのだろうと思い込んだのが間違いなんだ。何も知らない農場の人間は抵抗などしない、いや、バンジードの襲撃があると知ったところで、何も出来やしない。そう考えていること自体が大いなる間違いだ。


ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!


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