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p.32  困ったときは糖分補給


 オーウェンが帰ったあと、ダリルは自室に戻り、考えを整理することにした。

 オーウェンとの会話を終始聞いていたエルシーもなにかずっと考え込んでいるようだった。


 オーウェンから得られた情報によってわかったことは、エルシーを階段から突き落としたのだとしたらそれは教会関係者である、ということだ。


(ルーベン司教、シスターソフィア……それから、孤児院のブレイク神父も候補に入るか)


 そしてこの中に裏の世界と繋がっている人物がいる。

 その人物が裏の世界と繋がり、なにをしていたのか。どうしてエルシーがそれを知ってしまったのか。


「エルシー、君はどうおも――エルシー?」


 ダリルはエルシーに意見を聞こうとして話しかけ、ようやくエルシーの異変に気づく。

 彼女は目を見開き、両腕を抱えてガタガタと震えていた。


「どうした? 大丈夫?」

『殿下……子どもが……』

「子ども?」

『わたし、子どもたちがいなくなったことが気になって、それで……うっ、う……』


 エルシーは頭を押さえて踞る。


「まさか君、記憶が……?」


 ダリルの問いかけにエルシーは答えず、苦しそうな声をあげるのみ。明らかに様子がおかしいエルシーに、ダリルは近づく。


「エルシー、無理に思い出そうとしなくていい。落ち着いて、深呼吸を――幽霊が深呼吸してもリラックス効果はあるのか……?」


 混乱してダリルは自問自答をし出す。

 そんなダリルにつっこむ余裕もないようで、エルシーは弱々しい声を出す。


『殿下……ごめんなさい……わたし、少し眠るわ……』


 そう言うなりエルシーの体がすうっと消えた。

 突然の出来事にダリルは固まる。


「えっ。エルシーが消え……え?」


 今、目の前で起きた光景をなかなか受け入れられない。

 ダリルは心霊現象だとか非科学的なことが苦手だ。だから、ダリルにしか見えない半透明のエルシーのことだって受け入れるのに苦労したのだ。正直に言えば、完全に受け入れられてはいないのだが。


「…………とりあえず、糖分補給をしよう」


 そう思い立ったダリルは、とりあえず人を呼ぶことにしたのだった。




 一晩経ったら、いつものようにエルシーが半透明の姿でダリルを見ていた。

 あのまま消えてくれてもよかったのに、とダリルは内心思いながら、「おはよう」と挨拶をする。


「気分はどうだい?」

『もう平気よ。それよりも……犯人の目星、ついたのでしょうね?』

「おや、記憶が戻ったわけではないのか」

『ええ、残念なことに。でも、うっすら思い出したことはあるわ』

「へえ。それはどんな?」

『どうやらわたしは子どもがいなくなったことについて調べていたようだわ』

「それは……ブレイク神父が言っていた件のことかな」

『ええ、そう。それを調べるために、図書館で新聞記事を読んでいたの』


 そのことを思い出したということは、それはエルシーの事件にもが関わる記憶なのだろう。


「子どもがいなくなったことと裏の世界の繋がり、か……うん、見えてきたな」

『犯人がわかったの⁉︎』

「犯人候補なんて場所からして絞られるじゃないか。あとは……裏取りだな。そのあたりはオーウェンの伝手を借りるとして……兄上たちにも話を聞く必要があるかな……」

『ちょ、ちょっと待って。誰が犯人なの?』

「まだ僕の憶測でしかない。裏取りができたら教えよう」

『今教えてくれてもいいじゃない……』

「いや、間違っていたら君、怒るだろう?」

『それはそうよ』

「僕は怒られたくないんだよ」


 切実な願いを込めて言うと、エルシーは呆れた顔をする。

 どんな顔をされても、きちんと裏が取れるまでは言わない。間違っていたとき、絶対に酷い言葉を浴びせられるからだ。そんなことをされたらしばらく立ち直れない。ダリルは繊細なのだ。


『……オーウェンに貸しを作ると痛い目に遭うわよ』

「なにを言う。この僕と直接取引ができるんだぞ? それだけでどれほどの利益が得られると思っている。それを考えれば快く引き受けてくれるはずさ」

『……わたしはきちんと忠告しましたからね? あとで後悔しても知らないわ』

「はっはっはっ。後悔なんてするわけないだろう」


 そう言って笑い飛ばしたダリルを、エルシーはなんとも言えない顔をして見つめた。

 それに嫌な予感がしたものの、ダリルは気のせいだと思い込むことにした。


 それからオーウェンに連絡を取り、ダリルのほしい情報を入手してもらう手筈を整えた。

 そしてそれはすぐに届き、オーウェンからの報告書を読み込む。


「……なるほどね。やっぱりそうか」

『あなたの予想通りの結果だった?』

「ああ。僕の読みに間違いはなかった。君にとっては残念なことかもしれないけれど」


 オーウェンからの報告を待つ間に、兄たちにも話を聞いていた。そしてオーウェンからの報告書を読んで、ダリルの予想は確信に変わった。


『その相手が誰であれ、法を犯したのならば罰せられなければならないわ。そして罪を償ってもらわないと』

「覚悟はできているようだね」


 そう言ったダリルにエルシーは力強く頷く。


「――よろしい。では行こう。事件の真相解明といこうじゃないか」

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