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どれだけ走ったのか。
少し離れたところで十数人の受験者が座り込んでしまった。
そしてまた後方を走る受験生の足がもつれ、その輪の中に加わることになる。
いつも走り込みをしていたユキにも疲れが出てくる頃だった。
額から流れてくる汗を袖で拭う。
変わらないこの状況に誰もが終止符を打ちたくなってきた頃、先頭を走る短髪の青年に異変が起きた。
「むっ!?」
一人叫んだかと思ったら、彼の姿が消えた。
周りの受験生は突然消えた彼に驚き、どこへ行ったのか行方を捜したが、それに次いで他の受験生たちも姿を消し始めた。
「消えた奴らは走り終えたってことか」
走り始めて約一時間半。
個々が走るスピードは違う。
先頭を行く彼らはだいぶ飛ばしていた。
「俺、もっと速度上げなきゃ」
「これ以上は、無理だ……」
逆算をし、速度を上げる者が増える。
ユキも同じように速度を上げる。
早めに抜けておかないと、崖を登る時間が無くなる。もしかしたら迂回ルートもあるかもしれないが、迂回するのにも時間がかかるはずだ。目標地点までどれだけかかるか分からない迂回ルートより、目標地点が見えている崖を登るルートにしようとユキは決めた。
徐々に消えていく受験生たち。
荒れる息を整えつつ、走っていると、右足を前に出した瞬間、目の前がぐにゃりと一瞬揺れた。
「っ!?」
驚き、走る速度が落ちる。
景色は変わらず森のままだったが、今までとは明確に違うことがあった。
景色が動き出した。
ユキが止まれば景色も止まる。
ユキが走れば景色も動く。
そこでユキは自分が抜けたことを知った。
振り返ると、そこには森の一本道が広がっており、他に誰もいなかった。
「……魔法ってなんでもありだな」
凄い、と思った。
村の人が使っていた魔法なんかよりもっともっと凄い。
逆に何ができないのか聞きたいくらいだ。
ユキは口角を上げた。




