予知④
「あの、もし、」
濃霧の向こうから、まだ年若い男の声が聞こえてきた。
始めに、ほうき、次に黒い僧服、その次に剃りたての頭が現れる。
タキは、ぼうっと、ただ見上げるばかり。
少年は、タキが出てきた建屋とタキを交互に見ている。
「なぜに、ここから・・・」
タキの目から、涙が溢れてきた。
「あ、あの。怒っとんやないけん。」
慌てて手を広げ、振った拍子に、持っていたほうきがカタンと倒れた。
タキは、昨夜、日が落ちてからこの寺に入ったこと。
夜早く床に入り、朝早い僧侶の生活のこと、
女人禁制の修験の寺で、特別に客人として迎えられた経緯を思い出した。
この少年が、タキを不審だと思っても仕様がないのだ。
ましてや、タキは入り口の戸を蹴破った状態で倒れている。
少年の反応は、考えられる限りにおいて、最も穏やかなものと言っていい。
「あ、ああ、あの、ウチは・・・
昨夜、医師の幸明様に手当てをしてもろうて・・・
良晉様に、ここに寝泊まりするように言われて・・・」
「りょうしんさま、りょうしん・・ああ、良晉様!」
少年は、素っ頓狂な声を上げ、両手両膝を地面に擦り付けた。
「良晉様のお客様とは存じませんで、大変なご無礼を・・」
何だかとんでもないことになった。と、戸惑っていると、
地面に付いたタキの膝が、ヒリヒリと痛みはじめた。
「あ、あの、足が痛うて動けんのです。手を貸して下さいませんか?」