p.22 行方不明の子ども
「オッホン! あー、二人とも、僕の話を聞いてもらってもいいかな?」
ダリルの言葉に二人はハッとした顔をする。
そしてルーベンは申し訳なさそうな顔をし、ブレイクは少し拗ねたように顔を逸らした。
「申し訳ありません。殿下の御前でみっともない姿を晒すなど、あってはならないことでした。……ほら、ブレイクも謝罪を」
「……悪かったよ」
渋々と謝ったブレイクにルーベンは苦々しい顔をする。
また説教を始めそうな雰囲気だったので、ダリルは慌てて口を開く。
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。それよりも、僕はブレイクに聞きたいことがあるんだ」
「俺に王子様が? ……言っておくが、エルシーお嬢さんと俺はなんでもないぜ。お嬢さん、俺のタイプじゃないし」
そう言い切ったブレイクをエルシーがものすごい目で睨む。
これが見えていないブレイクは幸せだなとダリルが思っていると、突然ブレイクが体を震わせた。
「な、なんだ……? 突然寒気が……風邪ひいちまったのか……?」
首を傾げるブレイクをスルーし、ダリルは話を続ける。
「それは疑っていないよ、もちろん。僕が聞きたいのは、数日前にここをエルシー嬢が訪ねたとき、なにか変わった様子はなかったかということなんだ」
「お嬢さんに変わったこと? なんでそんなこと……」
ブレイクは不思議そうな顔をする。それを見て、彼はエルシーが怪我を負ったことを知らないのだと気づく。
ルーベンを見ると首を横に振った。
「すみません、君に伝えていませんでしたね……実は、エルシー様がうちの教会の階段から落ちて怪我を負われたのです」
「なんだって……⁉︎ なんでそんな大事なことを今まで黙っていたんだよ!」
「すみません……子どもたちを動揺させるわけにはいかないと思い……なかなか君と二人きりになる機会もなくて、言いそびれてしまいました」
頭を下げるルーベンにブレイクはまだ文句を言いたそうな顔をしたが、ぐっと堪えてこう問いかけた。
「……それで、エルシーお嬢さんの具合はどうなんだ?」
「命に別条はないそうだけど、まだ意識が戻らないんだ」
「……そうか……」
ブレイクはそう言って俯いたが、すぐに顔を上げた。
「……お嬢さんの様子が知りたいんだったな。それがお嬢さんの怪我となにか関係があるのか?」
「まだなんとも言えない。ただの事故であればそれに越したことはないけれど……」
「そうじゃない可能性もあるってことか。……そうだな……お嬢さんは四日前と二日前に来てくれたけど、そのときのお嬢さんの様子はいつもと変わらないように見えたぜ。子どもたちとも仲良く遊んでいたし」
「そうか……それが聞けてよかった。忙しいところにお邪魔をしてしまって悪かったね」
「いや……お嬢さん、早く目を覚ますといいな」
ブレイクのその言葉は、ダリルに向かってというよりも自分に向けてのもののように感じた。
ここでエルシーは彼らとよい関係を築いていたのだろう。
ダリルは頷く。
先にルーベンが部屋を出て、そのあとにダリルが続こうとすると、「……そういえば」とブレイクが声をあげた。
「なにか思い出したことでも?」
「いや……俺の気のせいかもしれないんだが……最近一人の子どもがいなくなっちまってな。警察にも相談して捜索してもらっているんだが、まだ見つからなくてな……ここ数年こういうことがたまにあるんだ。孤児院のガキなんていなくなっても誰も困らねえだろうって攫う輩がいるみたいでな。それで、それをエルシーお嬢さんに話したとき、一瞬だけ怖い顔をしたんだよ」
「怖い顔?」
ここ数日で何回も見た顔だが、エルシーはダリル同様外面がいい。そんな彼女が一瞬とはいえ怖い顔をしたのはなぜなのか。
「本当に一瞬だったけどな。それにまさかって小さく呟いてた気もする。……これ、なんかの参考になるか?」
「ああ。とても貴重な情報だよ。ちなみにそれはいつの話だい?」
「四日前にお嬢さんが来たときに話したぜ」
「そうか、ありがとう」
「いいってことよ。お礼は今度はお嬢さんと一緒に、手土産たくさん持ってきてくればいいさ」
「わかった、約束しよう。今度はエルシー嬢と一緒に来るよ」
そう言うとブレイクは「おう」と笑う。
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