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男子高校生は異世界で育て親になる

地球で最後の一人の生き残りとなった男子高校生が異世界で聖女となって、神と崇められながらも、真っ直ぐに生きていくお話です。

王宮までは馬車での移動となった。

昨日、別邸に案内された時も馬車を使っての移動だったけれど、その時の馬車は、華美さを省いた実用的なものだった。しかし、今、目の前に用意されているのは純白の2頭の白馬に引かれた煌めく馬車。いたるところに金の飾りがほどこしてあり、まるでおとぎ話にでてくるような、豪華さだった。

圧倒されながらも、ギルにうながされるまま、馬車に乗り込み、数分もしないうちに王宮の正面玄関へと到着する。

そこでは数えきれないほど、多くの人が列をなして待ち構えていた。

ギルは馬車から先に降りると、私のエスコートして馬車から下ろす。

中身は男子高校生なのだから、本当は飛び降りても平気なくらいなのだけれど、着なれないドレスが、その思いを止まらせた。淑女として振る舞わないとね。


そして、一歩足を外に出した途端、周囲から大きなどよめきが起きる。

あ、そうか、ギルは王様だから。それぐらい慕われていて特別な存在だってことだよね。

そう納得していたら、ギルは周囲をぐるっと見渡して

「セイ様だ。みな、失礼のないように」

まるで威嚇するように、威厳のある声で命じた。

急に熱気がしゅんと寝ったのを感じた。

さすが、王様だな。場の雰囲気をガラッと変える。

上に立つものはこうでなくては務まらないのだろう。


ギルに手を取られたまま、佇む人々の前を通りすぎる。

「・・・っ。」

「はぁ・・」

そんな風に息を飲む声が聞こえてくる。

よっぽど、ギルは恐れられているのだろうか?

そのまま大広間の玉座へとギルは立つ。

私はその隣に立たされるけれど、この位置は本来ならば王妃が立つ場所だろう。

その場所に立つべき人がいないということは、ギルはまだ独身なのかもしれない。

見たところ20代半ば。こんなに若く王様なんて、たいへんだよな。

そんなことを考えていたら、先ほど待ち構えていた人たちも大広間に入ったようだった。

おおよおそ200名ほどの貴族たちが王を注目していた。


ギルは居並ぶ臣下を見据えてこう告げた。

「こちらは昨日、わが国の困難を救うためにやってきた聖女、セイ様だ。私たちの身勝手なお願いで

お呼び立てしたのだから、みな、心してお支えするように」

皆の注目が突き刺さるのを感じる。

期待に満ちているような、好意的な雰囲気が溢れているようで、安心する。

そして、ギルはこちらを向いてこう言った。

「ここにいる者たちは、みなあなたの家臣です。あなたをお守りいたします」

大袈裟でもなく、心からの言葉に、小さく頷いて答えた。

でも、ドラゴンの卵を守るって、具体的になにをすればいいのだろう?


そう思っていたところ、王座のある左奥の通路から、3名の女性が姿を現した。

真っ白な飾り気のないワンピース姿。顔はベールで覆われていて表情はみえない。

その中で、中央にいる女性だけが、黄金に光る布を大切そうに抱いていた。


「セイ様、こちらの中には我が国の守護神ドラゴンの卵があります。」

近づいてくる女性に気を取られていたら、いつの間にかすぐ隣にギルが立っていた。

そして女性から金の布に包まれたままの卵を受け取る。え?触っても大丈夫なの?

たしか昔、卵に触った皇女さまが亡くなったってオイリーから聞いたけれど・・。

その疑問に気付いたのか、ギルは

「この布は魔力の吸収を防ぐ特別な布なんです。初代聖女様の‘祝福’がされていると言われています。ですから、少しの間なら、魔力を持つものでも触ることができるのです。」

だから、数日前に卵が生まれた時に、ドラゴンの棲家の北の森から、布でくるんで王宮まで運ぶことができたのだという。

「ですが、このままではドラゴンは育つことができません。ドラゴンは魔力を栄養に育ちますが、それでは国民すべての生命を捧げることになります。ですが聖女様のもつ‘祝福’の力があれば、ドラゴンは100日後に無事に生まれ変わることが言い伝えられています。そして、もちろん聖女様も命を落とすことなく健やかに過ごされたこともわかっています。」

そういって、ギルはそっとドラゴンの卵の入った布を、私へと捧げるようにさしだした。

「どうか、この国と、ドラゴンのために。」

これって、受け取れっていうことなんだよね?

周囲をそっと見渡すと、集められた貴族たちも緊張した面持ちで見守っている。

人生すべてがかかっている。

それほどの重大な責務のようだった。でも不思議と恐怖はなかった。

それよりも生まれてくるというドラゴンを早くみてみたいと思った。

「私でよければ」

そう言って、金の布ごと卵を受け取る。

受け取った瞬間、ビクビクっと、卵が揺れたように感じた。

え?もしかしてヒビでも入っているのかな?

心配になって布をめくり、中から卵を取り出してみる。

ギルは、びっくりして止めようとしたが、間に合わなかった。

両手にすっぽりと入るほどの金色の卵だった。

うっすらと透けていて、思ったよりも小さくて、そして柔らかい。

布が邪魔になったので、マナーが悪いかもしれないけれど床へと落とす。

ドクンドクン。

胎動のような音を感じた。

本当に卵の中にドラゴンがいるんだ。

じっと抱え持っていると、周囲から、小さなどよめきがおき、それはしだいに大きな歓声となって大広間を埋め尽くした。

「聖女さまだ」

「聖女様」

「ありがたいことだ」

国が救われた、なんという美しさだ、奇跡だと感動のあまり咽び泣くものまでいる。

ただ、布から卵を取り出しただけなのに?

この人たちは大丈夫かな??正気かな?

びっくりしていると、ギルも目尻に涙を溜めながら

「セイ様、ありがとうございます」

そう深々と頭を下げたのだった。

読んでいただきありがとうございます。初めての小説の投稿なので慣れないこともありますが、読んでいただいて一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

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