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氷雪のフルーレ  作者: たなぼた まち
はじまり
10/40

10

 洗濯を終え、畑の手入れなど家の仕事を終え、昼食をとる。

 夕方までは自由な時間があるので、ユキは筆記用具片手に家を出た。


「こんにちは、先生いらっしゃいますか?」


 開いていた玄関から声をかけると、奥の部屋から眼鏡をかけた初老の男性が顔を出した。


「あぁ、いらっしゃい。お上がりよ」


 ユキは慣れた様子で家に上がり、一室に入る。

 そこには多くの本に囲まれ、三つ机が置いてあった。


 その一つの席に座ると、男性が牛乳を温めた飲み物をその机の上に置いた。

 雪の結晶が描かれたカップはユキ専用だった。


「君は本当に真面目だね」


 先生は眼鏡が曇るのもを気にせず、ミルクを飲む。

 真っ白な眼鏡からは視線がどこにあるのか分からない。


「今日はソルさん忙しいみたいだったので」


 ソルさんというのはこの村の駐屯兵の一人だ。


「ソルのところか、私のところか、はたまた一人で走っているかしかしないのかね、君は」


「いえ、家の手伝いもします」


 そうじゃないのだが、と先生は困ったように頭をかいた。


「本当に君が男でないのが残念で仕方がないよ」


 本棚から一冊の本を抜き取り、ユキに渡す。

 それはこの国の歴史書だった。


 先生は東方都市で教鞭をとっていた人物である。

 教壇を降り、田舎でのんびりしたいと思った先生はこの村チェスプリオへ来た。

 そこからは趣味程度に村の子どもたちに勉強を教えているのだが。


「こんな田舎で勉強を真剣にやる方がおかしい」


 そう口にした言葉はとある親だった。

 村の八割の人間は外に出ることもなく、この小さな村で一生を終える。

 それで食べていけるからだ。

 だから勉強する時間があるなら、家畜の面倒をみたり、農作物の収穫を手伝う方が有意義なのだ。


 そして男ならばまだ勉強する意味がある。

 彼らは頑張れば都市での働きもできる。


 それが女となると、先生は小さくため息をつく。

 ユキがカップを机に置くと、コンッと木と陶器がぶつかる音がした。


「先生は私が女だと教えてくれる内容に差をつけますか?」


 曇りが消えた眼鏡の奥からユキと視線が交わる。


「いや。同じだな。男であろうと女であろうと理解しようとする意志はその人間のものだ。男だから理解できる、女だから理解できない。勉学ではそのような差はない」


 それを聞いたユキは口角を上げた。


「それならいいです」



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