I love you.~私の初カレ~
私には好きな人がいる。中川なんとか。下の名前忘れちゃった。忘れた、というのは、彼の名前の漢字の読み方を忘れただけ。「伶」。「れい」じゃなかったんだよね。
「おはよう、桜井!」
「お、おはよう。」
無駄に元気なあいさつ。でも笑顔のかわいさにはつっこめない。何せこれにホレちゃったんだから。どんなに落ち込んでても、彼のあいさつからパワーをもらって一日を元気に過ごせる、それぐらい彼のあいさつは元気だった。何もない毎日が輝いていた。―私は中川のことが好きだった。
そんな毎日を過ごしていると、突然中川が転校するという噂が流れ出した。ただの噂でしょ。私は軽く受け流していた。
「桜井ぃ。」
「何ー?」
「何かほしいものある?」
「え、えっと…そんな急に言われてもなぁ。」
「だよな…まぁ考えといてよ。」
「あ、ちょっとっ…。」
え、本当に本当に転校するの?噂でしょ?本当じゃないって言ってくれるでしょ??
「中川!!」
私は大きい声で彼の名前を呼んでいた。
「い、一緒帰ろうっ!!」
「ふっ、お前日本語変。『一緒に』だろ?」
「え、う、うん…。」
彼はOKサインをして自分の席に座った。ま、まじか。恐らくりんごのように顔が赤くなっていたのだろう、すごく熱かった。
「桜井、帰ろ。」
うそ、もう放課後?やばい、心の準備ができてない。
「う、うん。」
私は焦って荷物をまとめる。中川は目の前で余裕なポーズを取っていた。
「い、行けるよ。」
「じゃあ、帰ろっか。」
中川と並んで歩く帰り道。なんかとても不思議な感じだった。
「なぁに、話したいことがあんのっ?♪」
「まぁねぇ…。」
「なぁんでそんな暗い顔…。」
「中川って引っ越すの?」
割り込むように私は聞いた。
「え、なんで…。」
「隠さないで、ちゃんと言って?引っ越すの??」
中川の顔はどんどん曇っていく。
「ん、引っ越すよ。」
哀しい瞳で私を見る中川。私は胸が苦しくなった。
「そんな…そんな悲しい顔しないでよぉ、泣いちゃうじゃん…。」
「既に…泣いてるよ?ほら、見てみ??鏡。」
ホントだ、もう結構涙が流れてるじゃんか。目もめっちゃ赤い。
「それで、何か欲しいもの聞いたんだ…。」
「うん、何か考えてくれた?」
…ここはもう言ってやろうか。
「中川。中川がほしい。」
「え、俺?」
「うん、中川が好き、大好きなの。」
「桜井…。わりぃ、時間をくれ。」
そう言って、中川は私の前から去っていった。この時、彼が引っ越す日まで、あと三日しかなかった。
中川とはそれから引っ越す日まで、一言も交わさなかった。私はもちろんこの間がすごく寂しかった。寂しかったし、退屈だった。輝かないどころか、もう真っ暗だった。
「では中川くんに一人一言お別れの言葉を…。」
何言ってんだ、先生。私、今じゃひどいことしか言えないよ…。
「次、桜井さんよ?」
「あ、はいっ…。」
私はあわてて立つ。でも…言葉が出ない。こういう時にしか、「ありがとう。」なんて言えないのに…。
「桜井は後で一緒に駅行くもんな?その時に言うもんね?それで良いっしょ??先生。」
「分かったわ。じゃあそうしましょう。次…。」
どんだけ紳士なんだ、あなたは。最後の最後まで、あなたは私を好きにさせるね。
放課後、中川と駅に行った。もちろん中川を見送るため。荷物を乗せて列車から出てきた中川は、一度深呼吸して言った。
「俺のこと好きでいてくれてありがとう。桜井、お前はえらいな…。」
私の頭をなでてくれた。
「俺は桜井みたいに思ったことを素直に言えずにいたからさ。俺も言うよ。」
「えっ…。」
心臓の鼓動が早くなっていく。
「俺は桜井が好きです。」
私の目からはボロボロと涙が出てきた。
「…千安実、愛してる。」
「私もっ…。」
「…お前、もしかして俺の名前、忘れた?」
「…あはは。」
頭をポンとたたかれた。
「『りょう』だよ。俺の名前の漢字、実は人の心を和らげ、楽しませるっていう意味があるんだ。だから、俺は千安実を一生笑顔で幸せにするよ。」
「うん、ありがとぉ、伶…。」
最後に彼は私の頬にキスをして。遠い町へと出ていった。
桜井千安実。初の彼氏と遠恋です。
初短編です!!「The Rainbow World」はもうしばらくお待ちください(汗)そうねぇ、あと一年ちょいぐらいかな。←