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緑禍  作者: もちづき裕
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第七十六話  一人で行けるだろ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕たちが働くシャカラベンダ農場はサンパウロ中央都市からはとっても離れている関係で、都会に憧れるレディたちは、農場主の伝手を使って都会デビューをすることを夢見たりしているんだよね。


 実際に今まで邸宅の方で働いている女の子の中には、

「街の邸宅の方で働いてみないか?」

 と、声を掛けられた人もいるし、向こうでお金持ちに見染められて結婚したという娘もいたわけさ。


 農場で働いていた両親も街の方に呼んで、一緒に暮らすことになったんだそうで、田舎暮らしの人々に夢を与える結果にもなったってわけ。


「なるべくアレッサンドロ氏には好かれるようにするんだよ?」


 そんなことを邸宅で働くようになると親や親族から言われるようになるんだけど、アレッサンドロ氏、普段は街に居るし、農場の方は支配人に任せっきりでほとんど来ないしで、見染められて都会に行くだなんて、半ば夢みたいな話でもあったってわけさ。


「オイアモール(ねえ、私の愛する貴方)」

 ある日、妊娠中の奥様が夫に話しかけていたんだよね。


「エウケーロコンビダタマチャ、パラミニャカーザ(珠子を家に招待したいの)セ(もし)エラキケートラバリャナミニャカーザ(彼女が私の家で働きたいのなら)エウボウペガタマチャ、シダージサンパウロ(彼女をサンパウロ市に連れていくわ)」


「キッボン(それはいいね)!」


 なんでも奥様の足は丸太のような状態だったんだけど、珠子ちゃんが食事内容の改善から始めたところ、それが大当たりすることになったんだ。どうやら奥様は妊婦でありながら塩分高めの食生活だったらしくって(こちらの味付けは塩味のみが多いから)酢を取り入れることで、減塩食を受け入れられ易いものにしたってわけさ。


 それと、珠子ちゃんは運動も取り入れることにしたから、奥様は目に見える形で体調が良くなったんだよね。


 出産は命懸けのことになるから、一応街からお医者さんを連れてきた旦那様だったけれど、やっぱり田舎の農場に居るだけあって不安なことも多かった。だけど思いの他、珠子ちゃんが頼りになったものだから、旦那様も当てにするようになっていったんだよね。


 その珠子ちゃんの恋人だか婚約者みたいな扱いの僕なんだけど、最近はバンジード対策をするために、対面で旦那様と話をすることも多かったんだ。元は裏の人間っぽい徳三さんも連れて近所の駅町まで顔を出したんだけど、その時にバンジードの下っ端を見つけた徳三さんの慧眼と、器用に縄で縛り上げて警察に突き出した僕の素早さに感動したみたい。


 色々と不安なことはあるけれど、頼りになる二人を街の邸宅の方に置いておいても良いのかもしれないな〜くらいには考えていたのに違いない。


 そんな旦那様と奥様の話を聞いていたのが、奥様の足をタライのお湯に入れて洗っていたカミラだったんだよね。


 自分はわざわざお湯を用意して、疲れた奥様の足を自ら洗っているというのに、そんな自分を連れて行くのではなく珠子を連れて行くですって?どういうこと?あの子にはそんな価値があるわけないじゃない!所詮はしみったれた日本人なのよ!


 そんな訳で、再び旦那様が街へと出向いている間に、カミラは珠子ちゃんの糾弾を始めたんだよね。


 周りは古くからの顔見知りのブラジル人ばかり、支配人と使用人頭シーラのため息を聞いたカミラは、邪魔者排除に成功したと思ったことだろう。


「エラエラドラオン(彼女は泥棒よ)!バッエンボーラ(ここから出て行って)!バッエンボーラ!」

「パーラ(やめなさい)カミラ」


 シーラが大きな声を上げたため、周りはシンと静まり返る。使用人の管理を任されている彼女としては、完全に頭が痛い事態に陥っていた。


「なんでカミラは珠子が泥棒だと思うの?」

「だって盗むのを見たもの!彼女は奥様の部屋に置いてある宝石箱から宝石を盗んで自分の鞄の中に入れていたのよ!」


「いつ見たの?どこで見たの?そもそも、珠子は盗もうと思って宝石を自分の鞄の中に入れるわけがないのよ!何故なら、彼女はいつでも帰る時に、何かを盗んでいると疑われたくないからと言って私たちに荷物検査をさせているからよ!」


 支配人はうんざりした様子でため息を吐き出しながら言い出した。

「日本人とは実に実直で真面目なものだと思っていたんだ。なにしろ彼女の婚約者は、珠子がたった一人の日本人として邸宅で働き出すようになったことで、何か疑われることになるような事態には陥りたくないと言い出した。自ら立ち合いのもとで、毎回、毎回、私たちに荷物を調べるように言ってくるんだ」


「そこまでやらなくても大丈夫と、私たちは何度も言ったのよ。だけど彼は全然話を聞いてくれなくて、仕方なしに私たちは珠子の荷物検査をしていたのだけれど・・」

「まさかこんなことになるなんて・・」


 イーリャと支配人の言葉を聞いて、みんなの白い目が一斉にカミラに向けられることになったんだってさ。なにしろカミラときたら、アレッサンドロ氏の愛人希望だったらしくって、夜勤なんかは全部自分がやる!みたいなことまで言っていたらしいんだ。


 邸宅に農場主一家が来る時には、家政婦は夜勤につくこともあるんだけど、ほぼ、毎日、カミラは夜勤を希望して、支配人に却下されていたってわけ。溺愛する奥様を一緒に連れて来ているっていうのに、浅はかだな〜とは思うんだけど、カミラは自分の美貌を前にしたら我慢できないだろうくらいに考えていたみたい。


 確かにカミラは農場で一番と言われるくらいの美人だったらしいんだけど、所詮は田舎の話だから、都会に行けばゴロゴロいるようなレベルらしいし。


「珠子ちゃん、大丈夫?」

 僕が珠子ちゃんを迎えに行った時には、すっかり珠子ちゃんは意気消沈していて、

「まさか、松蔵さんの言うとおりのことが起こるとは思いもしなかった・・」

 と、僕の胸に顔を埋めながらわんわん泣き出してしまったんだよね。


 都会に憧れる彼女たちが珠子ちゃんを邪魔に思うのは間違いないし、珠子ちゃんを簡単に排除するためには、まずは冤罪をふっかけるだろうとは思っていたわけ。冤罪をかけるのに、一番手っ取り早いのが盗みだろうな〜と思っていたので、事前にイーリャやジョアンには相談しておいたんだよ。


 みんな考えすぎだ、気にしすぎだ、最後の方ではこれだから日本人は、我々ブラジル人のことが信用出来ないのか!みたいなことまで言われたけれど、日本人とかブラジル人とか、そういうことじゃなくて、自分たちは後ろ指をさされるようなことは何もやっていないと断言出来るようにするためだからと言って、ようやっと納得して貰った経緯があるんだよ。


 だからね、

「カミラ、ボセエブラジレイラ(君はブラジル人じゃないか)ポージファラポルトゲーシュ(ポルトガル語だって話せるし)ボセナオンテンプロブレマナオン(何も問題ないじゃないか)ポルケデペンデンパトラオン(なんで農場主を当てにしたの)?」

 と、カミラに言ってやったよ。


「ボセエブラジレイラ(あなたはブラジル人)ポルイッソ(だったら)ポージイールソジーニャパラシダージサンパウロ(サンパウロ市まで一人でも行けるでしょう)?」


 日本人じゃねえんだからてめえ一人で行けるだろう。そう、僕なんかは思うんだよね。



ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!


もし宜しければ

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