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p.04 婚約者への信頼

 待たせていた車に乗ると、なぜかエルシーもついてきた。


「……なぜついてくるんだ?」

『殿下だけでは心配なんですもの。それに、わたしのことでもあるのだし』

「余計なお世話だよ。心配しなくても調べるさ。……というか、体から離れて平気なの?」

『大丈夫みたいだわ』


 そう言ったエルシーに内心でチッと舌打ちをする。

 せっかくこの半透明で口の悪いエルシーから離れられると思ったのに。


 エルシーはダリルの行くところ行くところについてきた。

 なんだか幽霊に取り憑かれているようだ、と考えてその考えを打ち消す。

 エルシーは幽霊じゃない。だってまだ死んでいない。


 自分の部屋に入り、誰もいないことを確認したところでダリルはエルシーをジロリと睨む。


「君さあ……どこまでついてくるつもり? まさか、風呂やトイレまでついて回るつもりじゃないだろうね?」

『それこそまさかだわ。見たくないもの』


 そのエルシーの発言にムッとした。しかし、あることに気づいてフッ……と余裕の笑みを浮かべる。

 そんなダリルの様子をエルシーは怪訝そうに見る。


「照れ隠しだとわかっているけれど、口には気をつけたほうがいいよ、レディ」

『……は?』

「美しいこの僕のすべてを知りたいという君の気持ちはよくわかるとも。けれど、秘密が一つや二つあった方が僕の魅力が増すというものさ」

『なに言っているの? バカなの?』


 心から冷めた目で見られ、ダリルは首を傾げた。

 なぜそんな目をされているのか?


「だって……君は僕のことが好きなんだろう?」


 きょとんとして問いかけたダリルに対し、エルシーの目の温度が絶対零度のごとく凍りついた。


『……なにをどうしたらそんな結論に達するのよ。わたしがいつ、あなたのことを好きだと言ったのかしら? そもそも、あなたのどこに、わたしが好きになる要素があるというの?』

「どこってそんなの決まっているだろう。──顔だ」


 自信満々に答えたダリルに、エルシーは固まった。

 そして天を仰ぐ。


『ナルシストなのは知っていたけれど……ここまでだったなんて……』

「なにをごちゃごちゃ言っているんだ? 僕の顔が美しいことは皆わかっていることだろう? 美しい僕を好きになるのは当然のことだ。自然の摂理というやつさ」

『……本当に自分の顔が好きなのね……』

「愚問だね、レディ。僕からこの美しさを取ったら、ただの王子という身分しか残らない」

『それ、自分で言って傷つかないの?』


 思わずツッコんだエルシーにダリルはフッと笑う。


「傷つくもなにも──事実だからね」

『……ああ、そう……』


 疲れたように、どこか投げやりに答えたエルシーをダリルは不思議に思った。

 だが、ダリルの美しさに当てられたのかもしれないと思い直し、優しく話しかける。


「だから、君が僕を好きになることは当たり前のことなんだ。変に恥ずかしがる必要はないんだよ」

『だから、どうしてそうなるのよ……』


 エルシーはがっくりと肩を落としたあと、キッとダリルを睨む。


『──よろしくて? わたしはあなたのことなんて小指の爪先ほども、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも好きじゃないわ。そもそも、あなたの顔も好みではないし』

「……なんだって? 僕の顔が好みではない……?」


 ダリルはエルシーのその一言に衝撃を受けた。

 自分の顔に絶対の自信を持っているダリルにとって、とてもショックな一言だった。


(まさか、僕の顔が好みではないと言う女性がいるなんて……! い、いや……待てよ……これも僕の気を引くための作戦なのでは……?)


 そう思い至り、ダリルのゼロに近くなっていた自信がまた漲る。

 そして余裕を見せつけるように額に手を置き、格好をつけてフッと笑う。


「僕の気を引こうとしても無駄だよ、レディ」

『していないわ、勘違いも度がすぎると痛々しいわね』

「……」


 一刀両断だった。

 ダリルの自信の値はゼロどころかマイナスになった。もう身も心もボロボロだ。こんなときは、温かくて甘いココアを飲むのがいい。


 フラフラと部屋を出ていくダリルのあとにエルシーも続く。


『どこに行くの? まだ話は終わっていないでしょ』

「……僕には糖分補給が必要なんだ……ココアを飲むまではなにも考えられない……」

『ココア?』


 本当に甘い物が好きね、と呆れたように言うエルシーに反応せず、ダリルはまっすぐに厨房へ向かった。

 そして近くにいた料理人にココアを淹れるように頼むと、「いつものやつですね~、少しお待ちを~」と言う。


『あなた、いつも直接ここに頼んでいるの?』

「……僕は今、君と会話したくない……」


 耳を塞ぎ、会話を断固拒否すると意思表示したダリルをエルシーは冷たい目で見る。

 それにダリルの繊細な心はまた傷ついた。


 タイミングを見計らうかのように先ほどの料理人が湯気のたったカップを持ってきた。

 礼を言ってそれを受け取り、ダリルは香りを吸う。ココアの甘い匂いに少しだけ気持ちが浮上した。

 厨房の片隅でココアを堪能し、満足したダリルはお礼を言ってカップを流し台に置き、部屋へと戻った。


「……よし、話を再開しよう」

『単純……』


 エルシーの一言には聞こえないフリをして、少し前に侯爵家の執事から聞いた内容をメモした手帳を取り出す。


「僕の容姿の好みうんぬんについての件は後日よく話し合うとして……」

『それって話し合う必要があるの……?』

「君のところの執事によれば、君が発見された教会によく通っていたということだけれど、その教会には定期的に通っていたの?」


 エルシーのツッコミを聞かなったことにして、ダリルはエルシーに質問をする。

 それにエルシーはなにか言いたそうな顔をしたものの、素直に質問に答えた。


『ええ。毎月決まった日に通っていたわ』

「今日も通う日だった?」

『いいえ……あの教会には二日前に行ったばかりのはずだから、なにか用があって行ったのだと思うけれど……』


 その肝心な用が思い出せないらしい。

 とにかく、事故にせよ事件にせよ、エルシーの今日の足取りはしっかりと確認しなければならない。

 本人の記憶が当てにならない以上は、エルシーに親しい人物から話を聞く必要がある。


「その用についてなにか心当たりは?」

『……ごめんなさい、なにも思い出せないわ……でも、数日前になにか大切なことを教えてもらったような……そんな気がするわ』

「大切なことを、ね……。君がそのことを相談しそうな相手は? それと君が怪我をした日行動をともにしていたメイドか侍女の名前は?」

『そうね……相談するなら、お父様か執事のカーティスにだと思うけれど……その相談の内容によっては、その二人にも相談せずに自分でなんとかしようとしたかもしれない。それと、一緒に行動をした人については、いつもなら侍女のエブリンを連れて行くけれど、今日は休みだったはずだわ。だから、エブリン以外の誰かを連れていくとしたらミリーかしら……』


 少し自信がなさそうにエルシーは言う。

 とりあえずダリルはその二人の名前をメモに書く。そして新たなにエルシーの口から出た情報も書き加えておいた。


「なるほど。とりあえずまた明後日、この二人から話を聞くとしよう」


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