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緑禍  作者: もちづき裕
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第九十八話  森と黄金

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 日本の森に入れば、樹高15メートル直径1メートルのイチイの木や、アカガシ、シラガシ、樹高25メートル直径2メートルのカヤの木など、幹が太い木々が多く生えていることに気が付くことになるだろう。


 自然豊かなブラジルなのだから、さぞかし幹が太い木々が生い茂っていることだろうと想像してしまうんだけど、びっくりしてしまうくらいに幹が細い。火山が少ない土地柄だけに、土の質が日本とは大きく違うからこそだとは思うんだけど、森の中に紛れるようにバナナの木が多く生えていることにも驚いたものだった。


 ジャブチカーバという紫の大きな果実が木の幹から直接実っているようなものもあって、本当に日本とは植生が違うのだなと実感してしまう。実りが豊かで、小型の灰色猿が頭上を行き来する木々の下を、ライフル銃を担いだ僕と徳三さんが歩いている。


 今日は特別に話があるということで僕は徳三さんと森の中を二人で歩いているんだけど、どうやら珠子ちゃんのことで呼び出されたというわけではないらしい。


 徳三さんは珠子ちゃんのお母さんが再婚した相手の弟ということで、戸籍上では叔父扱いとなるものだから、今後について何か一言、二言、言われるものだと思っていたんだけど、結局僕が、自分のことを徳三さんに相談をしているような始末だ。


「もう少しだからな」

 そう言って前を歩く徳三さんには行きたい場所があるらしい。農場の居住区の裏に広がる森の中、バンジードの襲撃の時に珠子ちゃんたちが避難をした大きな洞窟の前を通り過ぎて、奥へ奥へと森の中を進んでいく。するとやがて、地下に潜り込むような形で平べったく広がる小さな穴の前へと到着した。


 泥と草を体に押し付けながら潜り込まなければならないような小さな入り口だけど、その入り口の前にしゃがみ込んだ徳三さんは、

「こういう穴って、無性に入りこんで探検したくなったりしないか?」

 と、言い出した。


「わしらがこの農場に配耕になった時に外に畑を作ろうという話になったんだ。居住区からすぐに行き来できる場所の方が良いんじゃないかと言って、今、外作地が出来ている元々は沼だった場所の方ではなく、森の中を我々は進んでみたんだが、そこで見つけたのがこの洞窟だよ」


 小さな洞窟の入り口の前でしゃがみ込んだ徳三さんは、物憂げな様子で闇に沈む洞窟の中へ視線を送りながら言い出した。


「近くにある洞窟は巨大なものだったし、潜り込んでみればそこそこに広いんじゃないかと兄さんが言い出して、あっという間に潜りこんで行ってしまった。中は大して広くはないんだが白骨化した遺体が一つ転がっていて、そいつの遺体はここらで有名だった盗賊ペイシェベルメーリョっていう奴なのかもしれない」


「ペイシェベルメーリョですか?」

 それは金を強奪して歩いた凶暴な強盗のあだ名だったはず。


「もしくは、そいつの部下なのかもしれんが、遺体の近くに転がるカバンの中には、金の小さな延べ棒が詰め込んであったんだ。これは金を輸送中に強奪したものじゃないかと言って、見つけた奴らで話し合うことになったんだ」


 徳三さんは懐から煙管を出すと、煙草を詰め込みながら言い出した。


「畑なんか作っても意味があるのか?農場主に文句を言われるんじゃないのかと言い出す奴が多くてな、下見に行こうと動き出したのはわしと兄の辰三と源蔵だけ。三人で森に向かおうとしていたら、他所の農場で問題を起こした作太郎がついてきた。四人で連れ立って入りこんだ森の中で、たまたま金を見つけたわけだが、皆が言うような埋蔵金を見つけた訳じゃない、洞窟に転がる白骨死体の近くにあった金を見つけたというだけのことよ」


 徳三さんは当時を思い出すように瞳を細めると、煙草に火をつける。


「白骨はこの近くに埋めてある。金はみんなで分けて農場にいる間は家族にも誰にも内緒にしておこうと言い合った」

「それは幸運だったというか・・なんというか・・」


 僕も森の中で暮らしていた(オンサを追っていた)から分かるけど、この規模の洞窟の穴に潜り込もうとはまずは思わない。良くもまあ潜り込んだなとも思うけど、だからこそ、今まで発見されなかった遺体と金があったのだろう。


「金を見つけたと言っても、カバンに入る程度のものだ。それほど量が多いものでもないし、四人で分ければそこそこの量にしかならない。見つかって農場主に取り上げられても馬鹿馬鹿しいということで農場を出る日が来たら換金しようと言い合った。そこそこの量だが、金があるというだけで心の余裕が出来てくるもので、男が金を持ってまず手に入れたいと思うのが、若い女ということになるのかもしれない」


 徳三さんは煙管の白い煙を吸い込み、吐き出しながら言い出した。


「姉の家に厄介になっている上に、生活するのに困っている様子の雪江に手を出したのが源蔵だった。奴は金で雪江を釣ったということになるんだが、今の女とは離縁して、雪江と夫婦になることまで考えていたらしい。死んだ時に着ていた一張羅から考えるに、自分のものになれとでもその時に言い出したのか・・」


 うーんと、やっぱりそういうことだよね?


「僕が農場に配耕された時に死んだ遺体は確かにオンサに腹を食い破られていたんですけど、刃物で胸を刺された跡もあった。要するに、雪江さんが源蔵さんを殺したということで・・次に作太郎さんを殺したのも?」


「雪江になるだろう」

 徳三さんは大きなため息を吐き出した。


「作太郎は脅迫でもしたんじゃないのかな?源蔵を殺したと周りに言われたくなければ、自分の言うことを聞けと、そんなことを言い出したのに違いない」


 イペの花が舞い散る木の根本近くに座り込んでいた男は、頭をかち割られたような状態だった。源蔵も作太郎も、どちらの男もポケットの中に小さな金の延棒を入れていた。


「雪江はな、この洞窟の場所を話のネタとして聞いていたのかもしれない。源蔵が言ったのか、作太郎が言ったのか、どちらが言ったのかは分からんが、そこにはまだ金が残っているかもしれないと考えた。だからこそ崇彦をそそのかし、お前からライフル銃を奪ってこの洞窟を探し出そうとしたのだろう」


 探し出したところで何も残っていないのだが、と言って徳三さんはため息を吐き出した。


「雪江はな、心が壊れているのだわ。人を殺しても何も思わんし憐れな女が大好きなのだが、そんな雪江をわしは憐れにも思うのだ」 


 憐れで殺人鬼が野放しというのもどうかと思うけど・・とても僕が言えた義理じゃないな。


「どうせここで死んだら『ナオンテンジェイト』仕方がないで終わるんだ。バンジードたちだって多くが死んだが、後はうやむや。世の中、何処の国に行ったところで大概がこんな調子で回っている」


「それじゃあ契約が切れた後も、雪江さんを連れて行くつもりなんですか?」

 うんざりした様子で徳三さんは立ち上がる。

「姉家族も雪江の飼育は拒否したし、もうしばらくは面倒を見てやろうかとは思っている」


 そうして、金の細い棒を十本、僕の手の平の上に載せると言い出した。

「珠子と松蔵さんへのご祝儀だと思ってくれ」

 僕は細い金の棒を握りしめた。山倉さんに貰ったものと同じような金の棒、困った時には是非とも換金してしまおう。


「ワシらは、まずはサンパウロ市を目指す。そこから何処の土地を購入するか目星をつけるつもりだが、松蔵さんはもう決まっているんだろう?」

「ええ、山倉さんの親戚が土地を購入するっていうので、その話に乗っかる形になります」


「あの狸がヘマをすることはないとは思うが、ブラジルの書類関係はいかにも煩雑で、外国人相手に詐欺働きが出来やすいものらしい。困ったら、アレッサンドロ氏を頼ったら良い。ワシもそうするつもりだ」

「そうですよね、伝手とコネがここでは大事ですよね」


 今回の騒動でそれは実感したことだった。幸いなことに農場主であるアレッサンドロ氏がとっても僕らに感謝をしていたので、何か困ったことがあれば助けてくれるに違いない。


「何かあればワシを頼って来い、ワシの方でも何かがあればお前を頼る」

「何かがなくても頼ってくださいよ」

「ハンッ、お前が行く農地、随分と遠い場所らしいじゃないか」

「インディオが多い場所らしいです」

「インディオ?」

 徳三さんは一瞬、呆然とした表情を浮かべると、

「それ本当か?」

 と言ってアハハッと笑い出したのだった。


ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!


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