02
先に攻撃をしたのは、雪だった。
重心を下げ、素早い一撃で相手が剣をはじく前に、己の剣を相手の左胸へと突き刺す。
その攻撃が行われたのは、わずか数秒の出来事。
暗闇の中でランプが点滅する。
「おぉ、さすが如月雪。圧倒的な速さだ」
「あの鋭い突きは来ると分かっていても、なかなか避けられないですね」
記者たちが惜しみなく称賛する頃も試合は続けられていた。
相手からの攻撃をはじき、攻撃する。
それを繰り返す。
二人の点差は大きくひらくこともなく、まもなく終わりを迎えようとしていた。
ふぅ、と息を吐きだす。
相手へ視線を向けると、彼女は肩で息をしている。
決して長い時間戦う競技ではない。
それでも一瞬一瞬が勝負な為、体力は損なわれる。
そしてたまに感じる、殺される恐怖。
あれもまた、精神に疲労を与える。
(凄い殺意で向かってきてるのが分かるなあ)
これだけ殺される気分になったのは初めてだ。
逆もまた然りだろうが。
剣を持つ右手に力を入れ、すぐに緩める。
吐き出した息を吸い込む。
そしてまた吐き出す。
全身から不要な力を抜く。
脳内で自問する。
(エト・ヴ・プレ?)
「ウィ」
誰にも聞こえない声で自答する。
それは、今日一番の速さだった。
相手は何が起こったのか理解ができないまま、構えのポーズで立ち尽くしている。
呆然としているのは周りも同じで、何故ランプが点灯しているのか、理解しがたい表情で舞台を見ていた。
主審が雪の方の手を挙げる。
それはつまり雪の勝利を意味する。
しん、と静まり返っていた会場に、わあああぁ、と歓声が上がる。
「ラッサンブレ、サリュエ!」
敬礼をし、ピストを去る。
振り返らない雪は知らなかった。
対戦相手の彼女がどんな顔で、唇を噛み締めていたかを。
赤い血が彼女の勝負服を汚した。