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みおぎ   作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
34/35

出自⑤

なんだ・・・

肩を落とした三人にハチロウは慌てた。

「あ、あ、あいすみません。持って回ったような言い方しちまって、

ですがね、そう言うおいらもあんまりにもがっかりしちまって、『おい与兵衛、とっくにお前の縄張り破られちまってんじゃねぇか、』つって、八つ当たりしたくなるほどだったんですよ。

でもまあ、四の五の言っても仕様がねぇ。また一からやり直しだと腹を括って、いとまを述べようとした時でさぁ、与兵衛が急に『ああ、そう言やぁ、』と素っ頓狂に叫びましてね、

何でも、一度だけ桁違いの手間賃を稼いだ事があると言い出したんでさぁ、」


ここで、ハチロウはチラチラ面々を見渡した。思わず素が丸出しになった事に気がつき慌てたのだが、シゲキチを含め誰も気にした様子はなかった。ほっとしたハチロウはまた口を開いた。


「ある年の夏の事、肱川の上の方で鉄砲水が出て、大きな山崩れがありまして、かなりの田畑、家、人が流されたそうなんです。

幾月か経って、獣道くらいの道がやっと通った頃、与兵衛は食いもんやなんかをを持って登ってみたんだそうです。

屍肉を漁るカラスみてぇな奴だと思いましたけど、人が困っている時に一番商売っ気を出すのが人買いってもんなんでしょうね。

ま、とにかく、与兵衛はある村に辿り着いた。というより、かつて村だった所と言った方がいいという有様だったそうなんです。


見渡せど人っ子一人いねぇ。あーみんな流されちまったかと思っていた矢先、傾いた粗末な家の壁に掛かったむしろが動いた気がして目を凝らしていると、誰かがこっちを見ているのが分かった。与兵衛が『菓子あるぞ、水あるぞ』って手招きしたら、『お止め!』という声が聞こえるや、5、6歳の男ん子がそこから飛び出てきた。

与兵衛の両の手から菓子と竹筒をむしり取り、その場にしゃがみこみ貪り始めた。家の奥にはもっといると見て、手を振って見せると、片手に二、三歳の女子おなごの手を引き、もう片腕には生まれて半年も経っているかどうかの赤子を抱いて女子が出てきた。

顔もぐしも垢だらけ着物は泥だらけのボロボロ。

与兵衛は、その小さい女子に菓子と竹筒を渡すと、同じく母親と思われる女子にも菓子と竹筒を渡そうとした。

しかし女子は頑なに受け取ろうとしない。


「これくらいのモノやったからって恩に着せたりはせんよ。大して腹の足しにもならんじゃろが、今はとにかく食べんことには、出る乳も出んじゃろ」

与兵衛が赤子の頬をつっ突きながら言うと、

母親は泣き始め、元々乳が出ず、近所の人のもらい乳でなんとか育ててきたが、その人も鉄砲水で流されてしまった。と言うではないか、

その時、与兵衛の頭ん中をある話が過ったのだそうです。

半年ほど前、与兵衛はとある※素封家そほうかの噂を小耳に挟んでいました。もし、とびきりの上玉で福々とよく肥えた女子の赤ん坊がいたらば、養子に迎えたいというもの。

しかし、与兵衛はこれに飛びつきませんでした。養い子の斡旋なんて、門外漢もいいところだし、それにさすがの人買い与兵衛も赤ん坊の頃から当たりをつけてると言われたら、ほんまもんの人でなしのそしりを受けそうで、いつしかその噂を忘れてしまっていたのだそうですが、

気がつくと与兵衛は、母親にこう問うてしまっていたのだそうです。

『こん赤んぼは、女子おなごかいね?」



素封家そほうか

身分や名誉を特に持たない財産家

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