第9話
そして待ちに待った王家主催のパーティー当日。
残念ながらデビュタントがまだのジェイミーは家でお留守番だ。でも家を出る前に私のドレスをとても褒めてくれて、一緒に行けないことを残念がっていたので、いつか3人でパーティーに行こうね、と約束をしてきた。
今日の私のドレスの生地は白のドレスなのだが、その上にリアンの瞳の色と同じ金色の刺繍を溢れんばかりにしてある。胸元はほぼ金色だが、下に行くにつれて白のドレスが見えてくる…と言った感じだ。
品があってとても美しいドレス。実はリアンが先日贈ってくれた物だ。
貰った時は嬉しくて思わず抱きついてしまった。
髪はソフィアが結ってくれたのだが、所々にパールをさしたりとこれがまたとても素敵であった。
リアンの今日の装いは、黒のタキシードに私の髪色の銀髪をイメージさせるような美しい糸で綺麗な刺繍が施してある。
こちらも品があってとてもリアンに似合っている。
髪は今日も勿論私が整えた。この美しい顔が見えるように前髪を後ろに持ってきてハーフアップ。でも多少の色気を出したいがための後れ毛も忘れずに。
我ながらかなり良い出来だと思う。
当の本人は前髪が無いことが違和感のようでそわそわとしていたが、そんなところも可愛い。
私はリアンを好きになってしまっていた。
この1ヶ月、いつも優しい眼差しで私を見てくれて、気遣ってくれたリアン。些細な変化も見逃さないし、優しくて大きな手はとても安心するし、抱きしめられた時はとても幸せだ。
こんな良い男、好きにならざるを得ないわ!というのが実際の本音だった。
でも、リアンはどうか分からない。
照れたり赤面をしたりはするがそれは女性慣れしていないからだろうし、抱き締めてくれるのも私がお願いしているからだし、気遣ってくれるのも夫としての義務だと思っているからなのかもしれない。
本音を聞きたいけど聞けない、そんなもどかしい状況なのだ。
そんなもどかしい思いを抱えつつ、パーティー会場へ向かう。約1ヶ月前、私が婚約破棄を言い渡された場所だ。
婚約破棄を言い渡された時は喜びの方が大きかったのは確かだったが、辛くなかったと言えば嘘になってしまう。
私は思わず手をぎゅっと握りしめてしまった。
すると、握り締めた手の上にリアンが手を重ねてきた。
「…リア、大丈夫。私が付いているから」
優しく笑うリアン。
本当に私を心配してくれているのが伝わってきて思わず安心してしまった。
「リアンの手は不思議ね。凄く安心するわ」
「そうかな?だと嬉しいな」
はにかむその笑顔が可愛すぎてつらい。
リアンは今日も意図も容易く私の心を撃ち抜いてくる。そのなんとずるいこと。
私はリアンのエスコートを受けて馬車から降りた。
____今日は思う存分リアンの素晴らしい所を語ってやるんだから!
そんな決意を胸に固めて。
パーティー会場への入場は爵位の低い順からはいるのが習わしなので、大公夫妻である私達の順番は、公爵・大公(私達)・王族の方達 といった感じだ。
なるべく遅く来るようにしたのはリアンと国王様のご配慮だ。公爵家の人達に会わなくても良いように、と。
2人には感謝してもしきれない。
私はリアンと共にパーティー会場の入口へと向かっていると、周りからの視線をビシバシと感じた。
今この国の8割の貴族達はすでにパーティーの会場内にいるため、見てきているのは王城のメイド達だ。
わかるよ。リアン、イケメンだもんね。
かっこいいもんね、でも私の夫だから!!!
と言うように組んでいた腕を更に深く組み直した。
レルウィルドの時は嫉妬なんて全くしなかったのに、嫉妬してしまう自分に少し驚いた。が、好きな人が夫なのだからこれくらい許して欲しい。
リアンに目を向けると、パチッと目があった。
「リア、みんな美しい君のことを見てるよ」
耳元で囁かれた。
………この人本当に女性慣れしてないのよね?そのはずよね?女性云々の前に人嫌いの設定だったものね?
ぐるぐると思考が回っていたその時、 運悪くレルウィルドとお腹の大きさが目立ち始めているアミィ、そしてミエール公爵夫妻、私の生家のミッドール公爵夫妻がパーティー会場の入口にて順番待ちをしている所にバッタリ出くわしてしまった。
先程まで舞い上がっていた気持ちもパタリと止み、控え室で待機しようと思っていたのに…と一気に気分が落ち込む。最悪だ。