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「うわ」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。
荷馬車に乗り、馬を借り、汽車に乗り、ようやくたどり着いた中央都市アズカルス。
駅の改札を抜け、ユキは目を丸くして立ち尽くした。
「すっご…」
駅の前は噴水広場になっており、その周りには可愛らしい屋台が多く並んでいる。
そこでは恋人同士の二人がアイスクリームと思われる氷菓を買って食べていたり、艶やかな花を買いに来た女性たちが会話に華を咲かせている。
噴水広場の奥の街は三角屋根の建物が連なっており、石畳の道が長く続いている。
村の砂埃の舞う地面とは大違いだ。
遠くには城と教会らしき建物が建っている。
「これが、中央都市…」
すべてが目新しく視線があちこちさ迷うが、とりあえず今日宿泊する予定の宿屋まで向かおうと、噴水広場を抜け、大通りを歩く。
「わ、すみません」
あまりの人の多さに道行く人と肩が当たる。
ユキはほかの女性に比べて背が高いので、わりと視界は開けている方なのだが、それでも当たる回数が多い。
(都会の道歩きに慣れていない田舎者ってことか…)
いくらこの世界に来る前は都会暮らしだったユキでも、この人の多さには疲労を隠せない。
トンッとユキの腕にまた誰かがぶつかる。
「わっ」
そのぶつかった少年はそのまま石畳に足をひっかけ、前傾した。
「おっと」
ユキの右腕が彼の体を支える。
「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」
腕の力で少年を立たせると、夕暮れのような瞳がユキを見上げた。
「こちらこそごめんなさい。助かりました」
少年は転びそうになったことが恥ずかしいのか、頬を染めてお礼を言った。
そして、小さく頭を下げ、ユキが来た道を小走りで駆けて行った。
「なんか、可愛らしい顔立ちの子だったな」
あんな子が弟だったら溺愛しちゃいそうだ、と思ったが、すぐさま頬を膨らましたリリィが出てきたのでその考えは消した。




