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緑禍  作者: もちづき裕
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第十二話  母と姉と

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ブラジルに来たらまずやらなくちゃならない事。

 今の次期はただひたすら『コーヒーの実』を積む事。

 この収穫が後々の生活に響いてくる事になるので、一番重要といえるでしょう。


「全く、コーヒーの収穫が大変だっていう時に何でこの娘は倒れたりするんだろう?」

「いつだってこの娘はそうですよ、私達の迷惑になるような事しかしないんだから!」


 姉と母の怒りの声が聞こえて来ました。


「まあまあ、珠子さんでなくてもさすがにあの遺体を前にしたら失神してしまうと思いますよ」


 姉の旦那さんである久平さんは、困り果てた様子で言っています。


「それにしても困ったなあ、今日は隣の源蔵さんのご遺体を朝のうちに埋葬することになるから、あっちの収穫も手伝わなくちゃならないし、珠子ちゃんがこのまま寝込んじまったら、うちの収穫の方が目標量におっつかなくなるし」


「殺された源蔵さんの所は、結局、泰ちゃんと省ちゃんが今日から畑に出るんでしょう?だったらわざわざうちが手伝わなくてもいいんじゃないの」

「それでも百合子さんから頼まれている話だし」


「百合子さんもさあ、源蔵さんが死んだっていってもかえって嬉しいんじゃないのかな?若い甥っ子二人に囲まれて今までだって夫をおいて何をしていたか分からないような人じゃない?いやらしいわ」


 外作地で(オンサ)に腑を食い破られていた源蔵さんだけれども、この人、向こうでは結構お金があった人みたいで、奥さんの百合子さんは十歳も年齢が年下になる二人目の奥様になるそうです。労働力の足しにということで、自分の甥っ子、十四歳と十五歳を連れてブラジルまでやって来たんですよね。


「増子、あんまりいい加減な事をお言いじゃないよ。百合子さんは源蔵さんが亡くなって床から起き上がれなくなっているんだから」


 流石に母が姉に注意をしていると、通詞の山倉さんの声が聞こえてきた。


「まあまあ、そうしたらこれでどうでしょうか?ここにいる神原さんは明日からカマラーダとして働く事になっていて今日は挨拶程度しかする予定がなかったし、珠子ちゃんの目が覚めるまで付き添ってもらって、動けそうだったら農場まで連れて来てもらって一緒に働いてもらうというのでどうです?」


「一緒にって・・僕が珈琲畑に行くんですか?」


 松蔵さん、困惑しているみたい。


「何しろ、昨日はオンサによる被害だったけど、作太郎さんの件は、確実に殺人になるからね。僕の方は支配人と色々と話をしなければならないし、カマラーダへの挨拶は明日以降になるだろうし」


 作太郎が殺されたのは、やっぱり夢じゃなかったんだな。

「神原さんが直接コーヒーを収穫するような事ってまずないとは思うけど、覚えておいて後々損はないでしょう?久平さん、男手があれば収穫も大分はかどると思いますがいかが?」


「神原さんが手伝ってくれるのなら、僕が源蔵さんの所に手伝いに行っても上手くいくと思います」


「それじゃあそういう事にしましょうか、さっきから農場の鐘がカンカンカンカン鳴っていますしね」


「神原さん、僕らが任されている区画には珠子ちゃんが案内してくれるはずですから、後から来ていただく形でも大丈夫ですかね?」

 久平さんが気遣うように言うと、姉と母は苛立ったように言い出した。

「この娘、起きるかどうか分からないじゃない!」

「起きなかったらひっぱたいて起こしても構いませんから」


 そうして、ガタガタと人が出て行く音が室内に響き渡り、しばらくの沈黙の後におそるおそるといった感じで私が目を開くと、松蔵さんが私に声をかけてきたのだった。


「あのお母さん、珠子ちゃんに水をぶっかけようとしていたよ」


 恐ろしい遺体を二日連続で発見した私は、流石に意識を失うほどのショックを受けてしまったみたいです。まあ、そんなことは、母や姉にはあんまり関係ないんだけどね。


「お姉さんの方は随分と可愛がっているようにみえるのに」

「ああ、うん、何ていうのかな・・」


 松蔵さんが戦争に行くってなった時には両親の離婚が決まっていて、慌ただしく離縁の手続きが進んで、私は村山の祖母の元に送り込まれることになってしまったのだ。


「母は悪いことは何でも誰かの所為にしたい人間だし、姉はそんな母に悪意を向けられないようにするために、私を悪者に仕立て上げたんだよね」


 奥多摩に居る時から母に嫌われていた私だけど、松蔵さんはそこの辺りには気が付いていなかったのかもしれない。


「誰か虐げる人物を一人作って自分達はそれよりも上なんだと常に実感していたい人っていうのかな」


 母や姉夫婦には個人の寝室というものがあるんだけど、私の寝床は食事をする場所の隅、猫の子でも飼うような場所に用意されている。


 猫の子のように寝ていた私をしゃがみ込んで見つめていた松蔵さんは、軽く私の頭に手を置くと、小さなため息を吐き出した後に立ち上がる。


「そういえば君に言っておかなくちゃと思っていたことがあるんだけど」

「何?何かあった?」


 剥き出しの地べたに置かれたままの自分の靴をつっかけると、食事をする時に使用する無骨な椅子に座り込んだ松蔵さんが、手巻きタバコに火をつけながら言い出した。


「殺された作太郎さん?彼のズボンのポケットに、昨日のご遺体が握りしめたのと同じような金の小さな延棒が一本、入っていたらしい」


「・・・はあ?」


「それで、皆んなが大騒ぎしちゃって、新しく農場に働きに来た人たちも金についても知ることになっちゃったんだ。だったら珈琲豆なんか収穫せずに、埋蔵金を見つけて日本に帰れば良いだろうとか言い出して」


「はあああ?」


「それで、日本人同士で大混乱。だから、早く農場へ行って働け!働けっていうことを示すために、さっきから鐘がカンカン慣らされているんだよ」


「えー〜っと・・つまりは・・」

「山倉さん曰く、遂にブラジル人たちにまで金の延べ棒の話が伝わったらしい」


 あちゃ〜、それじゃあこれからどうなっちゃうのかな?



このお話は毎日18時に更新しています。

最初はブラジル移民の説明の回がしばらく続きますが、此処からドロドロ、ギタギタが始まっていきます!当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!


モチベーションの維持にも繋がります。

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