p.31 オーウェンの情報
「……エルシーが変なことを嗅ぎ回っていると耳に挟んだんで、その忠告をしただけですよ。おまえ、ヤバイ連中に目をつけられているぞってね。オレは殿下に相談した方がいいと言ったんですがね、あいつ言うこと聞かなくて」
「変なこととは?」
「あんまり殿下の前で言うような話じゃないんですけど、この国にも裏の世界ってもんがあって、それにエルシーの知り合いが関わっているようなんです。それであいつ一人であちこち調べ回っていたらしくて、裏の奴らに目をつけられそうになっていたんですよ。だから、おまえの調べている件から手を引けと言ったんですが……手を引かなかったみたいですね。まあ、その結果があの大怪我なんでしょうね」
そう言ってオーウェンは肩を竦める。
だから言ったのにと言わんばかりの態度だ。
(エルシーが心配するなんてありえないって笑っていたけれど……本当に心配しないんだな……いったいどういう関係なんだこの二人は……)
ただの幼なじみにしては淡白すぎる。
よっぽど嫌いなのか、それとも逆に信頼しているからこそなのか。
「正直、エルシーの自業自得だとは思いますが……でも、話を聞く限りだと裏の奴らのやり方にしては生温い気もするんですよね」
「その点は僕も同意する。本当にエルシーを消そうと考えていたのなら、やり方が中途半端すぎる」
「ええ、そうですね。オレの個人的な見解ではエルシーを突き落とした犯人は完全な裏の人間ではなく、その下っ端または下請けをしている人物。やっていることは犯罪だが、裏に所属しているわけではない中途半端な人物――だからこそ、エルシーはまだ引き返せると考えたんじゃないですかね。オレからしてみれば、裏と関わった時点でアウト判定ですが」
それならエルシーの行動も納得できる気がする。
エルシーはなんとかその人物を更生させたかった。そのために説得をしようとして、階段から突き落とされた――。
(その人物は教会関係者。そしてエルシーと親しくしていたのは……)
「エルシーが出入りしていた図書館、そして喫茶店。そこによく顔出す教会関係者――それがエルシーに怪我をさせた犯人でしょう」
「そこまでわかっていながら、なぜ誰にも知らせなかった?」
「オレがエルシーの怪我について知ったのは、殿下から連絡があったと聞いてからです。オレと殿下に接点はないし、あるとしたらエルシー絡みのことだろうと調べて初めてエルシーが怪我をしたことを知りました。それに警察も侯爵家も事故と結論づけている。留学しているオレが『これは事故だ!』と騒いだところで、相手にしてもらえないのは目に見ていることですし」
確かにその通りだ。
侯爵家も警察も事故としか認識していない。そんな中で「これは事故じゃなくて事件だ!」とオーウェンが主張したところで、留学していたおまえになにがわかるんだと一蹴されることを想像するのは容易だ。
「でも……殿下なら、どちらも話を聞いてくれるでしょうねえ」
「どうだろうね」
ダリルはそう答えつつも、自分ならばどちらも耳を傾けてくれるだろうという確信があった。
なぜなら、ダリルは『王子』だからだ。
王族の意見には、否が応でも一応耳を傾けざるをえない。それがたとえ突拍子もないことであっても、一応は聞いて検討はしなくてはならない。それくらいの権力がダリルにはある。
「にしても……侯爵家はともかく、この国の警察も落ちたもんだ。事件の可能性を考えてもいないなんて。なにか巨大な権力が動いているんですかねえ?」
そうオーウェンはポツリと言った。




