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「詳細はもう忘れてしまったんだが、当時新聞にも載ってね。非難する声の方が多かったが、それでも誇らしげな女性も沢山いたよ」
「凄くかっこいいですね…」
雪は強い女性に憧れていた。
自分の力で誰かを守れる女性がかっこよくて好きだった。
フェンシングを始めたのもフラきゅあのユリちゃんが細身の剣を持っていたからである。
ユキは見たこともない黒曜の騎士の紅一点に憧れを感じずにはいられなかった。
目を輝かすというのは、このことか、とウォルトは思った。
ユキはリリィと違い、あまり感情を顔に出すタイプではないので、こんなにも興奮した顔を見るのは初めてだった。先ほどまでの重たい空気が消え去った気がする。
「リリィを守るために騎士になる目的だったが、その人に会うことも目的にしてもいいかもね」
そう言うと、ユキは頬を紅潮させたまま頷いた。
最初の一人は、まぐれと言われた。
受かったのは運が良かっただけ。
採用者の気まぐれ。
新聞の見出しに大きく掲載されていた言葉。
それに次ぐ者が現れれば、その一人はまぐれではなく実力だと認められるのではないかと思っていたが、次が無かった。
誰もそこへ挑まなかった。
しかし十数年の時が経てども、再度女性が学校の門を叩き、あの黒衣を身に纏えば、世間の目も変わるだろう。
そしてさらに、彼女たちに憧れる少女が増えれば、この国が変わるだろう。
女性たちがもっと自由に生きることができる国に。
娘がそのきっかけになれば、とても喜ばしいことだろう。
それでも多くの苦難が待ち構えている。
「家族を守りたいのは私も同じなんだけどなぁ」
「? 何か言いましたか?」
「いや、ユキがあと五年でどこまで成長できるか楽しみだなと」
「頑張ります!」
自分に何ができるかなんてやってみなければ分からない。
だからこそ、娘たちのためにできることは何でも挑戦しようと、父は心に決めた。




