表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みおぎ   作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
19/30

予知⑩

「そなた、この寺に参ったときも、そのようなことを申しておったな。」


この寺の様子を、十里以上も離れた村で見ていたと語ったリン。


それを一笑に付した倫鉄ではなかったが、怪我と疲れがあったための、ごとと片付けたのもまた事実である。


「すみません。阿呆あほうぎり申しました。お忘れください。」


倫鉄の物思いの渋面を不快の表情と受け取ったリンは、額を畳に擦り付けるようにして、謝った。


「いや。そうではない。これはとても大事おおごと

じゃ。そのように前もって見えていたものを覚えている限り、儂に教えてくれぬか?」


叱られると身を縮めていたリンは、一転、目を輝かせ、頷いた。


「儂が書いたものを見たのがいつのことか、覚えているか?」


リンは、あらぬ方を見て、色の薄い目玉をキョロキョロさせた。

そして俯き、かぶりを振る。


「よい。気にするな。

子供のことじゃ、誰かに話したと思うが、なんと言われたか、覚えているか?」


リンは、また目玉を動かし、懸命に思い出そうとしている。


「分かりません。ただ、話すのは怖いです。言いたない感じが、し、ます。」


「そうか。怖い思いをしてまで儂に教えてくれたのか。礼を言うぞ。」


リンは頬を染め、また頭を振った。


倫鉄はリンの手を取る。

白くて細い指に、細長い黒ずみが無数にあった。

きっと切り傷や刺し傷をろくに手当もせずに放っておいたせいだろう。

その傷の手当てをしてやりたかったと思うし、その黒ずみは、倫鉄の知らないリンのこれまでを知っているのだな。とも思う。

傷ましいような、羨ましいような、妬ましいような、それはなんとも掴み所のない心持ちで、

我が身に別の生き物が巣喰い始めたのではないかと本気で案じる倫鉄であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ