おまけ1
「おはよう、ユキ」
「おはようございます」
黒曜の騎士になると決めた翌日、いつもと変わらず川に洗濯に来たユキはフォーマ夫人と挨拶を交わす。
フォーマ夫人の隣に腰をおろしたユキは、彼女に声をかけた。
「あの」
途端フォーマ夫人の目が丸くなる。
それもそのはず。普段ユキから話しかけられることが滅多にないからだ。
「珍しいね、ユキから話しかけてくるなんて」
フォーマ夫人は衣服を洗う手を止め、ユキを見た。
「黒曜の騎士をご存じですか?」
「えっと、あれだろ、救聖隊を守る騎士のことだろう。それがどうしたんだい?」
「私、黒曜の騎士になろうと思います」
最近耳が遠くなったような気がする、と旦那に訴えたら歳だから仕方がないと一蹴された。
これが大きな病気だったらどうするんだと憤慨したのは昨夜のこと。
やはり、耳の調子は悪いらしい。
女の子の口から、黒曜の騎士になりたいという言葉が聞こえるなんて。
ユキは相手からの応答がないため、聞こえなかっただろうかと首を傾げた。
「私、黒曜の騎士になろうと思います」
そして同じことをもう一度言った。
すると夫人は「あぁ」と声を漏らした。
「やはり私の耳がおかしいわけじゃないか…」
どういう生き方をするか尋ねたが、まさかこのような返しが来るとは思っていなかった夫人は、しばらく言葉を失った。
まったく男と同等に戦おうなんてどうかしている。
そう考えてふと思った。
この子がそれを叶えたら、男と女が同等の立場にいることになる。
ふっと口から笑いが漏れた。
「頑張んな」
毎日同じことの繰り返しの生活に些細なスパイスが加えられた気がした。
村にいる少女がもしかしたらこの国のあるべき女の姿を変えてくれるかもしれない。
そう思うと、憂鬱な未来が楽しみになってきた。
「女は非力じゃないってとこ見せておやり」
逞しい腕がユキの頭を撫でた。




