はじまり
其れはどこかで書かれた本である。
場所は定かではない。
しかし其れはどこかで書かれたのだ。
これはその本の始まりの物語である。
その物語は、月夜物語といった………。
巡り廻る章
むかしむかし、とてもむかし。
1人の少年がいた。彼の名前は清矢。名の由来は、弓矢の能があったからである。彼が暮らす土地には光などなく、暗闇と雨と風が常にそばにいた。生まれながらの孤独でもある。しかし自分で悲しい子、寂しい子など言わなかった。何故なら生まれた時から愛を知らなかったからだ。ひとりぼっちの彼は野を歩いた。暗い道無き道をただ歩いた。自分を充たしてくれるものを求めていたからだ。空っぽの心になにか充たされるのかは、誰にもわからないのだが。
彼が意識を持ち始めて17の時が過ぎた時に、転機が起きた。それは彼を充たしてくれるなにかであった。それは、光であった。本来関わるはずのないもの。それが彼の目の前に現れた。いや、降ってきたのだ。遠くの空から。眩しく暖かい。それは少女の形をしていた。暗闇の中の少年は誰かに命令されたかのように走り出しそれを受け止めていた。眩しく暖かいそれはいつしか優しい温もりになっていた。山吹色の髪を持ち、肌は透き通るように白い。とても美しい少女であった……。
「あ、あの…?」
気がついたら彼女を抱えていた。目をずっと閉じていて生死という文字が頭をちらつかせていた。真っ暗な世界で確かに見えるこの子。
ずっと会いたかった。そんな気がした。
「い、生きてますかー?」
返事はない。しかし温かい。よく見れば胸と腹が一定のリズムで動いているので呼吸はしている。どうしたらいいんだろうか。
「んっ…うう…」
「あ、声が。おーい、おーい。」
唸った。この子は生きている。
「んー…?」
「大丈夫ですか?聞こえてますかー!」
薄ら薄らと目が開いていくような気がし…
「うるっさい!聞こえてる、聞えてマース!」
いい度胸だ。いや、そうじゃなくて。
「大丈夫?君、空から降ってきたけど?」
「バリバリ元気…えっとここはどこです?」
両者他人事のように話す。
「僕にもわかりませんよ。なんにも見えないんですから」
そう、17ぐらい生きてはいるけど周りは真っ暗なもので何も見えなかった。
「そうなの?結構明るく見えるんだけど…あれ、あなた…」
神々しい少女は僕の頬に手を当てた。
「目に光がないわ。そりゃ世界なんで見えない。空から降ってきたらしいし奇跡的に受け止められたらしいし、あなたに世界を見せてあげる!」
少女が見えるだけ僕にはかなり新鮮ではあるがお礼されるならされておこう。
と思っていたら目に酷い激痛が走った。
「え、痛、え?」
「はーい我慢我慢」
なんとも言えない激痛の中で何かをむしり取られる感触と何かを入れられる感触を覚えた。
「あともうちょっとだからねー。」
「ああああああああぁぁぁ。」
まぶたの上からしっかりと押された。
「はーい出来た。どう?見える?」
「痛かった…あれ、なんか眩しい…。」
目を開けるとそこには…
爽やかな風が吹いていた
柔らかな水が隣を流れている。
空は清々しい青で
大地は若々しい緑
彼女からもその上からも暖かい日差しが刺している。
「どう?世界は。」
彼女目は柔らかな水の色であった。
「あなたの目と私の目を交換したの。」
そんなことが出来るのかと思ったがあまり考えないことにした。
「えっと、改めまして。私の名前は稲荷。記憶を失ってしまったみたいなんだけど名前だけは思い出せた。」
「稲荷。なんか丸い名前だね。んーと、僕の名前は清矢。清らかな矢を打つから清矢。よろしく。」
これが2人をつなぐ、物語の1ページ目である。