予知③
倫鉄は、ある老僧を見舞っていた。
青石の岩穴の前で、ハチロウらに出くわした時、とうとう、恩人であるこの高僧の死に目に会えなんだ。と望みを失いかけたが、
今、目の前に居る老僧は、極楽の入り口から差し戻される事、間違いなしの顔色で、
分厚い書き付けを嬉々として読んでいる。
「なぜに、迎えを寄こしたのですか?」と、問うと、
「これを早う読みとうてな。ようとして待てんのじゃ。」と、
巻いた紙をシャラリと揺らして見せた。
倫鉄は呆れてしまったが、
恩人の寝床を挟んで反対側にいる良晉は、
「それでも、そのお迎え、倫鉄様は大いに助かりなさったようですけれどねぇ。」
と言ってニヤリと笑った。
「何じゃ?」
知りたがりの塊のこの老僧は、面白そうな物事に鼻が利く。
現に、今回手渡した書き付けも、倫鉄が宇和島、吉田、大洲の諸藩を回って見聞きした事柄で埋め尽くされている。
僧正という重役にありながら、古典に飽き足らない知識欲。そういう所に魅かれ、忙しい旅程でも、請われれば参上する倫鉄なのだが、
ーー 今回は・・何と言うか・・・ーー
倫鉄は恨みがましい目線を良晉に向ける。
視線を外しながら、良晉のニヤニヤは相変わらず。
一つ短い息を吐き、倫鉄は口を開いた。
「実は僧正様。今回の旅、連れができまして。」