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みおぎ   作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
30/35

出自①

「他にもこの話、耳にした者は居るのであろうか?」

良顕が眉間に皺を寄せ呟いた。


もし、この話をお上に近い筋が聞きつけていたとしたら...良顕はそう案じているのであろうが、


「なに分、酒宴ですからねぇ、」

その思いを察して良晉は、その場にいたわけでもない幸明が応えかねるのを見越し、気遣わしげに目線を向ける。

しかし幸明は返答に困るどころか

「それの答えとなりますかどうか、」

ニヤリとして、こう続けた。


「この話大半は、遊女と二人っきりになった後、聞かされたものだそうで、」


「おお、これは何と、」

眉間の皺もどこへやら、良顕はガバリと

背を起こし、爛々と目を輝かせている。


「僧正!」

良晉の鋭い声が飛ぶと、


「大きな声を出すでない。リンさんが起きる。」

良顕はれと言って、続きを促すように幸明に体ごと向き直った。


幸明は苦笑いして良晉に目を遣る。本気で腹を立てているわけではない良晉も話の腰を折るのは本意ではないと、頷いてくれた。


幸明はほっと微笑み、

「では、続きを...

ところがこの場合、糸口から順に語りますより、結びを先に申す方が話がややこしくないと存じますので...」

と一同を見回す。


「良い。何でも。とにかく申せ。」

焦れた良顕が胡座に組んだ膝をバタバタとさせる。


その様子に良晉はふと笑い、倫鉄は幾分眉間の皺の深くしたように見えた。

幸明は心待ち前のめりになる。

「して、その薬種問屋、遊女に泣きつかれたよしにございます。四国の出の行方知れずとなったその娘っこの安否を確かめてはくれぬかと、」


「うむ...」


「そしてその探索の役目、私めが承りました。」


「何と!」

良顕は思わず膝を打った。


「本日、薬種問屋が私に会いに参ったのは、その手立てを相談するためにございました。

これまで探索などした事もなき上に、この四国。讃岐と道前やこの道後村周辺以外は不案内ときており、もはや途方に暮れるばかりだと、」


「それもそうであろうが、遊女からの頼み事を、いつご新造の耳に入るかも知れぬ縁続きの者に漏らすわけにもいくまいて、」

腕組みをした良顕が体全体を揺らすようにこくりこくりと頷く。


良晉は呆れ顔で息を吐いたがすぐに笑顔に戻った。

「それにしても幸明様。探索を引き受けたのは名案でございましたね。ウチにはシゲキチたちもおりますから、探索はこちらで何とかいたしましょう。」


幸明は、

「実はそれを当てにして安請け合いをいたしました。ありがたい。」と呟き両手を合わせた。


「それはそれとして、一つ合点がいかぬ事があるのですが、」

と、良晉はキリと顔を引き締めた。


「何でしょう?」


「薬種問屋はなぜ、遊女の願いを聞き届けてやる気になったのでしょう?」


「ああ、それを私めも尋ねました。一言で言えば絆されたのでしょうな。なんでも、病を得て先はもう長くはないと申したのだそうで、」


「いやはや何とも、」


「既に親は無く、故郷とは縁も切れ、思い出すのは不思議と禿時分のことばかりなのだと、」


「それで、その幼馴染に会いたいと?」

これまで黙って話しを聞いていた倫鉄が口を挟んだ。


幸明はかぶりを振った。

「そうとまでは申しておらぬそうにございますが、とはいえ、居所を突き止めたと知るや、会うてみたい気を起こすもまた人情ではないかと、」


「道理じゃ、」

良顕はそう言うと、ズルリ冷めたあめ湯を啜った。


良晉がニコリと笑う。

「そうなると、余計に幸明様が探索を引き受けてくださった意味合いが増してきますね。」 


「全き事。」

倫鉄が唸るように言った。

そして、

「何と言って礼を申し上げれば良いのやら、」

リンを起こさないようにそっと頭を下げる。


「いえいえ。」

幸明が手斧を顔の前で振った。

「今の所、リンさんと倫鉄様は私の患者にございますので、」


倫鉄がフッと笑う。

「そうでした。幸明様に監視されているのでござった。」


「また、忘れていましたか?」


「ええ。すっかり。」


四人は声を潜めてクスクスと笑い合った。









































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