30
『五十七番、速やかに退室せよ』
「な、なんでだよ!?」
五十七番の受験生が抗議の声を上げる。
その間も時間は経過する。
『カンニングしたでしょう。駄目ですよ、魔力で見えない文字を腕に張り付けて、分からないときに浮かび上がらせて見ようなんてしちゃあ。上官から指示を与えられて分からないからって体に文字張り付けておいて、戦場で確認してたら、君、死んでますよ』
ぺらぺらと〈覗き見るモノ〉が喋る。
受験生は問題とその声に板挟みされ、集中力が散漫となる。
『二百四十番、失格』
「はぁっ!?」
『三百三十二番、失格』
「えっ!?」
試験が始まったときの静けさが嘘のように、あちこちで声があがる。
魔法が使えないので自ら指を耳に突っ込んだり、手で押さえたりする者が続出する。
『おらっ、さっさと出て行け!!』
『七十一番、失格』
『なに?退室って言葉も知らないの?よくそんなんでここに来たよね、恥ずかしくないの?』
『百五番、失格』
『……出て行け』
次々と失格者の番号が読み上げられる。
そして反論する失格者の声。
それにさらに反論する〈覗き見るモノ〉の声。
集中力を欠く受験者たち。
その苛立ちははっきりと目に映る。
地獄絵図だな、と試験官を務めるカーランは思った。
毎年行われるこの試験で、毎年見ることができるこの光景。
カンニングは絶対ある。
その量が多いか少ないかの違いだが、だいたい毎年このようになる。
楽しくなってきた〈覗き見るモノ〉の声の主、黒曜の騎士たちが煽る。
これもまた例年のこと。
巷で若い女に黄色い声を上げられている黒曜の騎士も、一歩男所帯に入ったら子供のようにはしゃいでいる。
(男ってのは総じてガキなんだよなぁ)




