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004 Love Lone Star



 夜明けが来ると確かめたら……帰るんだ



 日が暮れるのを待てずに、猫はウズウズと体を左右に振っていた。結果として日は沈んでいるが、じゃあ何かと言えば、とりあえずは猫は出発したかった。

 初代に逢いたいと、彼がいると聞いたその『空』へ行きたいと。

 しかしそれでも若き王の適確な準備や決断で、明日出発ということになっている。

 先程夜は駄目だと王様が言った。

 なので彼女の高かったテンションは下がりに下がり、長く細い尻尾もコテン、といった感じで動かない。

「おい、猫」

「…………にゃん」

「調子はどうだ」

「だだ下がりにゃん」

「おい猫」

「にゃがにゃん」

「茶でも飲め」

「……さんくすにゃん」

 単発な質疑応答が繰り返される中、王様は彼が淹れた紅茶を猫へ差し出した。白い湯気が立ち上り、ランプの灯りがその白いティーカップを照らす。猫は不機嫌な顔で王様の顔も見ずそれを受け取り、そのカップにゆっくりと舌を入れた。

「にゃ、あっつ?! あっつ、にゃっつ!! てかカップもあにゃっつ!」

 と、猫はかなりの慌てぶりでカップを放り投げた。茂みの方へカップは水の音と共に消える。涙目になり、猫は少々赤くなった両手を舌で急ぎながらも丁寧に舐め上げながら、尻尾をピーンと立て、王様へ向かって抗議の声を上げる。

「おうおうおおう王様! ににゃあは猫手にゃ、猫舌だにゃ! ひど、ひ、非道すぎるにゃ、ありゃ、新手の虐めか、にゃ?!」

「急くな猫」

 王様は溜め息を吐いて顔を伏せた。猫が仁王立ちをしているので、どうしても見下ろされる。

 別にそれに不快を感じるわけではない。

 ただ、どうして自分はこんなんなのだろうと、というかもしかして自分はかなり不器用なのではないだろうかと。彼は今頃気付いていた。

「ふーっ、ふーっ、にゃー!」

「あぁ済まない済まない、悪かった悪かった、私の因だ」

 暗い茂みの方へ向かい、水の上に浮いて無事だったティーカップを拾い上げ、

「忘れてた……」

 と、彼は聞こえないような声でボソリと呟いた。

「忘れるにゃ!」

 聞こえてた。

 やはり、猫は耳が良い。

 彼女の身体能力は異常だ。

 よく聞こえるし、よく見えるし、匂いもすぐ分かる、速いし跳ねるし、空に届きそうなほどほんとによく跳ねる。

 そして異常なまでの気まぐれ。

 まるで猫のような、その性格。

 いつか……パッと居なくなってしまうのではないかと心配になる。

 とても、とても。

 常に彼女のことを考えていたが、まさか習慣的なことを度忘れしてしまうとは。

 やはりあれか、身近な者が死んだからか。……不謹慎だな。

 それともあれか、猫と自分しかいないからか。……いやいやいや、それはいくらなんでもないだろう、……うん。

 うん?

 ――2人、きり……?

 …………。

「!」

 と、突然彼は目を見開き頬を紅潮させそれを隠すように手で覆い、急に力を無くしてヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。

 心臓が鼓動打つ。

 速い、速い、速い。

 熱い。

 体が。

 目蓋が。

 頬が。

 あぁ、あぁ。

 もう、駄目だ……――な、なんなんだ、これっ……。

 抑えろ、抑えろ。深呼吸、深呼吸。

 …………。

 ……よし。

 彼は心を落ち着けるため辺りを見渡した。

 何かを探した。

 ん?

 ここからでも見えるそこの浜辺に、大きな布袋が落ちていた。城にあった瓦礫かゴミの残骸だろうか、中に何か入っているようで大きく膨らんでいる。

 近寄って、中を覗いた。

 王様は、中身のそれらを見てニヤリと笑った。そして、叫ぶ。

「猫、遊ぶか!」

「にゃにがにゃ」

 不機嫌声に振り返り、

「季節外れの花火大会だ」

 更にそう言った。

 それを聞いた猫は、頭の上にたくさんの?を並べた。


 ・


 ・


 ・


「いいか。火を使っているから一応危険物であることには変わりない。そして突然発火する恐れがあるので、あまり内側を持ちすぎないことだ、火傷でもされたら大事だからな。火を点ける時は私の目の届く範囲でしてく」

「早くしてくれにゃっ!」

 中にあった取扱説明書を猫に見せるように開き、真面目な口調で語り出した彼を猫はやんわりと受け流す。見たこともないものだったらしく、好奇心旺盛に目をギラギラ輝かせている。王様はやれやれと溜め息を吐くと、見せた方が速いだろうと布袋から1本抜き取り、ゆったりと揺れるランプから、ゆっくりと、しけた花火に火を点けた。

 すぐに点火したので、花火は途端に音を立てて、轟々と燃え上がる。

「おおおおうう! (ひか)って音が凄いにゃ! なんにゃなんにゃ、超ウケるにゃ!」 

 猫は布袋から両手に3本ずつ持ち、火を点けまたその音光に興奮しブンブンと振り回しながら彼の元へ走ってくる。

「王様-! すっごいにゃー! バチバチにゃー!」

「わ、人に向けてするな!」

 対する王様は颯爽と逃げる。

 月照らす湖の波打ち際、巫山戯て走って騒いだ。

 展開的な画が真逆、あべこべな2人だった。

「うおお、色が変わったにやぁーっ、ほ、炎吹き出したにゃこのネズミ! 空高く飛んでっちゃったにゃ! 戻って来いにゃ-! にゃー、にゃーっはっはっはっ、たーのしーにゃあ王っ様ぁ!」

 次々と色々な花火を取り出し、思いっきり眩しい笑顔ではしゃぐ猫。自然と……彼は微笑んだ。

 しかしまあ、お祭り等のモノが大好きな国だったからな……こんなに楽しいのは何時からぶりだろうか。

「気をつけろよ猫。転ぶぞ」

「だーいじょーぶにゃっ?!」

 展開通り彼女は滑って転んだ。ビックリ顔のまま、大の字で猫は起き上がらない。

「ま、猫?!」

 王様の声が裏返った。貴重。

 彼が慌てて近寄ると、それを見た猫はニカッと笑って言った。

「王様、楽しいかにゃ?」

「え、あー……あぁ、かなりな。案ずるな猫よ、楽しいぞ」

「そりはよかったにゃーん」

 猫は大の字から両手で地を勢いよく押し、その反動で浮いた身体を一回転させ身軽に地面へ着地した。相変わらず鮮やかで美しい動きだ。

「王様、今日っつうか、この国が滅びたのを見てからずーっとつまんにゃそうにゃ顔していたからにゃっ、楽しいという事は嬉しいという事で笑うにゃ、良かったにゃ」

「そうか」

 猫は満面の笑みだった。

 王様もいつものように平然としていたが、内ではかなり心逸っていた。

 心配を掛けていたとは……なんたる醜態。

 王として、依然として威厳のある、信頼の出来る者にならなければな。

 民のためにも。

 猫のためにも。

 私のためにも。

 父のためにも。

「王様、王様ー。もっと花火(はにゃび)はにゃいのかにゃ? いけいけフィーバーしたいにゃ!」

「そうだな、シメといくか」

 彼は布袋を引っ繰り返して残りの中のものを全てドサドサと出した。

 出てきたのは、彼の手には収まらない少し大きめの筒状の箱々。それを1本ずつ均等な距離に並べ、1つ1つに点火していく。猫はそれを眺め、全てに点火した後、彼等はそこから少し走って離れた。後ろを振り向いた瞬間。

 それは、巨大なスクリーンのようだった。

 真っ暗闇の中へと光が昇っていき、光って消え、そして、光の粒を弾かせ大輪の花を咲かせ、巨大な音が、響く。

 次々と、次々と。

 赤、青、黄、緑、紫……色取り取り選り取り見取りの花々が夜空に咲き乱れ、光っては消え、輝いては消え、音を轟かせては消え。

 その一瞬一瞬がまるで永遠のように続くように思えた。

 全てをその音と光で掻き消すように、心と体を持っていかれそうで、そう、何かを無性に汚したい……そんな気持ちを吹き飛ばすように。

「あの打ち上げ花火(はにゃび)というやつには、心をドーンと打たれるにゃっ。耳にビンビンくるにゃ、肌が痺れるにゃっ! まるで、初代王様みたいだにゃー、にゃっはっはっ」

 猫は酔っている様だった。

 微唾み、目を薄っすらと細め、一途に、真っ直ぐに、、その夜空に放たれた花火たちを見上げていた。

 その表情と声に、王様は花火から目を下げ、心悸亢進。

 何故かずっと、彼女を見つめていたくなった。

「初代王様はぶっちゃけ1人で輝いていた人だったからにゃー。マジウケるにゃ、みんにゃ初代が(にゃん)かすると、決まってそっちの方を向くんだにゃ。その光と声に惹かれるんだにゃ。あの歌声とかにゃ、マジでやばいにゃ」

 お前もその中の1人なんだよ、猫。

「たーまやー、かーぎやー、にゃー」

 誰からも愛されて、でも、独りぼっちのあの光。

 誰からも愛されて、でも、独りぼっちのあの星。

 誰からも愛されて、でも、独りぼっちのあの花火。

 誰からも愛されて、でも、独りぼっちの初代王様。

 輝いて見えるけど、誰も傍にいない星。

 背伸びしても届かないから、見つめていた。

 名前もない、呼ばれないままで何光年、旅をしたの?

 初代。

 逢いたい。

 自分だって、息子である自分だって、逢いたい。

 猫と同じ位、大好きなんだ。

 けれども、

 2人の大切な星だけど、とても遠い。

 目印のない2人だけの秘密の星、目を凝らして探す2人が、此処にいる。

 逢えない所にいる。

 けれども想っている。

 けれども逢いたいから、生きている。

 だから。

「猫」

「なーんっだにゃんっ」

 彼女はとても上機嫌だった。

 良かった。

 機嫌が直って良かった。というか、忘れたようだ。

 猫が嬉しいなら、いいや。

 彼女の胸に、今も響くたった1つの花火。

 彼女の心に、今も輝くたった1つの花火。

 彼女の瞳に見えているたった1つの花火。


 ――いつか、君にも見える花火を打ち上げたい。


「…………えっと」

「ん、王様、なんか顔赤くにゃいかにゃ?」

「な、え、は、花火のせいだ、戯け!」

「たわ?」

「も、もう私は寝る!」

「まっだ光ってるにゃよー」

「いい!」

 あぁ、子供みたいだ。

 猫にはどうも心を乱される。

 こんなんで大丈夫だろうか。

 いや、いい、いいんだ。

 ……いいんだよ、もう!


 とかいって。

 相変わらずきっかりと、子供が寝る時間に床につく王様であった。


 出発は、明日の朝、夜が明けた頃――青空が、見える頃。

 



 イントロがとても綺麗な曲です、宇宙に漂っているような、そんな。

 GARENT TIMEでのスペシャルライブ映像では、

 サビまでのゆったり感、七さんグランドピアノ似合いすぎです。

 そしてサビに入った瞬間のあの壮大な歌声!

 感動で涙します。

 おかもっちの軽やかなギター捌きとコーラスにも必見必聴です(笑)

 カップリング曲にしては惜しい程、本当に良い曲ばかりですね!


 それにしても王様、実年齢マジで鯖読んでんじゃないかとハラハラわくわくしますね。



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