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「行かないってことはできないのですか?」
「それはできない」
ユキの問いに即座に否定が入る。
「貴族であろうと、農民であろうと娘が〈光魔法〉を使えると分かれば、迷わず救聖隊に入れようとする。そして彼らは多額の謝礼金と、そして名誉を手に入れる。国を救う聖女の親という名誉を」
少し落ち着いたアリアが椅子に腰を掛ける。その隣の席にウォルトも座る。
そしてユキにも座るように声をかけた。
そこに、リリィの姿は見当たらない。
「誰もが救聖隊に入ることは名誉ある行動だと言うだろう。病気に苦しむ人を助け、戦地に赴き怪我に苦しむ人を救い、その姿はまるで神のようだと」
そこまで言い、ウォルトはため息をついた。
「だからこそ、自ら出願せず、さらに救聖隊に誘致されてそれを断るというのは、神を、国を冒涜するという行為に値する。それがどういうことか賢い君になら分かるだろう」
「罰がくだされる」
「そうだ。罰金ならば私たちが一生をかけても稼げない金額を。国から追放もあり得る。もちろんリリィは置いてだ」
頭が痛くなる話だ、とウォルトは頭を抱えた。
「で、でも救聖隊に選ばれたからと、二度と帰ってこれないわけではないのでしょう?」
リリィと二度と会えなくなる。
家族四人で笑って食卓を囲めなくなる。
その恐ろしさにユキの手が微かに震える。
「休暇はあるわ」
アリアが顔面蒼白なまま口を開く。
だったら、と顔を明るくしたユキの表情が次いで発せられた母の言葉で凍り付く。
「休暇があっても、体が無ければ帰ってこれないでしょう…」
母親は机に両肘をつき、両手で顔を覆った。
そしてまた泣き始めてしまった。
「どういう…」
「危険なんだ。救聖隊に入るということは」
ユキの鼓動が速くなる。
息をするのも忘れてしまいそうだ。
「まずは戦地に赴く」
ヴィクトワール王国は隣国と戦争を行っている。領土争いだ。
「隣の国も分かっているんだ。戦争の要は救聖隊だと。そこを潰せば回復されることもなく、楽に攻め込めることを。だから、救聖隊を第一に狙う」




