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みおぎ   作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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僧正⑤

リンは見つめられ、身を竦めて待っていた。

目蓋まぶたはきつく閉じられている。

堪えるべきは痛みである。腕か足か或いは顔か、目にさえしなければ痛みは幾ばくか軽く感じられる事をリンは経験で知っている。


そんなリンの異変を倫鉄は素早く感じ取り、リンの微かに震える肩を抱きとめていた。

ひとしきり笑った良顕りょうけん良晉りょうしんも顔を見合わせ、二人をじっと見守る。


「すんませ、んごめんな、さい。」


リンの口から聞こえたのはわずかにそれだけ。


良顕は顎を摩りながらあらぬ方を見て、良晉はその視線を追い、捕まえると同意を求めるようにその目を見つめる。良顕も頷いていた。


「リンさんや。」


良顕が穏やかな声で言った。


「いきなり、大きな声を出して驚かせてしもうたの。」


「私も、謝ります。」


そう言って二人が畳に手をつき頭を揃えた。


リンは倫鉄の腕に押し付けていた顔をゆるりと上げる。

そしてリンは目を見張った。目の前に大の男が揃って旋毛つむじを見せているのだ。


見開いたその目を倫鉄に向ける。

倫鉄は、おイタに誘う少年のような眼差しをリンに向けた。


コクリコクリと頭を縦に振ったリンの両の口の端が上に引き上げられ、


「っはっはっはっはは…」「うふふふ、あははは…」


リンの目から大きな涙が一つこぼれ落ちた。




その後、ハチロウが、下ろした生姜を入れたあめ湯を配ると、四人の間に流れていた気色けしょくはさらに穏やかなものになった。


口を付けては離しを繰り返し、リンがなかなかあめ湯を口に入れる事が出来ないのを見兼ね、倫鉄が手を伸ばすのに先んじて、


「どれ、貸してみなさい。」と湯呑みを取り上げたのは良顕りょうけんであった。


ふーふーと、調子よく息を吹きかける壮力そうりきに、良晉りょうしんと倫鉄は、驚きを隠せない。


良顕はそんな二人の様子に気づいていて、片方の眉毛をピクリと上げるが、それでもこちらを見ることはせず、


「もう、いい頃合いだ。さあ。」と、リンに湯呑みをそっと持たせた。


小さく頷いて口を付けると、その温みが程良かったのであろう、リンはふわりと笑った。

その笑顔にはしばしの放心がもたらされる。


その最中さなかにも良顕、良晉、倫鉄のはらの中はそれぞれに忙しかったのだが、擦り合わせはまた、リンが休んだ後にしようと、リンの頭越しにうなづき合う、近衞兵の面持ちの三人であった。


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