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先を走ると崖が見えて来た。この上にゴールはあるようだ。
真っ直ぐそのまま道を走る受験生と、崖を登ってく受験生の二手に分かれていた。
魔法を使わない者は落ちる可能性を吟味して、走るルートを選んでいるように見えた。
しかし、ユキは初めに決めた通り目標が明確に見える崖を進むことにした。
落ちないように気を付けて登っていくと、良い感じに手足が引っ掛かる場所があることに気が付いた。これならと思い、登っていく。
ある地点に到達する頃、右手を伸ばし、岩場を掴むとガラッと掴んだ部分が崩れ、態勢を崩した。
落下の二文字が頭を過る。
そこそこの高さまで登って来たので、落下すれば命の危険もある。
青ざめ、左手に即座に力をこめた瞬間、誰かがユキの右腕を掴んだ。
「大丈夫か」
声をかけられ、ゆっくりと声の方を向くとそこには先程、風の魔方陣に乗っていた青年がいた。
今もまだそれに乗って上に行く途中のようで、彼はユキの腕を支えながら「一歩登れるか」と尋ねた。ユキは言われた通り、一歩分登ると安定した岩場があるところで彼はユキの腕を離した。
「落ちたとき用に魔法が張られているとはいえ、落ちたら痛いぞ。気をつけろ」
魔力のないユキには分からなかったが、念のために魔法で守ってくれているようだ。
「助けてくれてありがとう」
素直にお礼を言うと、青年はそのままふわりと空へ舞い上がって行った。
あっという間に頂上に到達した姿を見て、ますます魔法は便利だなと思った。
しかし無い物ねだりをしても仕方がない。
次は無いぞ、と己を鼓舞して、ユキは崖を登っていく。




