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狐狗狸騒動記  作者: 風間 義介
二章
4/6

神の性質~恵みをもたらすもの、災厄をもたらすもの~

 放課後、明晴は麻衣子から資料を受け取っていた。

 資料の内容は、この学園で過去に起こったこっくりさんが関連していると思われる怪事件の記録だ。こっくりさんが学校でよく行われる理由。それは、学校に通う年齢、すなわち十代の人間が、好奇心がもっとも強く、そして怖いもの知らずだからだ。

 「……分厚いな」

 「仕方ないでしょ、十年前までさかのぼってかき集めた資料なんだから」

 十年。それほどの長きにわたり、こっくりさんが行われてきたということだ。そして、この資料の分厚さが、それによりどれだけの被害があったかを物語っている。

 ――調べるしかないか

 明晴は心のうちでそう呟き、受け取った資料をもって教室へと向かった。教室に入った明晴は、受け取った資料を流し読みを始めた。被害者はほとんどがオカルト研究部の人間だ。おそらく、オカルト研究の一環として、こっくりさんを行ったのだろう。

 資料の内容は、以下のようなものだった。

 まず、十年前から行われていたこっくりさんは、屋上にある社に一時、こっくりさんに使用する紙を奉納し、使用後、ふたたび社に奉納することが習わしになっている。

 次に、こっくりさんが行われる最中、あるいは行われた後になって、必ず「稲荷」という単語を叫び、倒れてしまった生徒が存在している。

 そして最後に、こっくりさんが行われる前後になって、転入してくる他校の生徒がいた。そして、その生徒は共通して、それなりの美貌を持ち、人と関わることを避けていた。問題なのは、その生徒がこっくりさんに参加したあと、必ず怪事件が起き、こっくりさんを行ったオカルト研究部の生徒、顧問の教員ならびに一般参加者は残らず発狂。ひどい場合、精神病院に半永久的に入院している。

 ――ひどいな、これは……

 明晴は資料を読み、その冒涜的な情報を目にし、大きくため息をついた。流し読みだったため、細かな内容までは理解できていない。しかし、いくら成功率の少ないこっくりさんであっても、これほど頻繁に怪事件が起きるとは思えない。

 《奇妙だな……これほど頻繁に怪事件が発生しているとはな》

 「あぁ、奇妙すぎる」

 明晴は周囲に聞こえない程度の声で肩に乗っている子狐に答えた。

 こっくりさんは非常に簡単な交霊術だ。そして、誰でも扱える術であるがゆえに、霊と交信できる可能性はかなり低いものとなっている。だからこそ、そうそう簡単に霊が召喚されることはない。だが、それこそ天文学的数字ではあるが、時として最悪の事態を引き起こしてしまうこともある。

 おそらく、今回の一件がそれだろう。だが、今回の事例と同じ事例が十年も前から存在していること自体、おかしいことなのだ。

 ――こうも頻繁に怪事件が起こるということは、やはりあの社が原因か……

 明晴は天井を見上げた。

 天井の先にあるもの。それは、学校の屋上にある社。なぜか、この資料に何度も登場している、この学園の屋上にある社だ。

 一度調べてみる必要がある。そう確信した明晴は、資料を持って教室を出た。


 教室を出て、図書館へ行くと、月華学園の歴史についての資料をあさっていた。

 地域史、神道、古地図。ありとあらゆる資料が、明晴の座っている席にどっさりと積まれている。これだけの量の資料を一人で調べようとしているのだ。

 「これだけの量、一人で調べる気?」

 明晴が資料を読んでいる最中に、声をかけるものがあった。眼だけでその方向を追うと、そこには月美の姿があった。そして、彼女の肩には鬼見の人間でなければ視認できない、小鳥がいた。

 どうやら、この小鳥が明晴の様子を月美に知らせたようだ。

 「手伝うよ」

 言うが早いか、月美は明晴の隣に腰かけ、手元にあった資料に手を取った。その資料の内容は神道のものだ。

 「あぁ、その資料なら、これも一緒に見てくれ」

 明晴はそう言って一枚の写真を差し出した。

 社の写真だ。その写真から、社に祀られている神を知ることから、どのような神なのかを知ることが目的なのだろう。月美はそれを察したのか、黙ってそれを受け取り、資料を読み始めた。

 どれくらいの時間が過ぎたか、いつのまにか図書館閉館の合図である音楽が流れ始めていた。その音楽が一度止まった時、二人の目が同時に見開いた。

 「明晴、これ」

 「月美、どうやら当たりだ」

 明晴と月美が同時に向き合った。

 互いにかなり近い距離に顔が見えたため、反射的に顔をそむけ、距離を取ってしまった。互いに顔が朱に染まっている。

 白桜はその様子を見て、どうやら二人ともが片思いをしていて、互いにそのことに気づいていないということだろう。その初々しい様子もほんの数秒で収まり、明晴は月美に自分が見つけたものを話し始めた。

 「この土地は元々、災害で農作物が育たないとか、病気が多いとか、とにかく神に災厄の収めてもらうってことをする必要の無い土地だったんだ。まぁ、五穀豊穣の感謝をこめてってことはあったんだろうけど」

 その五穀豊穣の祈りと感謝を行うための場として、屋上にある社が建てられたのだろう。つまり、何か災厄をまき散らすものを封印したというわけではなく、恵みをもたらすものを呼び寄せる、道しるべの役割として社を設置したのだ。

 だが、そうなるとふに落ちない点がある。

 その、恵みをもたらす神がなぜ、災厄としか言えない怪事件を起こすのだろう。

 むろん、神は気まぐれな存在だ。熱心に祈っても、必ずその祈りを聞きいれてくれるというわけではない。いや、時としてその期待を大きく裏切ることもある。だが、基本的な本質は変わらない、いや、変わるはずがない。

 つまり、恵みをもたらす存在が、災厄をまき散らすということはあり得ないのだ。

 それを聞いた月美は、少し思案顔になり、整理をつけた。彼女の中である程度の考えがまとまったのか、今度は彼女が得た情報を明晴に告げた。

 「このあたりで祀られていた神は、やっぱり農耕神だったみたい……でも、その神と似たような名前の荒神(あらがみ)がいるの」

 その神の名は、内荒斗彦(ないあらとひこ)。異国では、「ニャルラトホテプ」という名の神と同等の存在だ。性質は、他の神との交信だ。そして、その神は恵みをもたらすものだけではなく、災厄をまき散らす存在とも交信する。

 だが、もっと厄介なのは、この神は時として人の姿で人の世の中に溶け込み、人を恐怖に陥れ、狂わせる。そして、その方法は、人におぞましい知恵を与え、人が人を狂わせるように仕向けるのだ。

 おそらく、今回の一件も、何かしら関与しているのだろう。

 「……決まりだな。あとは……」

 「うん」

 誰が、内荒斗彦……いや、ニャルラトホテプなのか、それを見つけなければいけない。

 それを知るための鍵は、おそらく、オカルト研究部にある。明晴はそう直感していた。

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