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01


 空は青く澄み渡り、雲一つない快晴が人々の頭上にあった。

 絶好の散歩日和だと思われる日に、如月雪は暗闇の中、ピストと呼ばれる細長い舞台だけが照らし出されているのを見ていた。


「雪、緊張している?」


 雪のコーチである猿渡が尋ねる。

 雪は左右に首を振り、「大丈夫」と短く答える。


 ステージの上には〈第15回全国高校生フェンシング大会〉の文字が掲げられている。


「さぁ、雪、決勝戦が始まるよ。思いっきり楽しんできなさい!」


 猿渡に思いっきり背中を叩かれ、その反動で一歩前足が出る。


「うん、行ってきます」


 高校生最後の試合。

 ここで勝てば優勝。負ければ準優勝。

 しかし、雪の頭の中には、負けという概念はなかった。


 雪が舞台に上がると同じタイミングで対戦相手も上がってきた。

 大きな可愛らしい目が勝利を渇望していた。

 ここに立てば〈フェンシング界の妖精〉と謳われた彼女でさえも、血に飢えた野生動物を彷彿させる。恐らく彼女から見ても、自分も同じ顔をしているのだろう、と雪は思った。

 

 ここはそういう場所なのだから―――


 主審が「ラッサンブレ、サリュエ!」と言ったので、二人は敬礼をする。次いで、「アン、カルド!」の声で、マスクを着け、スタートラインで構える。


「エト、ヴ、プレ?」


 主審が二人へ視線を向ける。

 準備ならもうとっくに出来ている。


「ウィ」と雪が答えると、相手側からも「ウィ」と声が聞こえた。


 マスクの中で呼吸を整える。

 周りの音を消せ。

 相手だけを視界に入れろ。

 どんな動きも見逃すな。

 

 勝つのは、私だ。


「アレ!!」


 試合が始まる。




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