新しい仲間
「お仕事お疲れ様です」
受付嬢の声がしてそっちを見ると噂の死神様が立っていた。
相変わらず不気味な面に隠された目元はよく見えない。ま、ローブを羽織ってるから他のとこも見えないけど。
「あの、他に…依頼、は?」
死神は挙動不審な様子でそう尋ねると受付嬢は「今はありませんね」と答える。
「おーい、聞いてる?」
俺にお茶を注いでいた男が俺の顔を覗き込む。
「あぁ、ごめんね」
へらりと笑うとお茶を飲むと男は機嫌がよさそうに笑う。つまらない言葉を聞き流して席を後にして死神の方へと足を向ける。
「こんにちわ」
少し腰を折って自分の背が低く見えるようにしてあいさつをすると死神の瞳が俺を視界に捉えた。
「…こんにちは?」
すこし首を傾げながら返事をする彼女は見た目や噂よりもずっと物腰のやわらかい子に見える。
なんで私に話しかけたんだろう…そんな声が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「お姉さん、パーティー組んでないよね?」
上目遣いで単刀直入に尋ねると彼女はこくりと頷く。
「やっぱり!それでお願いがあるんだけどさ…
俺とパーティーを組まない?」
俺の言葉を聞くと彼女は何かを言いたげに口を開いては閉じて、また開いては息を呑み込む。
「わ、たし……パーティーとか、組んだこと…な、い」
途切れ途切れに答えてはそわそわと自分の指を組んで俯く。それはイエスかノーなのかわからないからはっきりしてほしいんだけど……。
「ならさ!ちょうどいいんじゃない?君もうすぐ昇格するよね?そしたら俺と同じランクになるし、いい練習になると思わない?それに、俺は動くのは得意だけど殺すのは苦手なんだ。君は殺せるけど動くのは苦手だよね?俺が足になるから、君は俺の手になってよ!」
白い手を握って笑いかけると戸惑ったような素振りを見せた後「う、ん…よろしく、ね……?」と笑い返された。
「それじゃあパーティーの結成だ!俺はアルト、よろしく!」
「あ、アンジェ…だよ」
お互いの自己紹介を終えるとアンジェは「それで…これから、どう……するの?」と首を傾げた。
「とりあえず、お茶でも飲みながら俺の依頼について話そうか!」
場所は変わってとあるカフェに移る。
アンジェは暖かいココアを、俺は珈琲とケーキのセットを頼んで注文を待ちながら話をしていた。
「本題に入るけど俺の受けたその以来ってのが厄介でさ、地図の制作なんだよね」
何も書かれていない羊皮紙を広げて言うとアンジェは「なんで、そ、んな…難しい依頼、受け…た、の?」と動揺を隠せないでいる。
「このあたりで文字の読み書きが完璧にできて、それなりに戦いにも慣れてて、ある程度実績もある…ってなったら俺に白羽の矢が立っちゃってさ」
困ったよな…と頬をかくとアンジェは首を横に振って「すご、い…と、お、もう」と笑った。そんないきなり言われたら照れちゃうだろ。
「場所は洞窟なんだけどやっぱり一人じゃ不安でさ……一緒に来てくれる?」
じっと見つめるとアンジェは迷う素振りも見せずに笑った。
「がんばる、ね」
その時、ちょうど注文していたものがやってきた。
それから他愛ない話をして、俺とアンジェは明日の朝に探索に向かう約束をして別れた。
今日は一段といい天気だ。カーテンを開いて朝日を呼び込む。
長い土色の髪を団子にして余った髪は団子から尻尾みたいに伸ばしておく。鏡を向いて紅を引けばもう完璧だ。
「うん、可愛い」
小さく呟いてから家を後にする。もう「行ってきます」をいう習慣はなくなっていた。だれも、返してくれないから。
待ち合わせ場所として決めた伝説の勇者のオブジェ前に立っているとアンジェが歩いてくる姿が見えた。
「アンジェ!」
こちらから声をかけて手を振るとアンジェは俺に気づいたようで歪な笑顔を浮かべて俺の方に駆け寄ってきた。
「お、遅くなって、ごめん…ね?」
時間はぴったりだから謝る必要なんてないだけどな……。きにしなくていいよ、と一言伝えて笑うとアンジェは安心したように息をつく。
「それじゃあ行こうか。足ももう用意してあるよ」
手を握って門前にいる馬の頭を撫でるとアンジェが俺の手を強く握りしめた。
目だけ動かして彼女の方を見るとアンジェの口元がパクパクと開いては閉じてを繰り返すと唇を噛んで俯く。
「……怖い?」
そう首を傾げるとアンジェは首を横に振って
「わ、たし…馬に乗ったこ、と……ない」
といつもよりも自信のない声で言う。
あぁそんなことか……。旅が怖いとか、やっぱり行きたくないとかそうゆう不安をして損をした気分。
「大丈夫、それなら俺の後ろに乗ればいいよ」
馬にまたがってアンジェに手を差し出すと「ありがとう…」と少し笑顔になって言う。
「どういたしまして。しっかりつかまってた方がいいよ」
手綱をふるうと馬が一つ大きく嘶嘶いて走り出す。
今回のクエストはいつもより荒れるような気がした。