だいいちわ!
「今日は校庭でドッヂボールやるので外に出てください!」
朝のHRが終わるなりこう叫んだのは女子体育委員の夏島茜。
「アカネ、体育着じゃないと駄目ー?」
「駄目に決まってるでしょ!?体育だよ!?」
「ふふふ、忘れちゃったよー、どうしようアカネー」
「アオイ!?今日体育あるって言ったよね!?」
アオイは正しくは夏島葵といい、茜の二卵性の双子の妹で、ほのぼのしているのが特徴。
「全くしょうがないなぁ。ほら、アオイ。体育着」
「え、アリサ、二枚持ってんの?」
「アオイみたいな人が忘れると思ってね」
「さっすが!ほら、アオイお礼は?」
「ありがとう、アリサ!」
「ノン、早く外出るよー」
「分かった、カッチー」
ノンは笹木望、カッチーは勝島稚波の事。二人は幼稚園からの幼馴染み。
「ノン、カッチー、私も一緒に行く!」
「いいよー!」
「アリサはドッヂボール得意?」
「苦手かな。ってか運動神経ない事知ってるよね!?」
「あ、そういえばそうだっけぇ。アリサ、体育は1だもんねぇ」
「余計な事は言わなくていいっ!…ん?」
立ち止まった三人の目線の先には、正体の分かりきった生き倒れる人間。
「あれ…トオルだよね?」
とカッチー。
「怖い…いい加減やめてほしいよね」
と、怖がりながらノン。
「トオル!あんた何やってんの!」
はぁーっと長い溜め息を吐いてから、最後に私。
「は…腹へった…」
「また朝御飯抜きなの?」
「寮長も厳しいねー」
厳しい寮長の餌食になっているトオルに、気ままに暮らせる女子寮の寮長のノンと、副寮長のカッチーと、女子寮清掃委員長の私が慰めの言葉をかける。
「んもう、今日お弁当半分上げるから。ほら、体育遅れるよ」
お弁当、と言った瞬間に耳がピクッと動き、遅れるよ、と言った瞬間にはトオルの体は運動場へと向かっていた。さすが男子学級委員、遅刻だけは許さない。
「さて、それじゃ私たちも行こうか」
「天候は良好、本日晴天なり」
ポツリとサツキこと奥山皐がドッヂボール中に呟いた。
「え、なになに、どうしたのいきなり!」
「え、なんかかっこよくない?そうだ、文化祭はこの題名で劇を…」
「却下」
「そう…だね、うん」
ノンと私とサツキが、コートの角で会話する。相手がそれを、見逃すはずもなく。
「三人とも、危ない!」
アカネが叫ぶ。
体育が5の超優等生ノンとサツキは、それを聞いてサッと左右に避ける。しかし、ボールは曲がることなく飛んできて。
「きゃぁぁっ!」
私の顔面へダイレクトに直撃した。
「痛ぁ!!!!」
幸い横顔だったので、鼻の骨折とかはないと思いたい。
投げたのは誰だ。そう思って相手コートを見渡すと、心配する女子クラスメイトの中に1人、オロオロしている人がいた。
「…ユウキ?」
「は、はひっ!」
一目瞭然。
「あ、今のユウキが投げたんだ」
「そ、その、ごめんね!顔に当てるつもりなかったんだけど…」
そりゃそうだ。顔面に当てるつもり満々で投げられたらたまったもんじゃない。
「うん、大丈夫だよ」
「ほ、本当?」
やけに周りのクラスメイトが優しい。
「な、なんかどっか駄目なの…?」
「え、ちょっと、アリサ気付いてないのー?」
「?なんの事?アオイ」
「アリサ、ほっぺの横から血出てるよー?」
「え」
ほっぺの横を触ると、確かに血の香りがした。
「まじか!」
「あ、あの、本当ごめんね!?」
「いや、大丈夫だって…」
そこに、先程どこかへ行ったアカネが帰ってきた。
「駄目、体育の先生、今日休みだって。代わりに、トオル呼んできた」
「うわ、だっせーなお前!ドッヂボールだろ?」
「うっさいなあ」
「いいから、見せてみ?」
「…っ」
トオルの顔が近い。頬がだんだん赤くなる。
「お前、顔赤いけど。本当に大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫っ!」
すぐにでも、走って逃げたい気持ちだった。
そんな気持ちを知るはずもなく、トオルは怪我の消毒をすませ、絆創膏を貼った。
「うわ、自分で貼っといてなんだけど、その位置に絆創膏ってちょっとな…」
「で、でも、大して怪我しなくて良かった!」
ノンがフォローする。優しいやつだな。
「…だって…委員長休んだら私が代わりに仕事しなきゃなんだもん。…面倒くさい…」
前言撤回。学級副委員でもあるノンは自分の利益の為にフォローをしたようだ。
「ノン…?心の声だだ漏れなんだけど」
「ハッ。つい、本音が」
「どーする?再開する?」
アカネが問う。答えはもちろん。
『帰る!』
それ一択に尽きる。
教室に着くと、ちょうどチャイムが鳴った。
男子も帰ってきて、騒ぎだす。そしていよいよトオルは空腹の限界で、倒れそうだった。
「もう…駄目だ…最後に超美味い飯が食いたかった…」
「お腹空いてるからでしょそれ」
「次の授業何…?」
「総合」
「何やんの…?」
それは知らない。でも総合って大体、色んな事をやるから未定が多い気がする。総合係に聞いてみよう。
今野道彦。秀才だが天然ボケの総合係。
「イマミ!今日の総合何やるの?」
「今日はね、文化祭の出し物を決めるよー」
「だってさ、トオル」
しかしトオルは、答えなんか期待していなく、ただ腹減った腹減ったと連呼するばかりだった。
そこで、二時限目開始のチャイムがなり、先生が入ってくる。
「んじゃ、何がいい」
「唐突過ぎますよ先生!主語をきちんと言ってください!それじゃあ伝わりません!」
「おう、どうしたその絆創膏。凄いとこに付いてんな」
「さっさと主語を言え」
先生はペロッと舌を出し、改めて生徒の方へ向き直る。この先生は、やれば出来るのだ。やれば。
「さて、今年も文化祭の季節がやって来たぞ!ちなみにみんなは、去年何をやったんだ?」
「お前さては学年知らないな?ここ何年何組だよ!去年は中学生じゃ!」
「先生はお化け屋敷だ」
「聞いてない!ってか話を聞け!」
疲れる。もうやだ、この先生。でも、そんなこのクラスが好きだったりもして。
「サツキは…劇だっけ?」
「うん!あのね題名は…」
「天候は良好、本日晴天なり」
「うわ!?なんで先言うの!?」
「別に。あとは…飲食店かな?」
『うん!』
ノンとカッチーとアカネとアオイが頷く。ただ単に自分たちが食べたいだけだろうに。
「あ、ユウキはどっちがいい?」
「わ、私はどっちでも大丈夫だよ」
「分かった。私は飲食店。男子は?」
数名が劇に投票したが、半数以上が飲食店に投票したため、飲食店に決定した。
「さて、配役とか係は明日決めよう。今日は方針だな」
先生がまとめる。
「カフェがいいなー」
「分かる!お菓子とか!」
「カフェとレストラン、どっちがいい?」
『カフェ!』
全員一致でカフェ。
「アリサは粉からミルクティー作るの上手いよね」
ユウキは私のどーでもいい特技を明かす。
「ユウキはお菓子作るの超絶上手いよ。神ってる」
私も負けじとユウキに仕返しをする。
「じゃあお菓子作りはユウキとノンとカッチー、飲み物作りはアリサとアオイでいいか?」
先生が勝手にまとめる。
「ちょっと!先生、私入ってないよ!?」
「アカネは接客よろしく」
「むぅ…」
「男子は客寄せと接客、頼んだぞ。事前の装飾や仕入れはみんなでやろう」
『はーい』
チャイムがなった。今日は短縮で二時限しかないため、今からが放課後となる。明日からも二時限だが、放課後は文化祭準備に使われる。
「ユウキ、トオル、帰ろ。トオル今日女子寮寄ってきな。ユウキのお菓子と私のミルクティーでお腹いっぱいにしてきなさい」
「サンキュ!それじゃ帰ろうぜ。また明日な、みんな!」
「じゃあねー!」
「バイバイ!」