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019 Rusty Rail


 僕はただ、サビている


 僕はただ、その時を待つ


 僕はただ、君を待っている


 僕はまだ、列車を待っている



 



「あれ、旅人さんじゃないか。こんばんは」

 僕の他愛のない挨拶に、小さな女の子と若い青年といった組み合わせの旅人さん達は、各々こんな挨拶を返してくれました。

「こんばんは!」

「こんばんは」

 兄妹でしょうか? いや、似てはいません。2人は一体、どういった関係なのでしょうね。

 女の子の方は名をナナコと言って、白いワンピースを翻し、無邪気な笑顔で可愛らしく飛び跳ねていました。

 青年の方は名をタカラと言って、黒いローブを纏いその整った金髪を靡かせ、中々大人びた表情で笑っていました。

 白と黒。

 僕は2人をそんな風に取りました。

 まるで、月と太陽のようですね。

 月と太陽といえば、僕は月のほうが好きです。

 昼間の太陽がつくる道は眩しすぎて、だから、月光のつくるこの穏やかな景色が僕は好きでした。

「ラスティさん」

 不意に、タカラ君が僕を呼びました。僕の淹れたお茶を片手に、落ち着いた様子でアンティーク調のベンチに腰掛けています。彼は、気品に溢れた雰囲気がよく似合いますね。僕は快く、何かなと答えました。

「貴方は何故この駅にいるのですか? この線路はもう使われていませんよね、だから僕たちはこの線路を伝って歩いていました。まさか本当に森を抜けた先に線路しかない高原が広がっているなんて、森番とは凄いですよね。家事も説明も上手で」

「森番……ああ、そういえば森があったなあ。何年か前に、僕もこの線路を辿って歩いているときに通り過ぎたよ。深い、大きな森だったね」

 タカラ君はかなり唐突な方のようです。真っ先にそれを聞いてくるとは、つい脈絡の全くない森の方に気を取られてしまいましたよ。

 ラスティはその茶髪を掻き上げ、砕けたように笑った。ぶかぶかとした服装がゆるゆると風に揺れ、彼の気怠さを物語っているかのようだった。

「はあ! ラスティもこの線路歩いてきたの? へえ、凄いね! ナナコは歩きすぎてクタクタだよ! もう足の感覚なんてない位、なーんて、痛みがあるから感覚余裕であるよ! でも確かに本当に、頑張ってあの森を抜けた割には出た先が高原なんてね! そこにあるはずの線路を伝っていけば寒い地域に出るからって毛皮とか貰ったけれどさ、線路があったってことは本当に寒いところに出るんだね! シギー達はあの森だけが自分たちの範囲じゃなかったの? スケールが凄いよ! それにしてもこの駅、もう使われていなくて寂れているとはいえ、結構当世風で懐古的で綺麗な駅だよね! 小さいけれど、出た先にちょっとした広場があって、まるでこの高原には元々街が広がっていたみたい! ただそれだけど、なんだかとっても素敵だよね!」

 ……良く喋りますね。マシンガンのようです。でも、元気が良いのは良いことだと思いますよ。

 まるで、彼女のようだと、彼は思った。

 夜空を見上げると、星がまた、瞬きました。一瞬の煌めきとは、儚いものですね。ほんとうに、ほんとうに。

「ナナコ、人が喋っている最中に割り込んできてはいけないでしょう? どんどん脱線しているよ」

 脱線……話が、ですよね。

 脱線かあ。僕も、脱線しているんでしょうか。

 僕が自分から、脱線したんでしょうか。

「うう……ごめんなさい」

 動き回る身体を静止して、彼女はシュンと沈み込んだ表情で頭を下げます。するとタカラ君はすかさず彼女の頭を撫でて、微笑みました。すると彼女は顔を上げ、お日様のような笑顔になりました。そしてタカラ君はこちらにゆったりとした視線を送りました。

 ああ、この駅にいる理由でしたっけ。

 僕は苦笑して、再度空を見上げて言いました。

「ある人に、会いに行くんだよ」

 瞳を閉じて、彼女のことを頭に浮かべました。そう、美しかった、あの頃を。

「みんなは、昔の記憶を覚えている?」

「いいえ」

「即答だね」

「ナナコは記憶がないから、ナナコもわかんない」

「へえ、そう。僕はね、覚えているよ、しっかりとね」

 僕は目を開きました。髪色と同じ、ブラウンの瞳を。

「それでは話そうか。そのかわり、そちらも何か話してくれよ?」

 そうして僕は、先程から話題に相当上がっている駅と、そこを通り過ぎる線路が両方見えるようベンチから立ち上がり、雲1つない月光の下、彼らに背を向け、語り始めたのです。

 尊き、尊きべきだった、あの日々を。






「この街の静けさが好きなの」

 人恋しさを、

 抱いてたわけじゃない。

「? ラスティ?」

 クスリと妖艶に彼女は笑った、いつものように。

 淡い青色の長い髪を高い位置で1つにまとめ上げ、エメラルドの瞳、首には先日昇格したらしいとある体術の有段者の証である黒い帯をマフラーのように巻いていて、それとアンバランスな如何にもお嬢様な真っ白いビスチェドレス……が、本当は足首を隠すほどの長さの美しいレースがあったはずなのに今ではズタボロに所々引き裂かれていて(まるで凱旋後の様に)彼女の長い足が露わになっていて、太股に巻いてあるリボンや高い厚底の靴が更にそれらを引き立てていた。

 全く、はしたない。

 ラスティはいつもそう思っていた。

 この街1番の富豪のスタッシュフィールド家のお嬢さんなのに、年頃の女の子なのに、蹴りが入れやすいからと、動きにくいからと着せられるドレスを片っ端から引き裂いていって、自由奔放に野山を駆け巡る元気な彼女。

 ユエン・フォンファン・スタッシュフィールド。

 街のみんなから愛されている、可愛くて、格好良くて、魅力的な彼女。

 ユエンは、相変わらずの悪戯好きな子供の顔をした、僕と同い年なのに。

 あ、しまった、危険だ。

「聞ぃーてんのー?」

「うわ、いた、い、痛いです! 痛いです済みません!」

 底の厚い靴を履いているから僕のほんの少し下くらいの身長になっているけれど、さらに横に積まれてある煉瓦の上に身軽に飛び乗り、それで僕より高い身長になる。僕の頭をグリグリしやすくなる。痛がる僕を見て、ケラケラ笑う。

 昼間のように明る過ぎる月光の下、太陽のように笑うそんな彼女が、昔から。

「ラスティは誰にでも気持ち良く苛められるよね」

「何ですかそれ……」

「さっきもね、ユエンが思いつきでラスティの家に向かおうとか思わなかったら、イスミ達にずーっと苛められてるところだったね!」

 イスミ達はこの小さな街で何か突っ張っている不良じみた集団で、僕はいつも弱気で苛められているけれど、先程ユエンが全員蹴散らしました、圧巻。奴ら相当ビビっていたよ……同情。

「大丈夫大丈夫、ラスティは、ユエンが守ってあげるから!」

 胸に手を当てて、堂々と大言。いや、大袈裟じゃない、彼女の実力は何もかも街1番なのだ、僕と、同い年なのに。

 自分のことを名前で呼ぶ、僕と同い年なのに。

 同い年だけれど、何も出来ないこの僕を。

 僕を選んだのは、どういうわけでしょう?

「あ」

 クルクルと回り、何か思いついたらしい彼女は颯爽と煉瓦の上に腰掛け、左足に右足を掛けてパッと顔を上げて言った。

「明日から何日かね、父さんとちょっと遠くの街に行ってくるね」

「遠くの街? 列車に乗って?」

「そうだよ! なんかね、私に会わせたい人がいるんだって! なんなのかなー、改まっちゃってね」

 にこにこにこにこ、この笑顔がずっと見られれば、何でも良かったのだけれど。

「お、お気をつけて」

「ラスティ……顔が暗いよー」

「うう、すみません」

 わかってる。僕はいつも、彼女に笑顔を返せない。

「じゃあもう帰るね」

 ピョンッと地上に立つと、ニッと笑い右手を頭上へ掲げる。

「おやすみ、いってきまーす!」

「おやすみ、いってらっしゃい」

 翌日、僕が睡眠から目覚めたときには、彼女はもう出発していた。

 1週間ほど、彼女はいなかった。

 僕はただただ、列車が帰ってくるその駅を見つめながら本を読み耽っていた。

 イスミ達は、僕があまりにも嫌がらせに反応をしてくれないので、日々つまらなさそうだった。

 そして、スッタシュフィールド家が帰ってきた。

 たくさんの積み荷、知らない人たち、ユエンは僕に気づくと手を振って、その日はそれっきりで、大勢の人たちや積み荷と一緒に屋敷へ帰っていった。

 数日後、ユエンが家に来た。妙に生き生きとしている。僕はビックリした。ユエンは、美しいドレスを着ていた。とても清楚な。まるで、富豪の娘であることを自覚したような。そして上には、羽毛素材の上着を羽織っていた。マフラーのような黒い帯は綺麗なネックレスに替わっていた。

「たっだいまー! 実はね、昨日も行ってきたんだよ!」

 でも特に中身は変わらず、元気に跳ねていた。

「どこって、遠くの街ですか?」

「そう! あのね、何が凄いってね、雪が降るんだよ! 雪って知ってる? 海よりかは珍しくはないけれど、真っ白で、街全体が一面の銀世界になるんだよ! 綺麗でね、見惚れちゃったなあ……」

 髪を両手で弄りながら、お土産話を展開する。

「雪が降るとね、寒いんだよ。だからさ、さすがの私も厚着なのね、蹴りが入れにくいけれどねー。その街、異様に本屋さんが多かったんだよねー、私も読んでみたんだ、面白いストーリーがたくさんだったよ。あと寒いのにね、外で家畜飼っててね、身が引き締まるから美味しくなるんだよ、うん、美味しかった! 雪の下に咲く花とかもあって綺麗なの!」

 ウットリするように、顔の前に手を合わせてまるでマシンガンのように喋る彼女。

「それで、お父さんが会わせたかった人はその街の長さんところの息子さんでね」

 そのまま俯いた。とっても、嬉しそうな表情で。

「……それでね、それでね」

 僕は彼女の感情に気づいてしまった。

「とりあえずさ、ラスティも遠くの街に引っ越そうよ! 私は一応明日も視察に行くんだけどね」

 いつか、

「お父さんもね、この街を一気にあっちの街に移すつもりなんだ。協定とか色々結んだみたいでね、私はよく解らないけど」

 君は、

「あっちの街は寒いけれど、人はみんな優しいし、広いし、何より商業とか色々盛んで、賑やかなんだよ!」

 賑やかな街へと、

「もしかしたら明日行ったらもう帰ってこないかもしれないから、ちゃんと列車に乗ってきてよね、ラスティ」

 魅せられた日々を、

「ユエン、あっちでずっと待っているからね!」

 思い出して去った。




 徐々に近づいては徐々に遠くなっていくその列車の数は多くなっていった。

 街のみんなはどんどんその遠くの街に引っ越すために列車に乗っていったけれど、僕はまだ、動けなかった。

 イスミ達も最後に僕を馬鹿にしていって、楽しそうに街を出て行った。

 この街の静けさは、本当のものになっていった。

 結局、この街には僕1人しかいなくなった。

 次第に、往き来していた列車も来なくなった。

 街の人たちは正直なところ僕がいなくても生きていけるから。

 遠くの街に少しは憧れはあるけれど。

 僕はどうしても、この街を離れたくなかった。

 僕はいつでも受け入れるだけで、それだけで。

 けれど、僕は列車を待った。

 きっと、僕は列車が来ても乗らないかもしれない。

 でもこの線路は、君のいる街と繋がっているから。


 幼い頃の列車事故で天涯孤独になって、線路を辿ってこの街に来て、ユエンに出会って。


 今はもう、

 レールだけが、

 残されているこの広場で、

 僕はまだ列車を待っている。


 彼女は僕を、選んだから。

 そう、僕は待つのだ、ずっと、その日を待つだけの日々を、送るのだ。

 彼女が迎えに、来てくれる日を。


 この場所から離れゆく日を思い描き、

 今日も待っている。

 ただただ、待っている。


 季節はどんどん変わっていって、それでも僕は待ちながら、思い出してもいた。


 行きずりの、

 恋だと思っていた、

 あの日が、

 愛しく、

 離れないよ、

 離れないよ、




 離れないで……――




「今はもう、

 レールだけの、

 この線路をずっと辿りゆけば、

 あなたの住むきらびやかな、

 街角へと、

 着くのでしょうか?」


 本当に、辿り着くのでしょうか?

 この線路は本当に、君の元へと続いているのでしょうか?


 繋がっているはずなのに

 繋がっているはずなのに


 サビてゆくよ

 サビてゆくよ


 ただ1つの

 君へ続くはずの想い(レール)


 名前も知らぬ

 駅でもいい


 この身体を運んで欲しい


 今も立っている

 この場所から――――






「じゃ、僕はもう寝るから。君たちも好きに使うと良い。もう、使われていないから」

 そう言って、ラスティは駅長室と書かれた看板のぶら下がる部屋へ音もなく、入っていった。静まりかえる駅。月光の輝く音がきこえそうなほど、風もない駅。

「僕らは何も話さず終わったねえ」

 宝が先に沈黙を切った。宝にもたれかかっていた魚々子はそのままの体勢で小さく唸り、宝の名を呼んだ。宝は応答した。魚々子が口を開く。

「ラスティは、まだ待っているのかな……?」

「さあね。まあ、もう待ち続けても意味がないからね」

「…………」

 彼女は大変眠そうであった。

「ナナコ、もう寝なさい」

「なんか寒い……」

「うん。おじいさん達がくれた毛皮を羽織って寝るんだよ。本当に凄い見通しだよね」

 肩掛け鞄を魚々子の小さな肩に掛けると、宝は立ち上がった。

「どこで寝ればいいのかな」

「ラスティが入っていったところで良いよ」

 少し涼しい夜風が吹いた。

「どうせ、誰もいないから」

「んー」

 目を擦りながらゆっくりと立ち上がった魚々子は、先程彼が入室していった駅長室と書かれた看板のぶら下がる部屋のドアを開いた。

「あれ? 本当だ。ラスティどこか行ったのかな?」

「そうだね」

「タカラは寝ないの?」

「僕は絵の素材でも探してくるよ」

「にゅう……」

 返事のような返事をすると、

「あ、なるほど……あのベッドだね、じゃあタカラ、先に寝るね、おやすみ~」

「おやすみ」

 扉が閉まった。

 タカラはそれを確認すると、駅の入り口へ向かった。低い階段を下って、右に曲がると。

「んー、ひほーはへんふふだっはねえ! ね! まふー」

 その静けさをぶち破る、騒がしい明るい声が響いた。後ろからだ。タカラは後ろを振り向くと、その者の名を呼んだ。

「大宅世継さ……世継ちゃん」

「はりろー宝ちゃん! 制服纏った可ー愛いー世継ちゃん! ついさっきというか只今、参上!」

 その者は、長い黒髪のサイドテールを揺らし、メガネを頭に掛け、制服という胸元にリボンの飾ってある服を纏い、少し灼けた肌色の健康的な太股を伝う黒髪を弄りながら、口元に咥えていたヘアピンを飾り付けた。

「何をされているんですかこんなところで」

「ちょっと野暮用さ。ついでに宝ちゃんに会いに来たのよ!」

「はあ」

 髪の手入れが終わったらしく、世継はぴょんっと立ち上がった。

「ここにあった街はえーっとね、何十? や、何百年前だったかな……良く栄えてたよねー」

「や、僕は知りませんから」

 突然の話題に、宝は冷めた対応をする。

「ラスティちゃんは待つタイプの人だったからね、どうして自分から進んでいこうと思わなかったんだろうね。だから、何も掴めなかったのにね」

「…………」

「ふふふ、なにかなあれかな、河魚ちゃんと重ね合わせちゃってる?」

「……は?」

「ふふふ、宝ちゃんってさ、本当は、魚々子ちゃんのこと嫌い(・・)なんじゃないの?」

「は」

「ほら、船の話ん時もそうだよ。船で行った方が楽なのに、わざわざ歩いて行く方を選ぶかい? せっかくのね、カーネリアンちゃんの好意に甘えればもっと早めに海に着いたのに。すぐに疲れちゃう、足を痛がる人魚の彼女のことを思うなら、断然そうするでしょ?」

 月光の影になるその場所で、クルクル回りながら更に口を開く。

「ま、そうしないと宝ちゃんの真の目的は完遂しないものねー。人魚は、宝ちゃんにとっては特別だからねー」

 宝は顔に左手を当てた。

 しまったなあ。やっぱり全部見通せる人には、バレるものなのか――

 ――相変わらず、人を喰ったようなお人達だ。

 ダメだなあ、笑いが、込み上げてきそうだ。

「てか真の目的って! 何、宝ちゃんラスボスな訳? あはは!」

「ねえ、世継ちゃんは」

 宝は世継の言葉を遮って、聞いた。

「ん? 何?」

 しかし世継は何事もなかったかのように返答する。

「変わることと変わらないこと、どっちが大切だと思います?」

 すると世継は身体の動きを止め、くるりとこちらを振り向いた。

「なんだそりゃ。どっちも同じじゃん」

「え?」

 その一歩で宝の目の前に踊り立つと、彼はその大きな彼女の瞳を開いて、妖しげに笑った。

「まあどっちかと言えば変わることかな。ほら、世継ちゃん語り部だし。物語は変わっていかないと面白くないからね!」

「…………」

「え、なんで拍子抜けしてんの」

 謎だよと、彼はつぶやき、そして月光の下へ出た。

「列車なら、西にも北にも自由に行けるとお思いかな? それは幻想の心地良さだよ。列車は、線路の上しか走れない。そして、サビた線路の上は、走れない」

 宝は未だ、月光の届かない闇の中から彼を見据えていた。

「問題です! らっららーん! どうして線路の間に小さな石が敷き詰められているのでしょう?」

「…………」

「時っ間切れ! 正解は、線路の上に小石があったら列車が走れないからです!」

 風で、宝のローブが靡いた。

「思いのままに、世界を変えることは出来ないんだよ」

 何を言っているのか、分からなかった。

「じゃあ世継ちゃんは仕事をせずに帰る! あ、間違えた! 仕事をして帰る!」

「はあ」

 この人は、どこまで巫山戯れば気が済むのだろうか。

 人を翻弄し、物語を翻弄し、人を見据え、物語を見据え、心の底から登場人物を想い、心の底から物語を想う彼。

「そういえば、どうして招集がかかったときに、会議に出席出来なかったのですか?」

「は? 野暮用に決まってんじゃん。もう、戌威ちゃんもみんな、どうして世継ちゃんのプライベートをそんなに知りたがるかな! おじいちゃんが世継ちゃんを会議に呼ばなかったら、普通に世継ちゃんは行かんよ!」

 おじいちゃんって、柑橘の亀の老人のお方か。世継ちゃんがそう呼ぶってことは、あの人……一体歳いくつなんだ。

「トリックスター世継ちゃんもね、忙しいんだよ! 清水ちゃんも明日は小テストがあるっぽいしね! はよ帰らな!」

「世継ちゃんは、いつまでそんなことしているつもりなんですか」

「そななこととはー?」

 あっけらかんとした笑顔で笑う彼に、宝は言う。

「そうやって、その時代の人に寄生して、その時代を乗り越えること。そこまでして、物語りたい価値がある物語ですか、この世界達は」

「あはははは! 宝ちゃんは相変わらず真面目だなあ! 大河ちゃんやウタウちゃん位はっちゃけても良いのにね! 何をそう繁樹ちゃんみたいなこと聞いてくるのさ、年寄りは黙ってろってことかい!」

 こちらに顔は向けず、相変わらずのハイテンションで、 

「さて、そろそろ物語もバトルモードとか真実を語るモードとか色々だね、全くもう、みんな伏線張りすぎだって! 世継ちゃんも拾うの大変なんだからね! じゃ、頑張ってね、宝ちゃん! じゃ!」

 ステップを踏み手を振りながら、彼は軽やかに歩き出す。

「今度はラスティちゃんと同じことしないで生きられると良いね!」

 そう言って、歩いた先の駅の角を曲がっていった。

 本当に静かになった。

 唐突に来て唐突に帰る嵐のような、彼と別れ、宝は本当に1人になった。

 月はまだ、頭上で燦々と優しく光る。

 宝はその月を見上げ、思った。


 今宵の帳は、どうしてこんなにも長く時を刻むのだろう。


 早く朝にならないだろうか。

 早く、会えないだろうか。

 早く、闇の中から抜け出たいのに。

 早く、光の中へ行きたいのに。

 白い月の中には行けないから。


 白――白い、彼女。


「クルシマ・シルク――」

 呟く。

「――神藤戌威、大宅世継、ウタウ・ワンダーランド、大河・リリィ・ホワイト、河魚・リリィ・ホワイト――」

 呟いた。

「――魚々子」


 ねえ、君はいつからそこにいて、僕の(なか)に住みついていたんだ――?


 そう、欲しいだけあげるよ。

 君が全て持てるというのなら、

 そう、欲しいだけもらうよ。

 僕は全て、持てるから。


 あの世界に閉じ込められた彼女を助けるために、僕は――――『海』を目指す。


 世界を破壊したいけど、世界は美しすぎて、そんなこと出来ないから。

 だから僕は、その約束を、胸に抱いて――






 ――この線路は本当に、君の元へと続いているのでしょうか?



 

読了お疲れ様です。

 もうこの曲大好き過ぎて!

 His Voyageと同じような

 明るい曲調?だけど歌詞は切ない悲しい!

 みたいな


 ストーリー性のある曲は

 ちょっと深いところまで読みたくなります


 明るい曲調というかゆったり、なんですけどね


 次は寒いところ行くらしいですよ宝さん達

 次話もよろしくお願い致します


 ニューアルバムが楽しみすぎて夜は快眠です!


 それではまた。



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