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一つに括った長い髪が揺れる。
「髪の毛、綺麗ね。伸ばしましょうよ」
その一言からユキは髪を短くすることをやめた。
それを見ていた両親は「ユキは本当にお姉ちゃんのことが大好きなんだな」と笑った。
まだ数年しか経っていないのに遠い昔のようだ。
リリィが出て行ったあのときから毎日丁寧に手入れをし、鋏を入れずにいた。
久々に会ったときに綺麗ね、と褒めてもらう為に。
それにしても天気が良い。
この揺れにも心地よさを感じてきて、ユキは鼻歌を歌い始めた。
「ったくユキちゃん、呑気なもんだねぇ。これから受験なんでしょ」
荷馬車を操縦するキャリーが言う。
麦わら帽子を被り、首元にタオルを巻いている姿は農家のおじさんそのものだ。
荷台に野菜と一緒に乗っているユキは「そうです」と答える。
「今からでも遅くないし、やめときなよ。嫁いで出産して子育てしてる方が幸せだよ」
ユキよりも幾分か脂肪がついているキャリーは手綱を右手で握りつつ、左手で汗をぬぐう。
その言葉に悪意は感じられず、ユキも「そうですね」と返した。
「でも」
のどかな田園風景が広がる。
これももう見納めだ。
「何が私の幸せかは、私が決めます」
その言葉を聞き、キャリーは大きなため息をついた。
「まぁ、別に俺はいいんだけどさ、あんま人の前で言わない方がいいよ」
「肝に銘じておきます」
十五になったユキはまた鼻歌を歌い始めた。
数日後、中央都市アズカルスは各地から集まった若者でごった返すことをユキはまだ知る由もなかった。




