嗚呼 勘違い
妙な雰囲気を楽しんでもらえるとウレシイです。
嗚呼、勘違い
学生の質が下がった訳とは・・・
「お忙しい所、誠に有り難う御座いました。帰社致しましたら、直ぐに上司に報告致しますので」
「うん、宜しく頼むよ。君等の所は割合と僕の研究の意義を理解しているようだから、時間を何とか遣り繰りして、この委託研究、受けてあげるよ。まあ、条件については・・」
「(ハァ・・・)ああ、勿論、重々に心得ております。いつも通り、頑張らせて頂きます。ところで、まだお時間宜しければ、たまには少し雑談など」
「結構、結構。今日は気分が良いからね」
「先生が講義でお使いになっている専門書は、ご自身で執筆された本だと伺いましたが」
「君、よく知っているなあ。大した物だ。いやね、自分で言うのも何だが、類書に退けはとらんつもりだよ」
「・・・いやいや、ご謙遜を」
「ははは。うん、まあ、正に教科書、と言ってくれる人もいるらしくて、君だから言うけど、僕の力量が存分に発揮されたというところかな。良かったら君の所にも2、3冊謹呈しようか?」
「・・・でまあ、その本ですが、書かれてからもう20年程経つとか」
「うん、良い本という物は、これが、いつまでも使えるものなんだよね。講義で使っていて実感するよ。それに、この本は当時の講義資料を元ネタにした物なんだが、その講義方法、今でも通用しているしね」
「然ういう物ですか・・・ ああ、ところで先生、大学の先生方は教員免許の様な物はお持ちで無いですよね。教育実習も受けておられないでしょうから、先生方は皆さん、講義方法をご自分で工夫される訳ですか。義務教育の内容などは年々変わって減る一方ですから、20年くらい前とはまるで違うのでしょう。それに合わせて講義されるのはさぞかし大変なご負担かと」
「うん、そうなんだよ、君。だから僕の研究室の准教授や助教には、講義方法は常に工夫しなさい、と口酸っぱく言ってあるけどね。まあ、僕なんかは、研究以外にも政府の委員会の主査やらで忙しくって、そうそう講義内容を見直すことは出来ないけど。それに引き替え、彼らは未だ未だ時間の有る身だから、な。しかも最近は、大学人に研究と教育両方面倒見ろと言うのだから、ここだけの話、堪らんよ」
「まあ、学生の側からしますと、教わってこなかった知識が前提の講義では、高校時代に優秀だったとしましても、簡単にはついていけない、と言うところかと」
「然ういう話は時々聞くけどね。何、体の良い言い訳に過ぎんのだよ。大学という所は、そもそも自ら学ぶ所なんだから、講義の内容が判らない、つまらないだのと不平を連ねる前に、自分で勉強するべきだよ。ところが最近の学生は、授業をしてくれ、教えてくれ、だからね。大体ね、専門書と言っても、基礎的な所は高校時代に学んだ知識で理解できる筈なんだよ。僕の本だって、書いた頃の学生は、皆、分かり易いって言ってたからね。ともかく、僕が大学に入った頃なんかは、皆、高校時代に学んだ知識を活用して専門書を自分で勉強してたから、講義に出てくる人は案外少なかったもんだよ。然ういう僕からすると、何でもかんでも教えてくれ、という姿勢の学生を見るとがっくりくるね。昔から、《弟子は師匠の半減》と言うから、余程に今の学校教育は質が落ちているのかなあ。僕なんかが高校時代に使っていた数式を、知らない、初めて見た、って言うくらいだからなあ。機会があれば教師共を指導せんといかんな」
「・・・ああ、然ういえば先生、弊社が、と言う訳ではないのですが・・・、この学科の卒業生の質が落ち気味だと陰口をたたいている企業もあるとか」
「うん、全く以てけしからんことだけどね。ただね、本当に、年々、学生の質は落ちているんだよ、君。一応、うちの大学の偏差値は落ちていない筈だから、最近の学生は大学に入ってから勉強しなくなったんだろうね。うちに限らず、困ったことだよ」」
「・・・」
嗚呼・・・
弟子は師匠を超えられぬ、アホな師匠は弟子潰す
師匠のアホさは弟子の不幸・・・