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氷雪のフルーレ  作者: たなぼた まち
はじまり
9/40

09

「二人ともちょっとごめんなさいね」

「あぁ、構わないよ。私はもう終わるところだ」

「私もここに全部あるので大丈夫です」


 ユキが持ってきた桶の中には持ってきた全ての衣服が入っていた。


 ハリー夫人は持ってきた服を川へ放り投げた。

 流れがゆっくりな川なので勢いよく流れていくことはなく、たゆたうように流れている。


「〈水よ、渦巻け!〉」


 ハリー夫人の前に光り輝く、急いで書かれた荒っぽい丸が現れる。

 その丸の中に雫を想像させる形が浮かび上がる。


 それは魔方陣だった。


 途端、先ほどまで静かだった川の一部が渦を巻き始め、ハリー夫人が投げた衣服がその渦に巻き込まれる。

 しばらくしてハリー夫人が口を開く。


「〈解除(リリース)〉」


 その一声で魔方陣は消え、荒れ狂っていた川はいつもの穏やかさを取り戻した。


「〈風よ、舞い上がれ!〉」


 次もまた同じように荒っぽい丸が浮かび上がり、今度は丸の中に斜め横の三本線が現れる。


 水面から衣服が舞い上がる。

 そしてあちこちからの柔らかな風に一分ほど吹かれ、ハリー夫人の手元へ戻ってきた。


「風で畳めればいいんだけどねぇ、さすがにそんな器用な魔法はできないわ」

「私たちにそんなことできるわけがないさ」


 ハリー夫人は「それじゃあ、また」と言い残して、来たとき同様にスカートを翻しながら走って帰っていった。


「魔法は便利なんだけど、魔力量が少ない一般人じゃ疲れるからね。きっと彼女、夜は疲れ果てて深い眠りにつくだろうね」


 困ったように笑いながらフォーマ夫人は自分の洗濯桶を小脇に抱え立ち上がる。


「それにこの国では、あの魔法以外のものを女が使うと嫌な顔をする奴らが多いから、普通の生活をするには魔力なんて無くていいんだよ」


 フォーマ夫人はキラキラと光り輝く川を見て、目を細める。


「静かで穏やかな女であること。慎ましく旦那の後ろに控える女であること。非力で可憐でたおやかな女であること」


 その視線を川からユキへ向ける。


「これがこの国の女のあるべき姿らしい」


 馬鹿らしいだろう、と彼女は呟いた。


「非力だったら畑仕事も牛の世話もできるわけないだろうに」


 日に焼けた逞しい腕が洗濯桶を抱えている。

 フォーマ夫人は確かに可憐とはかけ離れている。

 明るい太陽のように豪快な人だ。


「ユキ、お前はどういう生き方をするんだろうね」



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