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p.21 孤児院の神父


 それからルーベンにもアビーたちと同じくらいの娘がいるという話を聞いていると、孤児院の玄関が騒がしくなった。


「先生、大丈夫?」

「もうジジイなんだから無理するなよなー」

「俺はまだ二十七だ……断じてジジイではない……!」

「でもギックリ腰やってんじゃん。ギックリ腰やったらジジイの証だってブレッド爺ちゃんが言ってたぜ」

「なんだと……!」

「もう、二人ともケンカしないの! 先生、お医者様から安静にしなさいって言われているんだから!」


 少年と少女に両脇を支えられて入ってきたのは、ヤンチャそうな若い青年だった。

 首に下げたロザリオが聖職者の証だが、とてもではないがそんな風には見えない容貌だった。


「ちくしょう、マックス……俺の腰が治ったら覚えておけよ……」

「あんた、腰が治る頃にはこのこと忘れてんじゃね?」

「なにをぅ……!」

「相変わらずですね、ブレイク君」

「ああん? ……げっ、ルーベン司教……」


 ブレイクはルーベンを見るなり露骨に顔を顰めた。

 そんなブレイクにもルーベンの穏やかな表情は崩れない。


「言葉遣いがなっていませんね、ブレイク君。今一度、私の講義が必要なようで――」

「いらねえ! 大きなお世話です! そんなことより、隣にいるのは誰だ?」

「先生、とりあえず座った方がいいわ」


 ブレイクは二人に促され、近くの部屋に入る。それにダリルとルーベンと続き、そこにある比較的クッションのよさそうな椅子に「いてて……」と声を漏らしながら座る。

 少女がどこかからクッションを持ってきて、ブレイクが楽になるように背に押し込んでいく。


「ありがとな、ベランカ。……とついでにマックス」

「俺はついでかよ!」

「はいはい、怒らないの。ほら、先生たちの邪魔になっちゃうから、わたしたちは部屋を出るわよ」

「ちぇ……」


 マックスと呼ばれた少年は少女には勝てないらしく、大人しく従って部屋を出ていく。

 ベランカは部屋を出る前に会釈し、マックスのあとを追う。


「あのベランカという子……とてもいい子だな」

「お兄さん、お目が高いね! ベランカはうちで一番の器量の良しさ。別嬪だし、こんなところにいるのはもったいないくらいだ。どこかの貴族様か金持ちのボンボンに貰われたらいいんだがなぁ……」


 そう言ってベランカたちが去っていった方を見るブレイクの目はとても優しい。

 ちゃらんぽらんな見た目と言動の青年だが、子どもたちにはきちんと愛情を持って接しているようだ。


「……それで? お兄さん、誰だ? 見たところ、どこかのお貴族様のようだが……まさかっ! 嫁探しに⁉︎」

「こら、ブレイク。失礼ですよ」

「ただの冗談だろ〜。こっちは腰が痛くて死にそうなんだ。冗談くらい許せよ」


 どうやらルーベンとブレイクは気心知れた仲のようだ。まったく、と息を吐いたルーベンとブレイクは親子のよう。


「名乗り遅れて申し訳ない。僕の名はダリル。婚約者のエルシー嬢がお世話になっているそうだね」

「エルシーお嬢さんの婚約者……? それってあの……」


 ブレイクは驚いた顔をしてダリルを見て叫んだ。


「――ナルシスト王子か!」

「…………は?」


 今、とても聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。

 固まるダリルとルーベンに、ブレイクは一人納得した顔をして何度も頷く。


「いやあ、お嬢さんから聞いていたけど、本当に顔がいいなあ、あんた! 俺が女なら惚れてるね! 本当に世界一顔のいい王子という名も伊達じゃねえなぁ! アイテッ」


 勢いよく椅子から立ち上がろうとしたが、腰の痛みですぐに椅子にもたれかかる。


「ブレイク! 殿下に失礼ですよ!」


 ダリルよりも先に我に返ったルーベンがブレイクに詰め寄る。


「えー、でも心からの言葉だし……」

「もっと言い方があるでしょう! だいたい、あなたはいつも後先考えずに動くのをどうにかなさいといつも言っているでしょう⁉︎」

「あーはいはいすみません〜」


 耳を塞ぎながら謝るブレイクにルーベンがさらに怒る。

 そんな二人のやりとりをダリルは眺め、やれやれと言う顔をしているエルシーにそっと耳打ちする。


「……この二人、いつもこんな感じなのか?」

『ええ、そう。いつもこうなの。大方は大人気ないブレイクが悪いのだけどね……』

「ふうん……」


 仲がいいのか悪いのか、よくわからない二人である。


「それで? 君は彼らに僕の悪口を吹き込んでいたと?」

『あら、なんのことかしら』


 惚けるエルシーを睨み、あとで絶対ブレイクから聞き出すとダリルは誓う。エルシーから聞き出さないのは、彼女に口で勝てる自信がないからだ。その点、ブレイクなら簡単に聞き出せそうである。


 一旦自分のことは置いておくことにし、まだ言い合いを続けている二人にわざとらしく咳払いをする。

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