第10話
レルウィルドがこちらを振り向くと、私を見てぎょっとした顔をした。それに気付いた私の両親だった人たちも私達を見て驚いた顔をしていた。
なによ、揃いも揃って幽霊を見たみたいな顔をして。
私はリアンに話しかける。
「リアン、控え室に行って呼ばれるまで待ちましょう?」
「……あぁ、そうだな、それが良い。」
リアンもあのアホどもの反応を見ていたのか快諾してくれた。
立ち去ろうとした時、レルウィルドが私の腕をぐいと掴んだ。
「おい、待て!なぜお前が我々の後に入場するんだ!」
…余りにアホな疑問に私は驚きを通り越して不快感すら感じた。それにいきなり掴まれた腕が痛い。
「私たちは大公夫婦よ?あなた達より後に入場するのは当然じゃなくって?そんなことも分からないほどお馬鹿なのかしら」
「なんだと…!?」
「それより妻の腕を離してくれるか?不敬だ」
リアンの低い声での不敬、という言葉にピクっと反応してすごすごと手を離すレルウィルド。
やっぱりクソはクソね……。
と思っていたその時、傍らにいたアミィが声を上げた。
「素敵な殿方…!そんな無愛想で礼儀に煩いコーデリアなんて放っておいて、私と一緒におりませんか?」
「………は?」
リアンが反応するより先に私が反応した。
なんですって?礼儀に煩いとか愛想がないとかそういうのももちろん頭にきたが、それ以上にリアンと一緒に居れるのは私だけよ。
「コーデリアはあの悪名高い大公様と一緒に居ればいいじゃない、ねぇ?」
アミィは私に向かってくすくすと嘲笑うように言い放った。
それを聞いて私は思わず言葉が出なかった。
この小娘、リアンが大公だと分かっていないのね。さっきまでの私達とレルウィルドの話をまるで聞いていなかったのかしら。その脳みそには一体何が詰まっているの?
私はこれ見よがしにリアンの腕をぐいと引っ張り引き寄せた。
「悪名高い大公様ならここにいらっしゃいますわよ?ねぇリアン?」
「あぁ。私はエイドリアン・フィンリー、正真正銘、私が大公だ」
「………え!?!!!!う、嘘でしょう?」
「嘘なぞ付きませんわ。それと男爵令嬢如きが大公妃の私の事を呼び捨てで呼ぶのは不敬でしてよ。控え室に行きましょう、リアン」
「そうしようか」
「ま、まちなさいよコーデリア…!」
そんな声を振り切って控え室へと向かった。
呼び捨ては不敬だと言ったはずなのだけれど全くもって伝わっていないようだ。あの頭は飾りなのか?アホさ加減に頭痛がしてくる。
「ごめんなさいリアン、あの人たちがク…野蛮な人達なのは知っていたのだけど未だあそこまでの知能しか無いとは思っていなかったわ」
「私も少々甘く見ていたようだ、リア、さっき掴まれた腕は平気か?」
「平気よ!痛くないわ。助けてくれてありがとう」
そう言ってすすすとリアンに近付き、寄りかかるようにして頭をコテンとぶつける。
リアンの顔がほんのり赤くなっていてかわいい。
私より10も歳上だというのになんてピュアなんだ…はぁ、すき。
先程までの濁った心が浄化されて行くのを感じる。
この浄化の技が使えるのはジェイミーとリアンだけだわ。
私にとって特別な2人。
その2人がいればなにも怖くないと思えるほど、私の心の助けになっていた。
暫くそのままでいると、控え室の扉が叩かれた。
「大公様、大公妃様、入場のお時間が近付いて参りましたのでどうぞこちらにお越し下さいませ」
「分かりましたわ」
私が返事をして、リアンが先に立ち上がり私に手を伸ばす。
「リア、君のことは私ができうる全力で悪意から守るから、安心して」
私はリアンが伸ばしてくれた手の上に手を乗せ、立ち上がる。
「あら、だめよ。私がリアンのことを守るって決めたんだから」
「私が…」
「リアン、貴方誰かを守ろうとすると悪者になる癖があるわよ?悪者にならないのならば大人しく守られてあげるわ」
「…善処する」
「信じてるわ」
「エイドリアン・フィンリー大公様、並びにコーデリア・フィンリー大公妃様!」
リアンのエスコートを受け、私達はパーティー会場へと入場した。