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1000pt以上作品 

ボス部屋前で婚約破棄された私は、お菓子好き。

作者: 赤ポスト

ファンタジー婚約破棄を書きたくて。

ここはとあるダンジョン。

洞窟の中に私たちはいる。

多くの兵士に囲まれ、彼らの持つ松明で周囲は照らされている。

私が着ている、黄色のドレスが作る影が壁に映る。

そして今いる場所は、ボス部屋の前。重厚な扉が目の前にある。


ダンジョンデートに行こうとの誘いに乗ったらこれだ。

不吉な予感はしていた。

ダンジョンデートという、「なにそれ?」なイベントに胡散臭さを感じてはいたものの、明確な拒絶をしなかったので今ここにいる。


「君との婚約を破棄する」


私に向かって高々に宣言する第二王子。

端正な顔で私を見つめる。

その後ろには、洗練された衣装を身にまとっている女性。

田舎貴族から瞬く間に成り上がり、私から王子を奪った女、マリア。


「君がしたことは彼女からすべて聞いた」


それから彼は、私がしたとされる悪事を話す。

全く身に覚えがない出来事を淡々と話す彼。


一つの悪事事に、後ろのマリアは思い出したかのようにつらい顔をする。

「ごめんマリア、つらいだろうが、今は耐えてくれ」とマリアを心配する王子が滑稽に見えてくる。全く身に覚えがない事なのだが、全て私のせいにされている。

唖然としている私に、王子の後ろでマリアが不敵な笑みを浮かべる。

それで確信した、私は嵌められた。


「ということだ。僕は君との婚約を破棄する」


二度目の宣言。

一回目で分かっているが、彼は宣言する。

しかし、唖然としている場合ではない。

誤解を解かないと。


「待ってください」


というが、第二王子にさえぎられる。


「安心したまえ。君は私達を守って死んだということにする。侯爵の父上にもそう報告しよう。義礼金も出す。この場で殺しはしない。王家の伝統だ。君にもチャンスをやる、生き延びられる可能性も有るだろう」


すると、彼の兵士が私に近寄ってくる。

抵抗する私を拘束する。

数人がかりでボス部屋の扉を開け、私を中に放り投げる。


私は扉を見る。

徐々に閉まる扉の先で、第二王子はやりきった顔をし、私から王子を奪ったマリアは微笑みを浮かべている。

バタンっという音と共に、目の前で扉が完全に閉まる。







『―――GUOOOOOOOOOOOO!!!―――』


と叫び声。

大きな声に振り返ると、そこにはミノタウロスがいた。

巨大な姿に、筋肉の鎧。

体中から発している強者のオーラ。

そのミノタウロスが斧を右手に持ち、私を睨んでいる。


私に戦闘経験などない。ただの貴族令嬢だ。

叫ぶ声で一瞬体が固まるが、すぐに我にかえる。


逃げなきゃ。


その思いが私をつき動かす。

すぐに扉に近づき、開けようと頑張るがびくともしない。

何やら青白い光が扉を覆っている。

この光が扉を封じているのかもしれない。

そう観察した瞬間、後ろで足音が聞こえる。


振り返ると、ミノタウロスが斧を振り上げながら突っ込んでくる。

その姿に恐怖心を抱くも、なんとか避ける。

直後の衝撃音。

ミノタウロスの斧が扉を叩いたようだ。

私は直ぐに駆け出して距離をとる。

心臓が高鳴る。

鼓動が速い。


私はキョロキョロと頭を動かし、出口を探す。

が、ない。

なにもない。


やばい、どうしよう?と思った瞬間。

再びミノタウロスが私に向かって全力で駆けてくる。

逃げようと思ったが、恐怖で体が動かない。

先程は動けたのに、何故か今は体が動かない。

ミノタウロスが扉を叩いた衝撃音のせいかもしれない。

その音で、私は自分が斧で八つ裂きにされるシーンを想像してしまった。


ミノタウロスの斧が私に振り下ろされる。

その瞬間、足がもつれてその場に倒れる。

ドシャンという音と共に地面がはじけ飛ぶ。

運よく攻撃を避ける事が出来た。


だが、私のすぐ近くにいるミノタウロス。

私は地面にお尻をつけている。

走ることはできない。

土煙があがるなか、周りを確認する。


すると、ミノタウロスが破壊した地面に僅かな穴が見えた。

蜘蛛の巣のようなもので満たされている穴。

私は躊躇しなかった。

全力でそこに駆け込んだ。

私は蜘蛛の巣に顔から突っ込み、中に進む。

私が通れるギリギリの大きさ。

そのためか、ミノタウロスは追ってこない。

衝撃が穴全体に響く。

ミノタウロスは、穴の入り口をガンガン叩いているようだ。


暫らく無心で進み、穴が少し大きくなっている所で休憩する。

立つことはできないが、横に長い空間。

私は深呼吸する。


ふぅ~疲れた。


久しぶりに全力で動いたので疲れた。

体中から汗が湧き出ている。

その汗が洞窟のひんやりとした空気で冷たくなっている。

それに、体中に蜘蛛の巣がついている。

私はドレスについたそれをとっていると、


ガサガサっと音がする。

ビクッとし、辺りを見回すと、暗闇に光、赤い目が二つ。

その光が近づいてくる。

私は思わず後ずさりするが、後ろには壁しかない。

足で地面をずりずりする。

土の山が私の足元にできる。


そして私の前に現れたのは、




蜘蛛?だった。




私と同じ大きさくらいの蜘蛛。

たくさんある足がせわしなく動かせている。

私が蜘蛛を見つめていると、


「おねえさん、どうしたの?」


っと声が聞こえる。

誰かいるのかと辺りを見回すが、誰もいない。


「おねえさん、わたし、わたしがはなしてるの」


と目の前の蜘蛛が前足を動かしながら頭をかいている。


蜘蛛がしゃべった!


恐怖よりも、驚きよりも、そのことに感心した。

蜘蛛が人の言葉を話しているのだ。

私は蜘蛛をまじまじと見る。

よく見ると、子供っぽいかわいさが見て取れる。

それに話し方・・・


「あなた、話せるの?」

「うん、はなせるよ。おじいちゃんに、「ことば」おしえてもらったんだ。わたしの「ことば」、へんじゃない?」


「おかしくないわ」

「ほんとう!うれしいなぁ~。さいきんはしたいばっかりだったから」


私は、蜘蛛を見ていた。

どう見ても蜘蛛にしか見えないが、言葉を話す。

高度な魔物は、稀に言葉を話すこともあると聞いた事があるが、目の前の蜘蛛は幼く見える。


「あなた、一人?」

「わたし?わたしはだいたいひとりかな。でも、おじいちゃんもいるから、ひとりじゃないかも~」


先程からいう、お爺ちゃん。

この子に言葉を教えたらしい人物?

いや、ご高齢の蜘蛛だろうか。


「その、お爺ちゃんっていうのは、私と同じ人なの?」

「おじいちゃんは、う~ん、どうだろう~。はんぶんひとかな。よくわかんない」


半分?

蜘蛛と人間のハーフだろうか。


「このダンジョンから出たいんだけど、道分かる?」

「う~ん、わたしにはわからないかな。でも、おじいちゃんならしってるよ。なんでもしってるから。おじいちゃんのところ、あんないしてあげる」


「ありがとう、そいういえば名前はなんていうの?」

「わたしのなまえは、セリア。おねえさんは?」


「私の名前は、アリスよ」

「よろしくね、アリスおねえさん」


こうして私は子蜘蛛?セリアについて狭い穴の中を移動した。





蜘蛛の巣まみれになりながら着いた先には、一つの扉。

その扉を蜘蛛のセリアが足で器用に開ける。

その先には大きな広間。

様々な家具や、装備品が集められていた。

まるでどこかの屋敷の一室の様だ。


「おじいちゃん~、おきゃくさんつれてきたよ!アリスおねえさん」

「ばかもん。いつもいってるだろ、部屋に入る時はノックをせんか!」

「ごめんなさい。でも、びっくり。ひとだよ!アリスおねえさん、ひとだよ!」

「なぬ!」


机に座って何やら本を読んでいた老人がこちらを振り返る。

白髪の長髪、顎から伸びる白髭は床につきそうなぐらい伸びている。

その老人が私を見る。


「人じゃ!人じゃ!」


何やら叫んでいる老人。

読んでいた本を放り投げてこちらを見ている。


「こんばんは」


とりあえず挨拶する私。

蜘蛛の巣まみれの服だが、一応、貴族風の仕草をする。


「おぉ!こんばんは。でも、何故人がこんな所に?」

「それは・・・・」



私はここにきた経緯を話した。

王子に婚約破棄され、ボス部屋にいれられ、偶々ボスのミノタウロスが壊した壁の中に蜘蛛の巣でつまった穴を見つけ、そこに駆け込み蜘蛛のセリアと出会い、ここにきたと。


「大変じゃったの!しかし、王家はいつの時代もかわらんな~」

「そうなのですか?」

「わしの若い頃もそんな様な話が合った」


この老人、王家にゆかりのある人物なのかもしれない。

こんなダンジョンの奥深くに住んでいるので、ただものではないと思うが。


「そうですか。それで、ここから出る方法なんですが?」

「それは、あのミノタウロスを倒すしかないのじゃ」


「でも、私、普通の貴族令嬢で、戦闘などは・・・」

「う~む」


白髭を触りながら考え込む老人。

モフモフと白髭を触っている。

数秒後、顔を上げ、私を見る。


「お主から僅かに魔力が溢れてきておる。なんとかなるかもしれん!」


老人は、山と積まれているガラクタ?の中を探り、何やら一つの瓶を取り出す。

中には青い液体が入っている。


「なんですか、それは?」

「これは、儂がつくった覚醒薬、スーポヌール液じゃ。これを飲むと潜在能力が開花し、能力に目覚めることができる。そこにいる蜘蛛のセリアも、この液体を飲んで人の言葉を話せるようになったのじゃ」


「えっへん」というポーズをする蜘蛛のセリア。

何故か誇らしげだ。


「それじゃ、これを飲めば私も?」

「うむ。お主に何かしらの才能があれば可能じゃ」


老人は私にスーポヌール液を差し出す。

私はそれを受け取り、眺める。

見た事もない青い液体。

綺麗だ。

だが今は観賞している時ではない。

心を決める。

そして飲む。


「後、一応副作用があるのじゃ。激痛に襲われるから注意するがよい」

「そうそう、わたしも、すっごく、すっごくいたかった」


「え?」っと言おうとしたが、いきなり体中に電撃が駆け巡る。

体中を、針でさされているかのよう痛みが襲う。

痛みで体勢が崩れ、床に俯せになる。

そのまま床の上で転げまわる。


「気を失う方が楽じゃぞ。なぁ、セリア」

「うん。わたしも、すんごっくつらかった。だから、ガーンってかんじできぜつしたの」


が、私はあまりの痛みで気を失う事が出来ない。

それができればどんなに楽な事か。

私は床の上でピクピクと震える。


「しょうがないのう。確か・・・」


といい再びガラクタの中を探る老人。

はやく。

はやくしておくれ。

お爺さんや。

わたしダメかも・・・


と諦めかけた瞬間、お爺さんはガラクタの中から一つの瓶を取り出す。


「これで眠れるはずじゃ。セリア手伝ってくれ」

「わかったよ~」


セリアの長い脚で拘束される私。

痛みで体がピクピク震える。

そんな私を強力な力で抑え込む。

思ったより力があるようだ。


「セリア、天井を向かせるのじゃ。これだと上手く入らん」

「りょうかい~」


私の目に映るのは天井。

老人が私の口に液体を流し込む。

喉を通っていく液体。


「これで大丈夫じゃ」


その声を聞き終わるかしないうちに、私の意識は消えた。





「起きたかのう?」


目覚めて体を起こすと、老人がコーヒーらしき物を飲んでいた。

カップから湯気が出ている。

当たりを見回すと、私はベッドの上で寝ていたようだ。


「体はどうじゃ?」


私は体を確かめる。

特に問題ない。

あれ程私を苦しめた痛みが嘘のように消えている。

何も感じない。


「大丈夫そうです」

「そうか、それはよかった。それでお主の能力じゃが・・・」


老人は机の上にある変な眼鏡の様な物をとる。

それを装着し、私を見る。


「うむ。これは珍しい」

「なんですか?私の能力は?」


気になってベッドから降り、老人にかけよる。

老人は眼鏡?を外し、机の上にそれを置く。


「驚くでないぞ。なんと!触った物をお菓子に変える能力じゃ!」

「え!」


私は驚愕した。

よく意味が分からなかった。

お菓子に変える?

触った物を?

老人は、そんな呆然としている私を見、


「とりあえず、何か触ってみるのじゃ。お菓子を思い浮かべ、「タッチ」と言えばいいはずじゃ。ほれ、この石ころでどうじゃ」


老人は私の手の中に石ころを押し付ける。

私は、飴玉を想像し、言葉を発する。


「タッチ」


すると、手の中に合った石ころが飴玉になっていた。

うぉ!っとビックリする。

手の中に確かにある飴玉。

それを目の前にかざす。


「すごい」


思わず声が出る。

だって、凄いから。


「本当に凄いのう。味はどうなんじゃ?」


私は飴玉を口の中に入れた。

街で売っている飴と同じだ。

私が想像した飴と同じ味。


「美味しいです」

「そうか、他にはなにかないか?」


とお爺さんが私に聞いたとたん、私の体が硬くなる。

見る見るうちに体が石の様になっていく。

そして・・・全身石に。


「ほ~う。飴にした物の能力を、一部受け継げるようじゃのう。珍しい」


私は石になった体を動かそうとするが、中々動きづらい。

何十倍もの重力がかかっているようだ。


「直に元に戻るじゃろう。焦らぬことじゃ」



その言葉通り、数分後、私の体は元に戻った。

ほっとした。

あのまま石のままだったと思うとぞっとした。

でも、便利な能力だ。

これで食糧には困らない。

変な物をお菓子に変えなければ危険性もないだろうし。





「おねえさん、アメちょうだい!」


蜘蛛のセリアが足を器用に動かしながら私に迫る。

そのポーズは催促のポーズである。

セリアが私に何かをお願いするとき、いつもするポーズ。

前足の4本をスリスリしている。


「駄目。一日一個までっていったでしょ」

「でも、さっきのはもうたべちゃった。また、いしころになりたい!」


「駄目。セリア、洞窟の掃除さぼったでしょ。おかげで私の服が蜘蛛の巣だらけよ」

「ごめんなさい。じゃあ、おそうじしたらくれる?」


「考えます」

「わたし、そうじしてくる~」


蜘蛛のセリアは部屋を出て行った。

私は老人から部屋を一つ貰い、そこに住んでいる。

老人は洞窟内にいくつか部屋をもっており、用途ごとに使い分けているようだ。


私は様々な物をお菓子に変えていた。

ケーキやクッキー、チョコレート。

何故か料理には代えられなかった。

ステーキとかできるかな~と思ったけど、出来なかった。


又、変えられる原材料も豊富だった。

石ころに蜘蛛の巣といった無機物。

蜘蛛のセリアが捕まえてきた、コウモリや芋虫などの生物。

さすがに、コウモリの飴玉を食べるのは「うげ!」って気分だったが、味は変わらなかった。背中から羽が生える事はなかったけど、超音波の様なものを飛ばし、周囲の地形を把握することができた。

色々便利な能力がいくつかあったので、飴玉にして携帯している。





そんなこんなの生活をして1カ月。


「アリスおねえさん、ほんとうにいっちゃうの?」

「アリス嬢よ・・・又、寂しくなるのじゃ」


「私は行くわ。今までありがとう」


私は一ヵ月過ごしたお爺さんの部屋を後にする。

腰には、飴玉がたくさん入った袋。

背中にはリュックサックを背負っている。

自称、発明家のお爺さんから色々な物を貰った。

それがリュックサックの中に入っている。

今後の生活に役に立つだろう。


私は小さな穴をくぐり、目的の場所に向かう。

そこはボス部屋、ミノタウロスがいる部屋。

お爺さんに聞いた、このダンジョンから出る方法。

それはミノタウロスを倒すこと。それしかない。


1ヵ月前に通った道を逆走しながら進む。

様々な思い出が浮かんでくる。

なんだかんだいって楽しかった洞窟ライフ。

それも直に終わるだろう。


小さな洞窟をはって抜けると、久しぶりの場所。

あのボス部屋にたどり着いた。

一ヵ月前はただ恐怖を感じた場所。

懐かしさを感じる。

その瞬間、聞き覚えのある叫び声が部屋に響く。


『―――GUOOOOOOOOOOOO!!!―――』


叫び声が空気を震わし、私の服を揺らす。

声の先にいるのは、この部屋の主、ミノタウロス。

私の姿を覚えていたのか、ミノタウロスは頭を僅かに傾げる。

そして再び吠える。


『―――GUOOOOOOOOOOOO!!!―――』


私はその空気の振動、闘気を全身で感じる。

でも、私は怯えていなかった。

洞窟ライフが私を変えた。


私は覚醒したのだ。


私は腰の袋から一つ飴玉を取り出し、口に入れる。

そして食べる。


右手をミノタウロスに向ける。

そして、手首から蜘蛛の糸を放出する。

その糸がミノタウロスの顔にかかる。

それをとろうとするが、逆に糸が手に絡みつくミノタウロス。


よし!上手くいった。


先程食べたのは、蜘蛛の巣を飴玉にしたもの。

これを食べると粘着性のある蜘蛛の糸を出せるようになる。


私は暴れるミノタウロスに近づく。

ミノタウロスは顔にかかった糸をとるのをあきらめ、斧を無茶苦茶に振り回す。

そのせいで、中々近づけない。

私はミノタウロスを周囲を回りながら糸を放ちまくる。

ミノタウロスの足を地面に固定しようとする。

が、糸の粘着力が弱いためか、動きを止めることはできない。


それなら!


私は腰の袋からさらに飴玉を取り出す。

そして3個一気に口の中にいれる。

そして、手首から糸を放出する。

先程より濃い蜘蛛の糸。

それがミノタウロスの足と地面にかかる。


私は何重にもかける。

すると・・・・ミノタウロスの右足が地面と固定される。

なんどもがんばって足を動かそうとするが、地面が足から離れない。


私は同じ要領で、左足、右手、左手を固定する。

煩いので口も蜘蛛の糸で塞いだ。



そして、ついにミノタウロスは動けなくなる。

顔だけ必死に動かしている。

糸まみれになったミノタウロス。

蜘蛛の巣に捉えられた獲物。

今のミノタウロスは敗者だった。

弱肉強食のダンジョン。

その上層にいたであろうミノタウロスは、一気に落ちた。

今ではただの獲物であり、食糧。


私はミノタウロスに近づき、頭の中で飴玉を想像して唱える。


「タッチ」


が、何も起こらない。


やはりか。

どうやら、ダメージがたりないようだ。


これは他の生き物でも経験がある。

一定以上のダメージを与えないと、生物の場合「タッチ」が効かない。


しょうがない、私は背中のリュックの中から、ナイフを取り出す。

それで、チクチクとミノタウロスを切り刻む。

ナイフの色が僅かに赤くなる。


どうやら成功だ。


私は振りかぶり、全力でミノタウロスにナイフを突き刺す。


が、刺さらない。

ガシャンという音と共に、ナイフがはじかれる。


非力な私だ。

つい最近まで、紅茶より重い物を持った事がない、元貴族令嬢の私。


私は腰のポーチから飴玉を一つとる。

それを食べる。

すると、体中に力がみなぎってくる。

体中の筋肉が活性化するのが分かる。


食べたのは、モグラの飴玉。

腕の筋力が上昇する。


私は、ナイフを再び持ち、突き刺す。

今度はやすやすと刺さる。

軽快な手ごたえ。

ミノタウロスの固い皮膚を貫き、ナイフは根元まで深々と刺さる。


すると、ナイフの色がどんどん赤くなる。

これはこのナイフの特性だ。

コウモリの飴玉を作っていて気付いたが、同じ生物でも複数種類の飴玉を作る事が出来る。

その中の一つ。

吸血の飴玉。

その飴玉をナイフの柄の空洞部分にはめ込む。

すると、そのナイフに飴玉の性能を付与することができる。


お爺さん手作りの、私だけのオリジナル武器。


ナイフは真紅にそまっていく。

後は時間の問題だ。

私は近くの岩に座り、その光景をぼけーっと見る。

ナイフが真紅に染まるほど、ミノタウロスから生気が消えていく。

最初の方は顔を激しく動かしていたが、今ではそれも僅かだ。

眠っている子供の様に、ときおり、コクリと頭を動かす。




しばらく時間がたった頃。


もうそろそろだろう。

私はミノタウロスに近づく。

血の気がないミノタウロス。

僅かに体全体が萎んでいるようにも思える。

私はミノタウロスの足に触れ、飴玉を想像する。


「タッチ」


すると、目の前のミノタウロスが光の粒子となる。

カランっと音を立てて、私のナイフが地面に落ちる。

そして、私の手の中に現れる飴玉。

私はそれを確認し、腰の袋に入れた。

真紅に染まったナイフを地面から拾い、リュックサックにいれる。



次の瞬間。

ゴゴッという轟音と共に、入口のドアが開く。

扉を覆ってい青白い光は消えていた。


私はその扉をくぐった。






◇◆◇







第二王子がアリスと婚約破棄して3ヵ月後。


王国は荒れていた。


王子はアリスが事故で死んだと宣伝したが、市民は納得していなかった。

死んだのがアリスだけ。

多くの兵士を連れて行き、アリスだけ死ぬ。

そんな不可解な事に納得できる程市民は穏やかではなかった。


名もなき者ならいざ知らず、アリスは市民の間で評判が高かった。

表だって宣伝していなかったが、様々な慈善活動を活発に行い、多くの者がアリスに救われていた。


又、新しく婚約者となったマリアの評判が物凄く悪かったことも影響していた。

「王子の前とそれ以外の者との前での態度が全く違う」という噂が市民の間に広まっていた。

その噂のあまりの生々しさに、噂の出所はアリスの身近の者と言われている。



そんな市民の不満を利用し、第二王子を糾弾する第一王子。

アリスの父親やアリスが世話をしていた孤児院、学校の者たちも第一王子派に加わり、第二王子派は急速に求心力を失っていた。

ご高齢の国王の病状が悪化し、次の国王選定はすぐ目の前と言われている状況。

第二王子は焦っていた。





そんな中、市民の間には、不思議なお菓子屋さんの噂が流れていた。

なんでも、特別なお菓子を売っているお菓子屋さん。

そこにある特別な飴を食べると、願いが叶うとか・・・

市民だけでなく、貴族も隠れて通う店。




ある日、お忍びでその店を訪れた第二王子と婚約者のマリア。

店員は、ローブで顔を深く隠した女性。


第二王子は問う。


「願いが叶う飴玉があると聞いた、それは本当か?」


こくりと頷くローブの女。


「それならば、私は王になりたい。父を越え、兄弟の中の争いを勝ち、王になりたい。それを叶える物はあるか?」


再びこくりと頷くローブの女。

そして腰の袋から二つの飴玉を差し出す。

それを王子と婚約者に差し出す女。


「これを食べれば、私は王になれるのか?マリアも食べる必要があるのか?」


再びこくりと頷く女。


「分かった。マリア一緒に食べよう」

「ええ」


そうして二人は飴玉を食べる。


次の瞬間、二人は光り輝き、体が石のようになる。


「な、なんだこれは!体が・・・・」

「まるで石のようだわ!」

「貴様!何をした、魔女め」


目の前の女はローブのフードをとる。

露わになる顔。

その姿を見た王子と婚約者は驚愕する。


「お前は・・・アリス」

「何故・・・死んだんじゃないの・・・」


「第二王子様。あなたに感謝するわ。あなたにチャンスを貰ったから、今こうしてここにいるの。特別な能力も開花した。あなたと結婚していたら開けなかった道。だからあなたにもチャンスをあげる」


石のように固まって動けない二人。

アリスは二人をまじまじと見る。

アリスは袋の中から飴玉を3つ取り出す。

赤色、青色、黄色の飴玉。


「この中に一つだけ当たりがあるわ。当たりを取ればあなたは自由よ。もし、はずれだったら・・・よくない事が起るわ。とってもよくない事が」


ごくりと唾を飲む王子とマリア。

アリスはマリアを見る。


「マリア、あなたの運命は第二王子の選択次第よ。夫婦はどんな時も寄り添うものでしょ」


苦々しい顔をするマリア。

再びアリスは第二王子を見る。


「ヒントをあげましょうか。私が好きな色が当たりよ。私と婚約までしたあなただもの。簡単でしょ。因みに、私があの日、ダンジョンで着ていたドレスの色よ。ヒント、出し過ぎかしら・・・」


アリスは第二王子の肩をポンポンと優しく叩く。

体が石化して動けない第二王子とマリア。

王子は悩んでいるようだった。

顔を険しくする。


「あと、5秒以内に選んで。さもないと外れよ」

「分かった!分かった!そうだ、赤色だ、赤色の飴玉だ!」


「そう、それならどうぞ」


アリスは第二王子の口の中に赤い飴玉を押し込む。


すると、体が光りだす王子。


そして、現れたのは石像の王子。

彼の姿は変わっていない。

が、彼から生気が消えたように見える。


「どうなってるのよ?」


マリアはアリスに叫ぶ。

アリスは微笑む。


「彼は間違えたの。だから罰を受けたの。彼は後数百年ほど石像の姿のまま暮らすことになったわ。ただ、石像として、意識はあるけど何もできない」

「な・・・私は・・・その、ごめんなさい。私、あなたを陥れる気は無かったの。第二王子にそそのかされたの」


アリスは微笑んだまま。


「そう、なら、あなたにもチャンスをあげるわ。残る飴玉は二つ。正解を当てれれば自由よ。どっちを選ぶの?」


アリスはマリアの前に飴玉を二つ差し出す。

黄色と青の飴玉。


「私は・・・青よ。青の飴玉」

「そう・・・」


といい、アリスはマリアの口に青い飴玉を流し込む。

すると、マリアの体は光りだす。

そして、マリアも石像になった。











私は二つの石像を眺めている。

第二王子とマリアの石像。

特別な石をタッチし飴玉にし、その後さらに濃縮還元した飴玉を彼らに与えた。

数百年は石像として過ごすことになる彼ら。

ただ意識を保ちながら、五感を保ちながら暮らすその日々。

彼らはそれをどう感じるのだろうか?

いや、今何を感じているのだろうか?

私には分からない。



とりあえず、この石像は邪魔ね。

ここに有っても景観を壊すわ。

この石像をどこに置こうかしら?


そう漠然と考える私であった。


読了ありがとうございます。

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ご感想、お待ちしております。


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― 新着の感想 ―
[一言] 王宮の中庭とか市民公園あたりに愚か者ここに眠るって書いた立て札おいてやればいいと思うよ。
[一言] 数百年後の王子達を続きにすると面白いと思います。
[一言] ボスにひたすらナイフを刺しまくる主人公… すっごく冷酷でたくましくなったねぇ… まぁ、あんな目に会えば無理はないかと
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