01
私達はいつも一緒だった。産まれた病院、幼稚園、小学校、中学校、高校、そして受験する大学。別に口裏を合わせた訳じゃない。偶然に偶然が重なって私と幼馴染はいつも一緒だった。
私の幼馴染の名前は華幡望。高校3年生。文武両道、容姿端麗、純粋無垢…等々、あらゆる賛辞を一身に受けるために生まれてきたかのような少女。異性に好かれるのは勿論、最初は妬み嫉みの眼差しを向けていた同性達も完璧で心優しい彼女の性格に毒気を抜かれ最終的には皆好意的になってしまうのだ。その様子はさながら少女漫画のヒロインのようだった。
対して私は、宮下希衣。望と同じ高校生3年生。勉強は嫌いではないが平均。運動はどちらかといえば得意。容姿は平均より身長が高いくらいで
特に美人という訳でもスタイルが良いわけでもない。悪くはないが特出して良くもないそれが、私である。唯一、特徴的なのは、自己犠牲的と周りの人間に評価される性格だろうか。別に特別なことをしている訳では無いけど、困ってる人が居たら助けたいし、むしろそうあるべきと無意識に自分へ言い聞かせていたように思う。きっと私はそのために生まれてきたのだと、私の役割なのだと、だって私にはそうするしか普通の私が彼女の隣に立てる資格はないのだから。
これが後に色んな面倒を引き起こすのだが、今の私は知る由もなかった。
「あの子と自分を比べて辛くならないの?」
幼馴染と私の差を見た人間は必ずと言っていいほど私にそう聞く。
「辛くないか…ねぇ。そんなのどうでもよくなっちゃったよ」
「あはは…まぁ、あの子は完璧だもんね。きっと僕も宮下さんみたいずっと一緒にいたらどうでもよくなっちゃうだろうなぁ」
夕陽に照らされ朱に染まった教室はガランとしていて、目の前の彼の乾いた笑いがやけに響いた。やっぱりそう思う?と苦笑を返して書いている途中の日誌に視線を戻す。
別に私は望のようになりたいとは思わない。そりゃあ、羨ましいとは思うけれど…。
人間には人それぞれ役割があると私は考えている。例えばれば、ひとつの会社。社長をはじめ、部長、課長、平社員などそれぞれがそれぞれの役割を果たしてはじめて会社が成立する。それと同様に世界にはお話の中でいう主人公、悪役からその他大勢…そんな役割を与えられて私達は生まれてくる。望はそれでいう主人公、私はその他大勢。幼少期から感じていたこの差は何をどうやったって努力したって埋まらなかったし、今は埋めようと思わない。別に卑屈になっているわけではない。私は私なりに今の自分に満足しているし、数え切れないくらい望(主人公)に助けられてきたのだ。だったら、私は彼女をその他大勢の位置から見守って応援して、時には身を投げ打って助けたい。それが私の役割なのだと思っている。だから2人と自分を比べてどうこうことなんてもうどうでもいいのだ。
書き終えた日誌を閉じて私は立ち上がった。
「さて、日誌も書けたし私は図書室で勉強してる可愛い主人公の所に行きますかね」
「あはは、何それ。じゃあ、後はやっておくよ」
「ありがとう。日誌は私が提出しに行くから、よろしくね」
じゃあまた明日と彼に声をかけて教室を出ると足早に目的地に向かっていった。
「まぁ、僕は君の素晴らしさを知っているけどね」
静かな彼の呟きが朱色の空間に溶けていったのを私は知らない。
「希衣、日直お疲れ様」
「ありがとう望。おまたせ」
図書室のドアを開けると花のほころぶような笑顔が迎えてくれた。
望の向かいに座って教科書と問題集を取り出していると、ふと先程言われた事を思い出して目の前の彼女を見やる。窓から差し込む茜色の光の中、色素の薄い髪が反射して淡くキラキラと輝いているようだった。ただそこに座っているだけなのにそこだけ別世界に切り離されたように私の目に映る。大袈裟かもしれないが、聖域のような神聖さまでもを感じる。
私はきっとそこには住人にはなれない。やっぱりどうしたって私はこの幼馴染と自分を比べる気にはならないのだ。
「えっと…希衣?どうしたの?」
じろじろ見過ぎていたのか、望が困ったようようにオロオロしていた。何だかその様が小動物に見えてしまって思わず口の端が緩む。さっきまではあんなに女神のような輝きを放っていたのに今は
「ううん、望が好きだなぁってさ」
すらりと口から出た私の言葉に、望はぽかんと口をあけた。それからややあって空に負けないくらい顔を真っ赤にさせると両手で顔を覆い隠してしまうのだった。やっぱり幼馴染は可愛い。
そんな彼女をにやにやと見ていると、場の雰囲気を変えようと望が口を開いた。
「あ、そ、そういえば!今日の日直1人だったけど大変じゃなかった?教室の展示物撤去とかあったし…やっぱり手伝えばよかったよね」
「いや、2人だったよ黒野君と」
「そうだっけ?」
何となく腑に落ちなそうな反応の望に気づかないまま問題集に視線を落とした私は望の呟きには気づかなかった。
「黒野なんて人いたっけ…?」
はじめまして。
サラミ・ジャーキー・カルパスと申します。
金剛の心臓を読んでいただきありがとうございます。
こちらのサイトでは初投稿でございます。
二次創作とかでちょこちょこ文を書いてたりしますが、文章って難しい…。
まだまだ勉強中のため、お手柔らかに…書いてるうちに成長できたらいいなぁ。
今までパッと消えてパッと現れるタイプだったのですが、この小説はどれだけ時間かけても頑張れたらいいなぁ。