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狐狗狸騒動記  作者: 風間 義介
二章
6/6

闇に吠える者

 鳴海 小鳥。それが失踪事件の鍵を握っている。

 それをつかんだ明晴たちは、明日、小鳥に少し話を聞いてみるという方針を立てて、その日は解散となった。

 だが、明晴は不穏な気配を感じた。おそらく、社に何かがあるのだろうと直感した明晴は、屋上に向かおうとした。それに気づいたのか、少し前を歩いていた月美が振りかえり、明晴に声をかける。

 「明晴、どこ行くの?」

 だが、明晴はその問いには答えず、さっさと屋上に向かって歩き始めた。月美は一瞬、麻衣子の方を見たが、気づいていないようなので、そのまま明晴を追いかけることにした。

 歩きながらでも、なんとなくではあるが、不穏な気配が漂っていることは感じ取っていた。

 明晴が屋上につくと、社の前にいる一人の少女が目に入った。少女の前にある社からは、屋上に行くまでの間に感じ取っていた、不穏な気配と同じ気配が漂っている。

 「あら、もう見つかったのね」

 明晴に気づいたのか、少女は振りかえり、笑みを浮かべた。その笑顔は、月美から感じられる暖かなものではない。もっと冷たい、そして人が恐怖していることを横から見て面白がっているという印象を受ける。

 「鳴海 小鳥、だな」

 「ええ……この少女の名前は、そうね」

 この少女の、と言っていることから、何かしら超自然的な存在が彼女に憑依している、あるいは、彼女になりすましているのだろうか。

 明晴は彼女から目を話さないように注意しながらそう考えていると、後ろから誰かがあがってくる音を耳にした。おそらく、月美だろう。ここに来る前に、声をかけられたことは覚えている。予想通り、月美が明晴の隣に来ると、小鳥は彼女にあの冷たい微笑みを送った。

 月美はその笑みを見てか、そっと明晴の背に隠れるように後ろに下がった。

 「ふふふ、かわいい」

 「お前は何者だ」

 明晴は小鳥に対し、きつい視線を送りながら、そう聞いた。小鳥はその質問に対し、つまらなそうに唇をすぼめた。だが、質問にはしっかりと応じた。

 「私が誰なのかなんて、重要なことじゃないんじゃない?まぁ、『無名祭祀書』にある神、外なる神とでも言えばいいかしら?」

 どうやら、明晴の悪い予感は的中していたようだ。

 『無名祭祀書』。『黒の本』と称されることのある儀式書は、様々な神を召喚する、あるいは神と交信するために必要な儀式次第が記されたものだ。だが、そこに記された神はいずれも邪なる神、すなわち邪神であり、人に害をなす存在でしかない。

 その儀式書を日本語に翻訳するために合宿を行い、好奇心に負け、記された儀式により神を呼び出し、その犠牲となったのが五十年前。そして、それから十年ごとに同じような形で、この世界に邪神を呼び出し、消えていったのだ。

 おそらく、それを最初に行おうとしたのが鳴海 小鳥なのだろう。そして、呼び出した存在を気に行ったためなのか、それとも単なる気まぐれなのか、呼び出された存在は彼女に憑依、あるいは彼女の姿を借り、十年おきに同じ儀式を行わせていたのだろう。そして、その神というのがおそらく、この社に祭られている存在、内荒斗彦(ないあらとひこ)だ。

 なぜこの神が呼ばれたのかはわからない。だが、大体想像はつく。

 そもそもの発端は、『無名祭祀書』に記されていた「ニャルラトホテプの招来」を試したのだろう。だが、封印されていたニャルラトホテプは招来に対し、姿をあらわすことができず、力だけが招かれ、鳴海 小鳥がその力に触れたのだろう。そして、その力が暴走した結果、他の部員が消えてしまったということなのだろう。

 それだけではなく、小鳥が彼の力に触れたことからつながりが生まれ、ある程度の意思疎通ができたのだろう。そのため、封印を確実に解除するという目的のため、十年ごとに本格的な招来の儀式を行わせ、普段は効果がかなり薄いもののそれなりのものを呼び出すこともある「こっくりさん」を広めることで、内側から封印を破ろうと考えたのだ。

 そして、今、ようやくその封印が破れ、つながりのあった小鳥の体を奪い、活動し始めたのだ。

 「やっと封印を解くことができたんだから、もう少し遊ばせてもらっても、いいわよね?」

 そう、冷たい笑みを向けた小鳥――ニャルラトホテプは、明晴たちに手をかざし、言葉を紡いだ。

 明晴はそれが何かしらの呪文だと瞬時に判断し、右手で刀印を結び、九字を切り、呪文を唱えた。

 「臨める(つわもの)闘う者、皆、陣(やぶ)れて前に在り!」

 宙に格子を描いた光が、明晴と月美の前に立ちはだかるが、それは一瞬遅れて完成した小鳥の呪文とぶつかり、光の格子は砕け散った。

 小鳥はそれを見ると、怒りに顔をゆがめた。小鳥は、学校内でも指折りの美少女だが、それを、どうすればここまで醜くゆがめることができるのだろうか。それほど名状しがたくゆがんていた。

 「なめるなよ、人間風情が」

 小鳥の声ではない。男のものでも、女のものでも、子供のものでも、老人のものでもない、まるで地獄の亡者がこの世にあらわれたのではないかと思えるほど、おぞましい声だ。その声を聞いていると、背筋に冷たいものを感じるだけではすまない。鳥肌が全身に広がり、呼吸が荒くなる。

 ともすると、理性を保てなくなってしまい、狂気に陥ってしまうだろう。だが、理性をギリギリで保つことのできた明晴と月美は、肩で息をしながら、小鳥を見ていた。小鳥はぎりぎりで恐怖に耐えた二人の姿を見て楽しんでいるのだろう。怒りにゆがんだ顔が、冷たい微笑でさらに醜く、冒涜的なものになっていた。

 明晴は、この冒涜的でおぞましい存在をこの世界に居させてはいけないと、本能的に感じ取り、その存在を抹消するために、この国の神、天津神に助力を請うための祝詞を唱え始めた。

 「|謹請、天照大神《きんせい、あまてらすおおみかみ》。|邪気解除、悪鬼伏祓《じゃきげじょ、あっきふくばつ》。急急如律令」

 明晴がそこまで唱えると、彼の体から金色の光が陽炎としてあらわれた。小鳥はそれを見ると、顔をひどくゆがめた。

 「くっ……潮時か」

 立ち去ろうとする小鳥の背に、明晴は刀印を向け、さらなる言葉を紡いだ。

 「神雷光華(じんらいこうか)!」

 その言葉に答えるかのように、空から白い光の筋が小鳥の背を貫いた。小鳥は屋上のフェンスを越えようとしていたということもあり、衝撃を受けてそのまま落下してしまった。

 小鳥が屋上から落ち、姿が見えなくなった瞬間、この世のものではありえないほど巨大な、翼を二つ持つ生物が小鳥を背に乗せて飛び去って行った。その背に乗っていた小鳥が、明晴たちの方を見た。その顔は、闇。

 そう、闇が顔は闇で覆われていたとしか考えられないほど、真っ暗だったのだ。

 そこまで見届けて、明晴は膝から力が抜け、その場に倒れこんでしまった。


 そこから、どうなったのかは明晴と月美も知らない。

 夕方頃になって人が落ちた、という通報を受けた警察が月華学園の屋上まで上がった時、倒れている明晴と月美、そして破壊された社が発見された。

 明晴と月美は社を破壊した、つまり器物損壊の被疑者として考えられたが、二人が社に頭を向けて倒れていたことと社そのものが古びていたということから、すぐに容疑が晴れた。

 そして、結局社が倒壊した原因と落ちたという少女の遺体が無かったことから、警察もすぐに学園から撤退することになった。

 だが、麻衣子は二人が何か知っていることを確信していた。そのため、何をしていたかを二人から根掘り葉掘り聞いてきた。明晴は、話していいものかどうなのかわからず、麻衣子の取材に答えあぐねている、といった感じだ。一方、月美は、なぜか「鳴海 小鳥」「内荒斗彦」の二つに関する記憶を全て失っていた。そのため、何も話すことができなかった。

 麻衣子はその事実を知り、二人がどれほどの恐怖を体験したのか想像がついた。だからこそ、これ以上、二人から追求することをやめた。そして、その恐怖体験がオカルト研究部の活動が原因になっているということはすぐに想像がついたため、オカルト研究部に対する取材も行わないという方針を決定した。また、新聞部の権力、もとい麻衣子の情報網による権力への脅迫により、オカルト研究部は廃部となった。元々部員数も少なく、現在の部員が三年生のみということもあり、決定・手続き等が速やかに行われ、オカルト研究部の部室は一カ月もたたないうちに倉庫となった。

 こうして、明晴たちは普段通りの生活に戻ることができた。だが、明晴の陰陽師としての勘が告げている。

 この恐怖は、一時的に見えなくなっているだけだ。闇の中から、虎視眈々と機会を狙っている。そう、山の中の闇に住まう狐や(いぬ)、狸が人を化かし、恐怖させる機会を狙っているように。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

ようやく終わったのはいいんですけど、途中からかなりの変更やちぐはぐがあったような気がします。

一応、満足はしています。してますけど六分咲きです。

ちゃんとメモ用意するんだった……

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