020 かくれんぼ
どうもです
まえがきさせていただきます
3月。
メールを見たときの私の顔を見て、
友人らはかなり心配したそうです
あんな顔をしたあなたは初めて見た、とのことです
その後外国から帰ってきた先輩と緊急会議を開き、
ラストライブに2日間行っちゃおうぜ、ほかのファンの人、ごめんね! 愛が凄くて!
という大英断を下しましたごめんなさい
ライブ中も泣きっぱなしで、
まあ、そんなところです
大変久しぶりな投稿です
ということで、書き続けます
彼らの歌は、ずっと残っていますからね。
最後まで見つからずにいれば
願い事はきっと叶うはずだと
そう言ったのに
祈っていたのに
信じていたのに
ただ、ふざけただけなのに
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
でも、ふざけただけだから
だめだ、
笑みが、こぼれて、しまう――――
「明日があるからといって、今日をいい加減に、生きてはいけないよ」
と、シルクは言った。
前もどこかで聞いた気がする。
確かそう――シンガポールかその辺り……?
「……まあ、おはよっす」
「おはよう? 今は朝じゃないよ」
現在は、夕方だった。
「もうなんか、板に付いてるっすね、そーゆー格好」
「マイブームだね」
「マイブームって……響き懐っ」
そのダボダボとしたメンズサイズの服を着て、彼女はニコニコ笑っている。
可愛い。とっても可愛らしい。5つ年上とは思えないくらい。あー。
しかし笑いながら、何故か遥か頭上の鳥居の頂、笠木の上に足を揺らしながら座っていた。
超々罰当たり!
「で、なんでそんなところにいるんすか……」
「稀生の真似」
「えええ」
「見上げることは多々あったけれど、見下ろしたことは、あまりなかったからやってみた。うん、気分は爽快さ」
「はあ」
逆だな、と金架は思った。
彼自身その長身で、見下ろすことが多かったから、見下ろされることはあまりなかったから。
不思議なことに、彼女の隣には真っ黒な烏。稀生のように肩に乗っているというわけではないけれど、真っ白なシルクと対照的なその黒い鳥は、静かにこちらを見据えている。不思議なことに、夕方。
そういえば、この神社に来たのは、あの夕暮れ時以来。
3月の、春休み以来。
「学校は、休みなんだねえ」
「今日は休みっすよー。ゴールデンウィークっすから、そ、GW。昨日はテストがあって大変でした。小テストかと思ったら思わぬ普通のテストでした。GW後もテストあるんすよ……受験生って、大変っすねえ」
「他人事かい」
「なんか、いざ自分が当人とでもなると、そんな感じっすよ、大体」
「……そうだねえ」
伸びをするシルク。
「セカイは何故か今日も学校に行きましたけど。あ、セカイってのは」
「妹御だろう」
「そうっす」
「いいね、兄妹」
「そういえば姐さんって、兄弟とかいるんすか?」
「いるよ。お兄が1人」
「へえ、じゃあシルクって、妹なんすか」
「さあ……どうだろう」
「ん?」
なんだかとても、他愛のない会話。
「ねえ、ところで」
烏が羽ばたいた。金架は吃驚する。烏は飛んでいってしまって、他には誰もいない、黄昏の静寂の中で、彼女はその黒い鳥を目で追うように空を見上げた。
「汝はどうしてここに?」
「え、知らないんすか?」
「知っているけど、汝の口から聞きたいなー」
「どうしたシルク」
「よっこいせ……っほ」
シルクは、かなり高さのある鳥居の上から飛び降りた。いや、飛び降りたというよりは、フワリと舞った、という方が合っているように、黒く細いリボンが翻った。そういえば、自分のメッシュと同じ位置だなあと金架は思った。
「立ち話も何だからね、境内にでも座りなさい」
「自分の家かよ」
ツッコミながら彼女についていく金架。
とても自然な形で、結界と称される鳥居を、くぐった。
「うん。まだくぐれるね」
「?」
シルクの発言に不思議がりながらも金架は得意げに言う。
「こう、朝目覚めた瞬間にっすねー、なんでしょ、こう、ビビビッときてですねー」
「頭大丈夫かい?」
「なぜに! まあその、そういえば、確かめなくてはいけないことがあると、思って」
「うん」
「ここで何があったか、思い出したくて」
「そうだね」
彼女の隣に座る。服のサイズが合っていないから、白く細い首がよく見える。ドキッとしてしまう。
「金架は相変わらず可愛いねえ」
「え、な、なにが?」
「ふふ」
シルクの柔らかな笑み。黄昏の夕焼けが眩しいけれど、シルクは真っ白で、染められなくて、つられないように、つられないように、金架は語り始める。
「あの鳥居をくぐった瞬間、いつの間にかあの真っ白な空間にいたから」
「その前には、何をしていたんだっけ」
まるで助け舟を出すかのようなシルクを見て、先程シルクが座っていた鳥居を見て、金架は初めて語る。
「かくれんぼを――--してたんすよ」
曖昧な記憶を辿りながら、それでも妙にはっきりと覚えている、春休み前の3月に起きた、あの出来事を。
「金架、俺様は今日も仕事だ、ついてこい」
3月。
……なぜに?
戌威のその言葉に、素直に疑問符を上げる金架。現在、金架は義妹であるセカイの髪を結ってあげている。細く軽い髪を束にして高い所で止め、ポニーテール。仕上げに黒いレースで縁取られた白いリボンを結いつけ、終了、という合図に細い肩を軽く押した。
するとなぜかセカイはその弱い衝撃にもかかわらずそのまま床へ音もなく倒れた。
「わああ! なんでお前、倒れるし!」
驚きながら金架は彼女を抱き起す。彼女も、なんでかなあ、見たいな表情をしてそのままだった。
ということで、無表情だが明らか不機嫌そうな戌威の声を聞いて、
「わたしもいく」
セカイが辛うじて声を発した。それを聞いて、戌威は少し考える素振りをした。そこで金架は気付く。
「あれ、もしかしてオレにこう、拒否権的な何かは」
「まあ、施行してみろよ」
「休みなのに出掛けるのやだなー」
「休みだから出掛けろ、ついてこい。ついてこいって言ったらついてこい」
「おおう……了解」
セカイをそのまま床に座らせると、着替えに行くために金架は早急に自室へ行った。
「ねえ、おとーさん」
「んー……セカイなあ……ま、いいか。いいぜ」
「うん。かばん」
すぐ近くにある椅子を使ってゆっくりと起き上がると、セカイも鞄を取りに自室へ向かった。入れ替わりに、急いで着替えたのであんまり支度が整ってない金架が入ってくる。
後ろに少し伸ばした金色の髪には一筋の三つ編み黒メッシュ、黒のチョーカー、耳や手首や腕などに飾られている銀色のアクセサリー、実際のパンクファッションより少し抑えめなパンクロックファッションに身を包んだ、可愛らしい顔つきの紅い眼の少年。
「お前それ……銀の装飾をしろって言ったの確かに俺様だけどよ……相変わらず、ねえわ。頭大丈夫か?」
「昨日まで仕事で京都にいたにしても酷え言い様だなおい! パンクを馬鹿にするんじゃねえ!」
「キレんな」
戌威の手刀。痛みというストレスを悲鳴を上げて発散させようと思ったが敢えて堪えた、何故だろう。
――ああ、きっと。
きっと、セカイに怒られたということを知らせたくなかったんだろう。
昔から、あいつが怒られたところを見たことがない。戌威がたまにしか家にいないからかもしれないけれど、オレは戌威に会う度に怒られている。
そういえば、オレもセカイを叱ったことねえなあ。
器量が良いわけではない、むしろ悪い。靴だって1人で満足に履けない、出来ない人間の部類。
何も出来なくて、少しイライラするけれど、でもそこまでではなくて。
なんか、なにも怒るまでしなくて良いって気分になるんだよな、あいつ相手だと。
「カナちゃん」
ひょこっと、セカイがリビングの扉から顔を出す。ヒラリと、チュニックのホワイトワンピースが翻った。ダークトーンのカーディガンを羽織り、足元はアンクルソックスという春を感じさせる比較的薄い服装。相変わらず服装に至っては存在感が増すが、やはり着られてる感が満載である。
「お前なー」
「ん」
「そろそろ靴くらい自分で履けるようになれよ」
「…………」
と、セカイは無言で、とても驚いた顔をした。
こいつ感情あったのかとこっちも驚いてしまった。
「靴くらい、履けるよ?」
「……やってみ?」
行儀良く揃えられた小さなパンプスを指さす。
「………………」
無言でユラユラと玄関先まで歩くセカイ。
バッファローの革製のシンプルなデザインにゴールドのネコが印象的なショルダーバッグを肩に掛けていて、そしてそのまま足先を靴に入れるのかと思えば、何故かその右足は空を通り抜け、パンプスを通り過ぎようとした。
「はい、もうダメ」
足が地面に着く瞬間、金架はセカイを持ち上げた。宙で足を揺らしながらセカイは、
「……ん?」
と、自身が失敗したことにおそーく気が付いた。
「ま……頑張れよ」
そう言って彼女を座らせ、靴を履かせる。そして宥めるように、細い肩に手を置いた。
「大丈夫だ、未来は希望で満ちあふれているぜ、セカイ」
「いいから早くその茶番を終わらせろ」
イライラしているような声が後ろから聞こえた。
戌威の手刀は、いつも痛い。
・
・
・
「おお、梅が超満開!」
青い空の下右手を掲げ、紅い梅並木の中を歩く。セカイは隣を音も無く歩き、戌威は相変わらず無地の薄青蛇の目傘を片手に、カランコロンと厚底の下駄を鳴らす。うん、まあ、景色には合っているかもだけど。風流かもだけど。
存在感の全くないセカイを認知出来るのは、服のおかげか、吸血鬼の力のおかげか。
「3月」
「そだな、3月だな。4月からお前は6年か。クラス替えで友達と同じクラスになれるといいな」
「私、友達いないけど」
え、何その発言。スルーするけど……。
「後輩とか、先輩ならいる」
「そうだな、自然にな」
「6年生になったら、ルーム長にされるんだろうな」
「へー、すげえかもじゃん」
「押しつけ押しつけ」
「んー」
まあ確かにそうかもな。清水は去年も半押しつけって感じだったからな。まああいつの場合、適しているかもだからな。
「オレがクラスの代表になったらまずは消費税を半分に下げるかな!」
「……そうりだいじんクラス?」
「で、水曜も休日にして」
「何を言ってるのかな、かなちゃんは」
「……ごもっとも! うわ!」
金架が嫌そうに叫んだのは、目の前に続く境内への長い石段。鎮守の杜に囲まれた、奥の本社へと続く参道。その長い階段というのが本当に長い、何段あるだろう、そういうのって数えない。
そして、戌威は少し上の方へ既に上がっていて、カランコロンと下駄音を刻んでいた。
「……ゆとり世代は精神もゆとってんだぜ……」
「がんばる」
「がんばるんだ?」
お前絶対途中から落ちてるだろとセカイへ視線を向ける。斜面も結構あるしな、踊り場も遠いし。
金架はセカイの右手を掴んだ。
「よし、がんばろーう」
「…………」
一段、一段と上っていく内に、段々イライラしてきた。階段だけに。
さわさわと木々が揺れる中、やっとの事で最後の一段をセカイが昇ったのを確認すると、一息吐いて、手を離した。
かなりの奥の方に境内があり、手前の方にはちょっとした遊具が設けられていて、近所の子どもが数人ばかし元気に遊んでいた。
「さて、戌威は何所だいっと」
「みあたらない」
そのとき、子どもたちの威勢の良い声に顔が響いた、そちらへ顔を向けると、4人ばかしが円になってなにやら揉めているようだった。
「はいはいはーい子どもたちよ、どうしたんだ?」
気がつくと、何故か俺はその子どもたちに話しかけていた。
見るからに小学校低学年、そして意外とこの年頃から女の子はませていた。
どうやら彼等はこれからかくれんぼをしようとしていて、誰が鬼をやるかで揉めていたのである。
かくれんぼの、鬼を。
「よぉーし! ならオレが、かくれんぼの鬼をしてやろう! 帰る時間までにオレに見つからなかった奴は、願い事が叶います! セカイもやることな!」
「わたし?」
ということで、なりゆきで、その子供達とセカイとオレとで、かくれんぼをすることにした。
“もーいーかい?”
“まあだだよっ”
10数えて、読んで、聴いて、それを7回繰り返すと、
“もーいーよっ”
振り返ってみると、そこには1人残らず子どもはいなかった。しかし気配はする。所詮、人間の子どもである。
1歩、歩いた時だった。
戌威がいた。
気配は、なかったのに。
……まったく、今までどこ行っていたんだよ。それこそ、その狐面を鬼の面にしてお前が鬼やれよ……。
彼はなにやら、境内の周りを調べているらしい。きっと、仕事の一環だろう。
ぶらぶら歩きながら、金架はかくれんぼの鬼の使命を果たすことにした。
気が付けば、夕暮れだった。
子どもたちは全員見つけたけれど、
見つけていないフリをして、
そのままにしてあげて、
帰る時間になって子どもたちは出てきて、
見つからなかったから、願いは叶うと、
みんな嬉しそうに、家に帰ってしまった。
なので、まだ見つかっていないセカイを探していたら、戌威を見つけた。
境内の中に入っていったのを見て、
見つけたけれど、
見つけていないフリをしたように、
戌威が境内の中の方に入ってって、
扉を閉めたので、
それで、
それで。
静かに鍵を、閉めた。
ほんの悪戯心。
ほんの反抗期?
いつも怒られてばかりだったから、そのお返しとばかりに?
その行為に、まったく罪悪感は生まれず、
ただ、楽しくて、
中に居たとは思わなかったって
言い訳をたくさん考えて、
最後まで見つからずにいれば
願い事はきっと叶う
ね、
これなら、
ずっと見つからないよ
願いごと、
叶うね
そんな思いも込めて
巫山戯て
嬉しくて
楽しくて
真っ赤な夕暮れに染まる神社の中を
爽快な気分で鳥居をくぐった瞬間、
世界は真っ白になった
そして、真っ白な彼女に出会った……――――
「どうして、オレはあの世界に行けたんだっけ。どうして、シルクに会えたんだっけ」
「根刮ぎ教えてやったろうに」
「そうだっけ?」
「そう」
彼女は紡ぐ。
「汝は、身共のために、
此処に迷い、
此処に現れ、
此処で身共と出逢ったのだ」
言葉を紡ぐ。
「世界を救う、
身共を救う、
それが、汝の存在理由であり、存在価値であり、存在根拠だと」
「存在、理由」
生まれてこなければならなかったと言うこと……?
生まれてきた良かったと言うこと?
「身共が、会いたいと言った、3人を覚えているかい?」
「えっと……」
「ジュエル様は身共の魔法のお師匠様」
膝に置いていた手を離した。
「キングは同期の素敵な魔法使い」
ゆっくり立ち上がる。
「戌威は……魔法使いということ以外、接点はなかった。だが、1つ出来た」
風にふわりと舞いあがるリボンを抑える。
「そうそう、その彼輩が、身共を閉じ込めたんだよ」
「…………」
「済まないね」
「…………」
理解へのタイムラグは。
「え?」
そんなことないと思ったから。
「身共を退屈にさせるなんて、酷いよね」
「シル、ク」
「ん?」
「…………」
シルクは返事を待っている。
けれども、立ち上がれない。
「まあ、そういうことだから」
「……んー……んんんんん」
逡巡後、金架は大きく、溜息をした。
「ラスボスが身内ってガチであったんすね……」
「ラスボスではないけれど」
「なんの試練だこのやろー!」
「まあまあ落ち着きなさいよ。汝を落ち着かせるには、色々大変だったんだよ」
金架はシルクの方を見た。
「そう、身共の血を、汝に与えなければね」
顔が真っ赤になった彼に微笑みながら、
「その銀色の装飾達の役割、そしてそれらを汝に与えた彼らの役割を」
シルクは金架の服の裾を小さく引っ張った。
「汝はまだ子どもだから、チャンスをあげようか」
「チャンス?」
「そう」
シルクはその漆黒の瞳で見つめる。
「どちらを選んでも、良いよ」
吸い込まれそうなその瞳からは、逃れられない。
夕暮れの紅も映らない、彼の瞳の赤も映らない。
「約束のせいで、汝はとんでもないことをしたね」
「とんでもないこと?」
「そう。…………。……あ」
ふと、シルクが上を見上げた。
「……?」
金架もその視線を同じ方向に向ける。
1㎞先上空。
「……ひと……?」
金架の人間としてでなく吸血鬼の視力で、それが人の形だと分かった。
「……アイツか?」
クセっ毛の赤髪、雪のように白い肌、黒を基調としたクロークを纏い、左手に大鎌を持った少年が、
「……найденный……!」
空気から肌に伝わり、声までもが聞こえた。
そのまま時は進む中、シルクはスタスタと歩き始めた、金架を引っ張って。
そして先程の鳥居の前に着くと、クルリと境内の方へ身体を向ける。そして彼女は、金架の背中に隠れた。
その瞬間、境内になにかが突っ込んで、轟音と共に煙が空高く上がった。もしもシルクが金架の後ろにいなければ、爆風で階段下まで飛ばされていたところだろう。
境内は、ほぼ大破した。
「うっわびっくりした! って、ええ?! 境内、境内!」
夢露・ロジェーストヴェンスキー。
ゆらりと、その少年が立ち上がる。
「Демон! Ублюдок!」
何言ってるか全く分からんが、こいつほんとに怒りっぽいのな……。
そしてほぼ大破した境内から前進し、キッと強い目線を向けた時だった。
「やあ、汝か――」
彼の表情が変わった。分かりやすいほど、鮮明に。目を大きく見開き、その紅がギラギラと、けれどもしどろもどろという感じで、動揺した感じで、揺らめいていた。
「Вы、く、クルシマ、」
「シルクの方だよ」
シルクが微笑み喋り掛けた瞬間、
「おまえも、人間じゃない」
夢露は身構えた。鎌の柄が鳴いた。
「おまえも、狩る」
なんだか、震えている。
「おれが、狩人だから」
なんでだろう。
オレはアイツに襲われて死にそうだったのに、なんか色々とヤバイ奴だって知っているのに。
まったく、現実味がなくって。
というか逆にありすぎて?
色んなおかしな経験をして、神経狂ったんかなあ。
シルクの方へ、どうする?という感じで視線を向けると、
「あ、身共は、戦えるとか皆無だから」
フツーに後ろに下がっていった。え、だってお前、シンガポールでこのオレを投げたりしたからな?
「えー……嘘だー」
「まあ今度は、あの狐もいないからね……頑張って、自分の力で切り抜けようか」
彼女は微笑んだ。
「そう、鬼の力を使えばいい」
なんか、リングとか、ピリピリする。
「道理に悖らず、従いなさい。痛いのなら、捨てなさい」
痛いのなら、捨てる。
――外す、か……。
「まあ、そうしたら汝はさらに鬼へ――――近づくがね」
この怒りはきっと、シルクが理由。
「鬼を、受け入れよ」
シルクを、狩る?
「意味分からんが、んなことさせねえ」
オレは、鬼。
人間ではない、吸血鬼。
「……!」
なにかが込み上げてくるのを感じる。
同じ紅い瞳が、惹かれ合うように爛々と光るのを感じる。
恐怖の感情を、感じる。
同じ感情を、感じる
「……Белый рельеф、動ける。動かなくてはならない。おれは、吸血鬼を狩るための、吸血鬼だから」
「…………」
シルクと金架は見据えた。
「不死である吸血鬼を探知し、殺す。家族の、ために」
その、爛々と光る、大鎌を奮う――
まるで、命を狩りに来た、死神のような少年を。
「今度こそ。さあ行くぞ、吸血鬼」
「……ああ行くか、死神」
金架は前髪をかき分けると、
「オレは、鬼だけど」
そのリングやピアスを、捨てた。
「鬼である前に、オレだから」
笑った。
「オレは、オレになるために、生まれてきたんだ」
「わあ」
一瞬で……
「金架、汝はそこまで、強くなってしまったんだね」
仕留めてしまった――?
赤髪の少年は、まるで野獣のようにぎりぎりと歯を鳴らして、大鎌だけは両手でしっかりと握って、顔を歪めながら、それでも、立つことはできなくて。
「シルク、オレはこれから、どうすれば」
「自我があるのも素晴らしい」
彼女は、牽制して、牽制されて、お互い動くことのできない彼らへ、歩み寄る。
そして、しゃがみ込んだ。
「いいかい、2人共。家族だけは、大切にするんだよ?」
「なんすか、突然」
「身共は家族のためならば――何でも犠牲にする。汝のようにね、死神君」
彼は何も、答えない。
何か――右手が動いている。
「あ、危ない」
言葉の割に、まったく危機感のない緩やかなシルクの言葉。彼女が立ち上がり、離れた瞬間。
「Избежать!」
また、いつもの、ロシア語ということは知っているけれど、全く理解できない言葉が聞こえ、目の前を何か呪符が舞ったかと思うと、あとには、あの魔方陣のような跡が、煙を出してそこにあった。呪符は、燃えて無くなった。
逃げられた。
どうなったのか理解できなかったけれど、多分これは、逃げられた。
――あいついったい、何しに来たんだ……?
「汝に会いたかったんだろうよ」
「え?」
まるで、相変わらずのごとく、心を読んだかのような発言。
「や、その発言は意味わからねっす」
「だろうねえ」
石畳に座り直し、後ろを振り向く金架。
「見事だねえ」
「うわー……」
見事に大破されている境内。何本か木も倒れている。ちょうど無人だった神社内。遊具も特に異常はないが、あれ、これ、逃げたほうがいいんじゃね?
「金架」
と思ったら、すでにシルクは階段を降り始めていた。慌てて落ちているシルバーアクセサリーをすべて拾い、細い背中を追う。
唐突だった。
「汝は、世界中で1番愛されている、誰もが知っている、毎日誰かが歌っていて、毎日誰かが聴いている、歌を知っているかい?」
「歌?」
「歌」
「ええー?」
誰もが知ってる? 世界共通ってこと?
「そんな歌あんの?」
「うん」
赤く染まる階段を降りながら彼女は言った。
「誕生を祝う歌、この世界風に言えば、“Happy birthday to you”」
「…………」
「知っているだろう?」
「ああ、うん、知ってる知ってる。当たり前っしょ」
誰もが知っている、
毎日誰かが歌っていて、
毎日誰かが聴いている、
世界中で1番歌われている、愛されている歌。
「そりゃあもう、自分に1年に一度、家族とかダチとかに言ってますからねえ」
「へえ」
シルクは相槌をする。
「金架」
名前を呼ぶ。
「お誕生日おめでとう」
不意打ち。
「嬉しい?」
「……ま、まだ2ヶ月くらい、オレは早いっすよ」
「生まれることに、早いも遅いも越したことはないさ」
「え、それどんな理論。ははっ」
金架は笑った。
シルクも、きっと笑っているだろうと、彼は思った。
「あー、思い出の神社が大変なことに、ははー。小学生の時はよく来てた気がするのになー。あそこは、結構木とか建物が入り組んでいるから、かくれんぼにはうってつけなんっすよっ」
「かくれんぼね」
シルクは振り向いた。漆黒の瞳に、見つめられた。
「あのとき、あの退屈な空間で、身共を見つけてくれてありがとう」
「ん……シルクは、かくれんぼしてたのか……? 閉じ込められていたんじゃねーの?」
「んんー?」
シルクはくすくすと笑った。
「汝が、偶然ではないとはいえ、かくれんぼの鬼になって良かった」
「まあほら、子どもをあやすのは手馴れてますからっ」
「んー、シルバーアクセサリを付けているにも関わらず、紅い目だからねえ。もう色々無理そうだねえ」
「あー、っすねえ。やべえなあ。またなんか公共のものとか壊したらどうしよ」
「とりあえず、付けておきなさい」
「へいへい」
慣れた手つきでリングなどを付ける金架。苦笑いしながら、引き千切っちゃいましたーっと銀のペンダントを揺らす。
「あ、稀生」
「え?」
「稀生だよ。黒い子」
「ああ」
そういえば、いなかったな。
帰ってきてから、今まで、ずっと。
「ほら、あの子、初めての場所では迷いやすい子だって、言ったろう? 怯えてどこかに隠れているかもしれない」
シルクは手を、差し伸べた。
「共に、見つけに行こう」
昔々、それはそれは美しい魔女様がおりました。
血も凍るほどの美しさ。
背筋が痺れるほどの美しさ。
透き通った真っ白な美しさ。
魔法のような美しさ。
世界は彼女を崇拝し、
世界は彼女を称賛し、
世界は彼女に感嘆し、
世界は彼女へ深謝し、
世界は彼女を拒絶しました。
世界の空間の隙間へ、彼女を閉じ込めてしまいました。
世界は今でも――彼女を愛しています。
真っ白な月が通り過ぎたある日のことです。
使い魔である黒小猫と共に、いつも通りに退屈に過ごしていると、
その世界の空間の隙間に、1人の来客が訪れました。
魔女様はそれを待っていたかのように、
魔女様はそれを知っていたかのように、
笑顔で彼を迎え入れました。
やっと、この退屈な空間から外へ出られる。
彼女は彼の力の全てを借りて、
心の拠り所となっていた彼・黒子猫に別れを告げて、
自由を手に入れて、
愛すべき吸血鬼と共にその真っ白な空間から、
再びその愛すべき彼女の世界に、解放されたのです。
魔女ながらも囚われの姫であった彼女と共に、
吸血鬼ながらも王子であり勇者である彼は、
すべての悪の根源である魔王を倒すため、
世界へ解き放たれました。
魔法使いは、世界に憧れ、愛すべき鬼と共に、旅に出ました。
大切なモノと、引き換えに。
世界は今でも――彼女を愛しています。
めでたし、めでたし。
「めでたし、めでたし、ねえ」
「ん?」
シルクの手を取り、
シルクを選んで、
なんか言った? と金架が続けると、彼女は笑った。
「笑みが溢れて、しまうよね」
それはとても純粋で、真っ白な。
悪戯好きな彼女の、いつもの表情だった。
「吉野、学校帰りなのに、荷物持ってくれてありがとう」
「いいんだよ。女性っていうのはもう少し、肩の荷を降ろすべきだ」
「なんのことを言っているの……?」
「お~い」
「あ、入江。お帰り」
「うん、言ってきたぜ、清水姉。おお我が弟よ~……持ってやる~」
「ありがとう。ところで清水姉ちゃん、午前授業、また始まったんだね。半ドンだね」
「半ドンって何なん~」
「まったく、これだからゆとりは」
「吉野……ゆとり世代は入江たちじゃなくて、私たち高校生だよ……入江、この後家に帰った後ゆっちゃんを迎えに行ってくれないかな」
「なんだよ清水姉……よっそよそしいなあ。それくらいしてやるぜ~」
「あ! ぶつかるよ入江!」
「おお~……」
「もう! 入江は本当、ボーッとしていちゃダメなんだよ!」
「あ……」
「あれ~」
「ん? 2人共、どうしたの?」
「ねえ~?」
「うん」
「うん?」
「言う~?」
「言ったら姉ちゃん取り乱して袋の中の新玉ねぎを落としかねないよ」
「でも言うか~」
「そうだね」
「なになに、どうしたの?」
不思議がる姉に、無気力に、冷静に、弟達は言った。
「人がね、倒れてるよ」
「外人かな~?」
クセっ毛の赤髪、雪のように白い肌、黒を基調としたクロークを纏った――
「ひょっ」
小石川清水は唖然と、包みごと、落っことした。
この曲は、ガネファン内で大有名の、
ダークサイドナンバー1の曲と謳われていますね
七様の歌詞もさることながらゆりっぺのあの低い声、ゴッドハンドの編曲……
恐怖を感じながらも、惹き込まれました。
もっち、君だけが癒しです(笑)
自分は鬼って自覚しちゃっているというか開き直っちゃっているというか、とりあえずあの感じがですねえ
たまりませんねえ
一応この話が物語の半分です
まじか
長い話ですがよろしくお願いいたします
今では週一で思い出し泣きする程度に回復いたしました
復活を、笑ってまた会える日をずっと待っています
ご読了、ありがとうございました!