第1話 男子高生は夢だと思うことにする
地球で最後の一人の生き残りとなった男子高校生が異世界で聖女となって、神と崇められながらも、真っ直ぐに生きていくお話です。
ざわめきが聞こえてくる。
あの真っ白な場所から吹き飛ばされ、着いた場所は、
聖女を召喚する儀式を行なっていたギルリアン王国の広間だった。
もちろん地球ではない、別の星らしい。
床には円形に光る不可思議な承継文字がびっしりと刻まれており
金の豪華な縁取りをされた4枚の鏡が四方に並んで、俺の姿を隠しているようだった。
後から知ったのだが、聖女召喚の儀式で必要とされる神の道具が
この高さ2m幅1mほどの鏡。
この国では、過去に3回鏡を使った聖女召喚に成功しており、
4回目の今回は新たに1枚鏡を増やして儀式を行ったそうだ。
その鏡の飾りの豪華さよりも、その鏡に映っている姿に驚いた。
真っ白な肌、銀とも金とも見れる不思議な光彩を放つ長い髪は
さらさらと絹糸のようにまっすぐに腰辺りまで伸び
鏡を見つめている瞳は青とも紫とも見える深い色。
まつ毛の1本1本が長く、切長の瞳を大きく見せている。
スッと通った鼻梁は高く、しかし小鼻は控えめ。
少し息苦しそうに開かれた唇は薄い桃色。
でも、どこか見たことがあるような懐かしさを感じられた。
衣服は、ギリシャ神話にでてくるような白いシンプルなもの。
余計な飾りやないため、神々しさを引き立てているように思える。
この鏡に映る人は・・。
「・・・だれ?」
そう呟くと、鏡の主も同じように口を動かした。
びっくりして、自分の顔をに触れる。すると、鏡の中も同じ動きをした。
「・・え?」
俺、黒髪で黒目の普通の男子高生だったし
たしか学ラン着ていたはずだったんだけど。。。。
この状況はいったい????
戸惑っていると、突然、四方を囲っていた鏡の一部が少し動いた。
そして人一人分が入れそうな隙間から、
見知らぬ男の姿が現れる。
まるで映画にでてくる中世の騎士のようないでたち。
茶色の髪、瞳。くっきりした顔もハリウッド俳優のようだ。
男は何か言葉をかけようとしたようなのだが
見上げた俺と目が合うと
「!!。」
と目を大きく見開いて、固まってしまう。
実は俺はこの時、あまりにもショックで少し涙ぐんでいた。
そんな泣きそうな顔で彼を見上げてしまったからかも驚かせたのかもしれない。
しかし、動きが止まった男の後ろから
「王、どうされましたか?聖女はいらっしゃいましたか?」
そんな風に、数人の中年男性が慌てたように我も我もと顔を出す。
そして俺の姿を確認すると
「・・・・!!」
「おっ・・・」
「・・は?!!・・」
一様に言葉を詰まらせて固まっていく。
一体、なんなんだろうか、この人たちは。
そしてここは、どこで、なんで俺はこんな
姿になって、ここにいるんだろうか?
次から次に湧いてくる疑問に、一番最初に顔を見せた男が答えた。
どうやら男は冷静さを取り戻したようで、俺の前にすっと膝をおとし頭を深く垂れた。
「驚かせてしまってすみません。
私はギル。ここはギルリアン王国の宮殿です。このたび国に困難が襲いかかり、神に聖女を使わしていただくようにと願い、儀式をとりおこなったところあなたが現れました。」
そういって、ギルは顔を上げると、まっすぐ俺の瞳を見て
「あなたはこの国をすくってくださる聖女です。どうかお力をおかしください。」
そう真摯に告げたのだった。
それからは、まずは休息してくださいということで、ギル自らの案内で、聖女の暮らす別邸(なんと王宮の敷地内にある)過ごすことになった。
この国では聖女の召喚は過去3度成功しているそうだ。
1.召喚した人物は異世界からくる
2.自分が聖女だと思っていない
3.ゆっくり気持ちの整理をさせる
4.言語は通じるが習慣がちがう
5.聖女ではあるが性別年齢はさまざま
6.どんな能力があるかも聖女によりさまざま
このことが大前提になっているそうだ。
そのため、国の困難のために召喚しても戸惑っている聖女に、何かをしろと迫ったり無理やり閉じ込めたりしてはならず信頼関係を築くことから始めることを大切にしているらしい。
それは初代聖女が後に王と結ばれ王妃となり、自らの経験をもとにした書物もできていたからだと、後から聞かされたのだった。
一体、俺はどうなってしまうのだろうか・・・。不安な中、異世界の人生がスタートしたのだった。
聖女が暮らす別邸。
そこは2階建の瀟洒なレンガ作りの建物だった。
王宮の東側(一番初めに日の光が射す場所)に位置しており、明るい色の木材と、ベージュ色の明るい壁。贅沢というよりは、簡素でいながらも、品が良いといった印象を受けた。
1階部分には来訪者と会うためのサロンがあり、3人がけのゆったりとしたソファーも柔らかなベージュ色の革張り。向かい側に同じ素材を使った一人掛けの椅子が3つ。
南側にバルコニーが設置され、さまざまな色合いの花が左右に咲いているのが見えた。そのバルコニーの先には散策できそうな広さのある庭園が広がっている。
わけもわからないまま異世界にやってきた俺を落ち着かせるためにギルにつれてこられた別邸。
「こちらにおかけください」
ギルは3人掛けのソファを勧め、自らは向いの一人掛けの椅子へと腰掛けた。一緒に着いてきたそうなそぶりを見せた人も何人かいたけれど、宮殿で待っているようにとギルが言い含めていた。
見知らぬ土地にきた聖女に負担をかけないようにとの配慮だったらしい。
とにかく、自分が今どうなっているかもふくめて、すべてに理解がついていけなかった俺は、危害を加えなさそうなギルに従うことに不服はなかった。
ギルという男性は、背も高く、鍛え抜かれた騎士のような雰囲気をもっているけれど、物腰はとても柔らかく丁寧だったからだ。
椅子に座ったギルが2度手をたたくと、サロンの奥の扉からティーカップをトレイにのせたメイド風の衣装をきた俺の母親くらいの年齢の女性と、いかにも騎士という格好をした黒髪で黒衣の男性が現れた。
「紹介しましょう、彼女はオイリー。衣食住のお手伝いをする者です」
オイリーと呼ばれた女性は静かに頭を下げて礼をする。
そして音もなく近づきトレイにのせていたティーカップをテーブルに置き、すっと下がった。
「そして彼はショウ。護衛をさせていただきます。」
彼もまた静かに頭を下げた。
そしてギルは用意された飲み物をどうぞと勧める。
白いティーカップに注がれた飲み物は紅茶のように見える。
どんな飲み物かわからなかったけれど、緊張していて喉が乾いていた。
手にとって、一口飲んでみた。やっぱり紅茶だ。
しかもフルーティーな花のような適度な甘さ、ほっとする温かさ。
こわばっていた身体が少し和らいだように感じた。
そんな俺の様子を見たところで
「私はこの王のギルです。」
ギルはそう穏やかに微笑んだ。
王様?そういえば、さっき、そんな風に呼ばれていたような・・。
鏡に囲まれてこの国にやってきた時のことを思い出す。
王様と言われても、今ひとつまだピンとこない。
そもそも、ずっと夢の中にいるみたいで。
明らかに外国なのに、なんで言葉が通じているのかなとか
まったく聞き覚えのない国なのに、生活習慣が似ているなぁとか。
やっぱり夢なんじゃないかなって、ぼんやり考えていて。
目の前にいるギルの顔をじっと見てしまう。
ギルは男の俺から見ても、とてもハンサムに見える。
鼻筋が通っていて、美術室にある石膏像のような彫りの深い顔立ち。
髪はブラウンかと思っていたけれど、濃いブロンド。
目は淡い水色をしていた。
まつ毛は金色で、バサバサという音が聞こえそうなほど密に生えていて、そんなことに気がとられてしまっていると
「・・・そんなに見つめないでください」
そう言って、ギルは照れたようにうつむいた。
ちょっと見すぎていたみたいだ。
「今日はお疲れだと思います。ゆっくりお休みください。着替えや食事などはオイリーに遠慮なく申し付けてください。明日、あらためて時間をいただこうと思います。」
そういってギルが去った後、これからどうしたらいいかとソファーに座っていた俺に、オイリーが食事が必要かと質問された。とくに空腹を感じていなかったので首を横に振る。
すると、オイリーは
「それではお湯あみを」と有無を言わさむ迫力で浴室へと連れて行かれた。
身につけていた白いギリシャ風衣装をあっという間に脱がされる。
ものすごく手際がいいので抵抗できない。
俺17歳の男子なんですけどと、慌てて前を隠そうとして、あるはずのものがないことに「!?」と衝撃を受ける。
固まってしまった俺を、オイリーは大理石でできた寝台に寝かせた。
え?どうなっているの?俺、どうなっちゃったの。
混乱している間に。オイリーによってあっという間に身体を清められ、髪も丁寧に拭われていく。
どうやらこの国には風呂という概念はないらしい。
日本人はなみなみと湯の張られたバスタブにゆっくりつかるものだけれど。
特製の石鹸で全身をくまなく磨かれて最後にお湯で流すという方式のようだった。
横たわらされている寝台のような大理石は、適度に温かく熱を発しているので、裸にむかれても
寒くないのが不思議だ。どういう構造なんだろう?
しかもシャワーは部屋にはなかったはずだ。
どこからお湯をだすのかな?思っていたら、オイリーの掌から、透明のお湯がどこからともなく溢れて、石鹸まみれだった俺の体を、ちょうどよい水温で洗い流していく。
えぇ〜!これってどういうこと??
びっくりして、なすがままでいると、泡を流し終わったオイリーの手には、これまた次はどこからともなくふかふかの白い布が現れた。
その布を広げて、オイリーはとても丁寧に俺の全身を拭きあげた。
それから、髪を乾かしてくれたのだけれど、これも、またオイリーの掌から熱くも冷たくもない風が吹いて、まさにドライヤーのよう。そして、すべてが清められた俺は白いワンピースを着せられて、2階にある寝室に案内された。
部屋は広く、南向きの明るい窓があった。その窓のすぐ脇に座り心地のよさそうなゆったりとした
一人掛けのソファーとサイドテーブル。ベッドは映画で出てくる西洋の王様が眠るような天蓋付きの立派なもので、一人といわず3人は眠れるくらいの幅があった。
「必要なものがありましたら、遠慮なくお知らせください」
オイリーはそれだけいうと、そっと部屋を出ていった。
俺はそこで、ようやくほっと肩の力を抜きベッドに突っ伏す。
まずは、状況を把握しなくてはと思った。
ここはギルリアン王国。
そして何かたいへんな困難があって呼び出されたのが俺。聖女だそうだ。そしてなぜか俺は、男として、大事なものがない姿になっていた。
「・・・やっぱり夢かな?」
あるものがあった場所を、そっと服の上から触れてみる。
やっぱりそこにはない・・・・。
「うん。夢だ。」
俺はそう判断した。とにかく何もかもがおかしい。
こんなに非現実的な夢を見れるなんて、俺はすごい想像力があるんじゃないかな?
そんなことを考えているうちに、本当に眠ってしまったらしい。
用意されていたベッドは見た目だけではなく、寝心地もふわふわの極上の寝具が使用されていたからだった。
読んでいただきありがとうございます。初めての小説の投稿なので慣れないこともありますが、読んでいただいて一緒に楽しんでいただけたら幸いです。