僧正④
倫鉄とリンが良顕の居室を訪ねたのは、日も暮れきった*戌一つ刻。境内から人の気配が無くなるのを見計らってのことであった。
襖を開けると、良顕は立ち上がらんばかりにして二人を出迎えた。
良顕の床は片付けられており、寝巻も着ていなかった。
不審に思い良晉を見ると、良晉は一度目玉を天に向けて見せた。
「おお、そなたがリンか。待ちかねたぞ。ささ、こちらへ。」
そう言って、*茵を勧めた。
「こちらは、僧正様の・・・」
倫鉄が声を上げた。
「良い。リン。傷は痛まぬか?これをの、こうやって、腰掛けのようにしての、足を横に伸ばして休むがよいぞ。」
良顕は、その綿の様なもので出来た茵をくるりくるりと巻いて、トンと叩いて見せた。
リンが倫鉄を見上げる。
倫鉄は頷く。
良顕はリンに手を貸し座らせた。
ふと、良晉に目をやると、目を大げさに見開いて見せ、口に手を当てている。
倫鉄もつられそうになったが、何とか腹に力を入れて堪えた。
スーっと襖が開く。ハチロウが声を掛ける。
「そろそろ、お持ちいたします。」
「頼みます。」良晉が頷いた。
「さて、リン。
儂は、若い人と語るのがいちばんの楽しみでの。ちいと話し相手になってくれんかの。」
ただ、はい。と答えれば済むところを、リンは黙りこくってしまった。
良顕は語ろうと持ちかけた由であったが、リンは問いかけと捉えてしまったようである。
思い倦ねてようやく、リンが口を開いた。
「ウチは、りょうけんそうじょさまのように愉快やないです。」
「んん?儂が愉快とな?」
良顕が、倫鉄を細目で見やった。
倫鉄は明後日の方を向いて頭をかく。
「リンや、そうは言うがそなた、すでに殊の他愉快ぞ。」
「?」
リンはそうすれば、良顕の言う旨意がわかるとでも言うように、良顕の顔を見つめた。
「今や大概の者がの、儂の言うことには逆らわんのだ。
しかしてリンや、愉快ではないゆえ儂とは語らぬと、言ってのけたではないか。
これが愉快と言わずして、のぉ、倫鉄?」
倫鉄は、さっと顔を赤らめて、また頭をかく。
「ウチは、語らぬと言うてはおりません。ウチは愉快ではないです。と言うておるだけにございます。倫鉄さまを虐めないで下さい。」
言い終わっても尚、リンは良晉から目を離さずにいた。
良顕は、信じられないものを見るように、一時リンを見つめる。
そして、
「ぶわっはっはっはっは…」
と弾けるように笑い出した。
ずっと笑いを堪えていた良晉も釣られて笑い出した。
*戌一つ刻…17時~17時半
*茵…本来は真四角の小さな畳のようなもの。今の座布団の原型。この頃には綿の座布団が作られるようになっていた。
新井 燃え香です。お楽しみ頂けてますでしょうか?
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