ファーストクエスト
少しばかり流血表現あります
日が暮れて馬も疲れ、辺り
は暗くなる。
パチパチ枝が弾ける音がする。アンジェは相変わらず仮面を外さない。
「先に寝てていいよ」
うつらうつらと頭を揺らしている姿を微笑ましく思いながら話しかけるとアンジェは素直にうなずいて横になる。ローブにくるまったアンジェは闇に溶け込んでしまっているようで揺れる影だけが彼女の目印になる。火が消えないように時々枝を足して辺りに注意を向ける。
この子がどれだけの能力を持っているのかもわからないし未開の場所。慎重に行動しよう。
「…ルト、アルト」
いつの間に眠っていたのか体を揺さぶられる感覚に目を覚ます。いつの間に眠っていたのか、アンジェはもう移動する準備を終えていた。
まだ冷たい風が頬を刺す。目をこすって体を持ち上げて笑ってみせる。
「ごめん、寝ちゃってたみたいだね」
俺が笑いかけるとアンジェは首を横に振って「だい、じょう…ぶ」と答えてぎこちなく笑って
「は、はやく、いこ?」
とすぐに顔をそらされる。
当分仲良くはできなさそうだなぁ…なんて思いながら焚火の残った種火を消して馬の背を撫でる。
「アンジェのご要望に応えて早く行こうか?」
そんなに時間もかからずに洞窟へたどり着いた。
冷たい風が暗い横穴の奥から吹いてくる。奥からやってくる異様な雰囲気に呑まれないように、と笑顔を顔に張り付けてアンジェのほうを振り返ってみる。アンジェは俺と目が合うとぎこちなく笑った。
「…行こうか」
その手を取って洞窟の中へと足を踏み入れる。風が頬を撫でて俺たちを洞窟へと招き入れた。
洞窟の中には基礎知識さえあれば誰も引っかからないような簡単な罠があるだけで魔物やバケモノの類はひとつとして現れなかった。
俺の思い過ごしか……。
ホッと息をつき粗方、洞窟の見取り図を描ききれたところでアンジェのほうを振り返ろうとした時、
「っ…!?」
背後から体を押さえつけられ口をふさがれた。顔を確認することもできないまま薬か魔法に意識を奪われた。
ひどく、からだが、おもい。
「ぁ、っ…」
声を出そうとすればのどは形を作らずに意味のない音を絞り出すことしかできなかった。
「やっと起きたかぁ」
目を動かせばそこにはガタイのいい男が立っている。悪くて怖い人っていうのを愚見化したらこんな奴が出来上がるんだろうな…なんて思っていたら男は俺に近づいて頬をつかむ。
品定めをするような目を見て理解した。こいつ、俺を女と勘違いしてる。
「悪くないな」
その言葉に背中に嫌な汗が伝う。あぁ、これ、やばいやつ、だ。
「ふ、ざ…け、な。くっそ、やろ…う」
少しはマシに喋れるようになった口で反抗を示せば男は楽しそうに口角を上げ「気に入った」と一言。これ、本当にやばいかもしれない。
結んだ髪を解かれ、口が近づく。やめろやめろと叫んでもきっと駄目だ。
「やめて」
ピシャリと顔にぬるい液体がかかる。赤く染まったローブを羽織った彼女の瞳に思わず息をのんだ。
光のない瞳が俺を見つめ、その口元が綻ぶ。
「みつ、け、た」
アンジェは俺を抱え、そのまま外へと足を運んでいく。また遠のいていく意識の中、アンジェの笑顔がいつもよりも綺麗だなぁ…なんてどこか冷静な頭で考えていた。