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017 la-la-la それから 1・2・3


 強くなりたいそんな時


 ラララと歌って

 いち、に、さん数えて

 空を見上げて


 雨にも負けて

 風にも負けて


 それでも歩いた


 優しくなりたいそんな時


 ラララと歌って

 いち、に、さん数えて

 空を見上げて

 水たまりを飛び越えて


 雨にも負けた

 風にも負けた


 それでも

 生きている


 君と共に、生きている








「これは……見事な大きさだ、底が見えない」

「なーんにゃ、ただの水たまりじゃないかにゃ」

 陽は少しずつ落ち、気球で高く高く上昇する中、その湖はその全貌を明らかにした。初代の王国ほどではないが、一部はもう水平線の彼方という、巨大な湖。もうすぐ日が沈む、赤く染まる湖。

 それでいて静謐な、美しい湖。

「つまらんにゃー!」

 猫は風船の中でさらに飛び跳ねた。

「何なんだ、この湖は。まるで……」

 バスケットの中に座り込み、何か考え事をする彼に、彼女は提案する。

「王様、日も暮れかけですし、その辺りの岸辺にでも、着陸致します~?」

「そうだな。着陸したら、日が暮れる前に当たりの散策をせねば。今夜はどうあろうとも野宿であろう」

「は~……ぃ? あれ?」

「どうした」

「……なんかこの気球、落ちてます~!」

「何?! うわ!」

 アマハの言葉に顔を上げ、立ち上がろうとするが、

「立っちゃ駄目だろ。外へ放り出させるぞ。伏せとけ」

 上からアンジェリークの声。重量により動かない身体。

「ぐっ……私の上に乗る、とは、何、たる、無礼だ」

「んなこと、言って、る、場合、かよ、緊急事態、だぜ」

「わ~、世界が、ぐるぐる回って、る~」

 1人バスケットのヘリにしがみつつ、困ったような顔で微笑みながらこの気球の行方を見据えようとするアマハ。アンジェリークと王様はバスケットの床に伏せて、猫は、おそらく、風船の中。

 震動と加速感、恐怖、なぜ突然気球が急降下しているかなどの思考は存在せず、きゃーきゃー言ってるアマハの楽しそうな声だけが耳にこだまする。

 そして衝撃。

 水面に到達したのだ。

 その瞬間、バスケットから放り出されたのが分かり、水中へ飛んだのを理解し、目を開く事が出来ず、途端にさまざまな感覚が完全作用し、両手や両足で無理矢理もがき、身体が激しく上昇しているのを感じ、何かに気付いた時には、自身は、息を吸っていた(・・・・・・・)

「な、か、辛っ……う、浮く?!」

 その瞬間、その水を吐き出し、言葉を発していた。

 目前に広がるのは、見渡す限り、湖。おそらく先ほど頭上から眺めた湖。そして気球の突然の不時着、水面にその残骸がぷかぷかと浮いていて、

「へえ……こりゃあ、塩水みたいだ」

「塩水?」

「おうよ。はーん、塩湖か。良かったね、王様」

「何の話だ」

「いやー、別に。あ、ちなみに、阿呆シスターはそこな」

「あ~、濡れちゃいました~」

 ペロリと舌を出している宝石師と、何故か異様に顔を赤らめながら手で顔を抑えてきゃーきゃー騒ぐシスターを余所に、

「ま、猫は! 猫はどこだ!」

 見当たらない。

「風船の中か!」

 その大きな風船を捲ろうとするが、水を吸収していて、重く持ち上がらない。段々と青ざめていく彼を見て、さすがに彼女たちも心配しかけたその時、

「ごにゃー!」

 奇声、そして風船が大きく破かれた音と共に、水飛沫を上げながら猫が風船の中から姿を現した。まるで、サーカスの最後の大仕掛けで舞台を彩ったかのように。

「超怖かったにゃー! 気球が落ちるときゆってにゃ! 落ちてるとき風船の(にゃか)にいることがどれほど怖いか! 経験したことがにゃあからみんなそう平気な顔してられるんにゃ! ぽっくりするとこだったにゃ! にゃがにゃん!」

 手で水面を叩きながら尻尾を立たせて、何故か物凄く愚痴ってくる猫。それを浴びながら、普通は風船の中には入らないから理解など、と王様は思った。

「でも探してくれたようで、ありがとにゃん」

 にぱっと笑う猫。コロコロと表情が激しく変わる、愛おしい彼女。

「全員無事なようだね」

「ああ……下がまだ湖で助かった……」

「ほんと、この湖の水が浮力の性質を持っていて良かったですわね。きっと王様は、足がつきませんでした~」

「無用の心配をする前にどうにかしろ」

「はうっ」

 体が浮いているので、あと傷ついたので、身軽に左足でアマハを蹴った。

「えっと~」

 彼女は周りを見渡す。何かあるわけでもあるまいに。もう少しマシな頭を持たんのか。

「あ~」

「どうした」

「誰かいますわ」

「真か?!」

 彼女が指差す方向を注視すると、小さな人影が見えた。それは、湖の中で泳いでいるように見えた。

「お~い!」

 元気に叫ぶアマハ。

「な、突然声を掛けて大丈夫なのか?!」

「わかりませ~ん」

「考えてから行動せんか!」

 少々ご立腹な王様からの言葉を受けつつも、アマハが手を振り続けると、なんと人影は、こちらに気付いたのか、結構な速さで近づいてきた。

 けれども少しずつ強くなる防衛本能。けれども少しずつ広がる警戒網。

 だんだんと近づいてくる人影。

 その人影は、女性の姿をしていた。

 白い肩が水面より垣間見え、その下は、水の中なので不明瞭であった。

 不明瞭でない情報と言えば、美しい銀色の髪を肩の辺りで整え、首両腕両手首に金色の細いリングを2つずつ嵌めていることくらいで。

「…………」

 少し離れた場所で近づくのをやめ、訝しげな瞳でこちらを見つめる女性。その瞳が、綺麗な蒼い空の色をしていたので、

「や、あの」

 彼は少し動揺したのか、ドギマギになったが。

「はいはいは~い! 実は私め共は、後ろに見えます気球から、落ちてきてしまって、この湖に落ちてしまって、それで途方に暮れていたんです。貴方のような方がいてくださってほんとマジ助かりですわ~。神のご加護! ありがとうございます神様! この出会いに感謝! で、申し訳ないのですが、この辺りに人の住む場所があったら教えて頂きたいです! どこか、どこか一晩を明かせる場所をお恵みください! ちょっと気球で外に出てみたらこんな有様になってしまって、もうなんていうかお先真っ暗でもう……とにかく、怪しいものではありませんわ私め達!」

 ぐっと親指を突き立て、アマハが少々誤りはあるが、お気楽ご気楽に、とりあえず言いたいことを熟々とペラペラと喋った。

「お、お前」

「これで大丈夫ですわ、きっと! 多分!」

「考えてから行動しろと先刻言ったばかりだぞ……」

「――――は、察するに、旅の御仁方でありますか?」

「え? あ、ああ」

 突然彼女から発せられた鋭い言葉に、変わらず王様はしどろもどろになったがそれを悟られないよう毅然と答えた。彼女は少し思考をした後、再び口を開いた。

「は、この辺りには吾人意外は不在と推論します。なので、あそこに見えますログハウスへ、向かってほしいのであります。吾人の家です。一旦そこへお集まり頂きましょう。鍵は開いていますので、暖炉に火でも焚いておいてくださいませ」

 クールに、威風堂々と全く隙のない姿勢で、無感情な声でそう指示する女性。利発そうな横顔にも、表情は無い。

「わ~、ありがとうございます~。王様、そういうことになりました~」

「え、それでいいのか?」

「はい~」

「は、それでは、のちほど合流するであります」

 そう言って、彼女はそのログハウスとは反対方向へとても静かに、けれどもかなりのスピードで泳いで行った。それを呆然と見送り、そして皆一斉にログハウスがあるという方向を見る。少し小高い丘の上。二階建ての、明るい色のログハウス。その岸辺まで、かなりの距離があるが。

「じゃあ、泳いであそこまで行きましょうか~。わ~い、競争ですよぉ~」

「勝手にやってろ」

 アンジェリークは泳ぐのが億劫らしく、いつの間にか、アマハが1人で泳ぎながら運ぶ予定らしい、気球の残がいであるひっくり返ったバスケットの上に器用に座り、ぼけーっと周りを見渡していた。

「へい王様、来るかい?」

「うむ」

 彼女に手を差し伸べられ、彼もバスケットの上に座った。

 湖の水は少々冷かったが、一行はそれぞれで泳いでいく。上空からはあまり見えなかったが、いくつかの小島や岩がちらほらと水面から顔を出していて、背の低い木々が生えていた。先頭を切って元気に泳いでいく猫は、

「王様ー!」

「なんだ」

(さかにゃ)かと思ったら木だったー!」

「そうか」

 何か拾う度にいちいち王様に見せに行っていた。元気である。アンジェリークは、どこからともなく自分の手の上に小さな純銀製の宝石箱を出現させたかと思うと、数個の光る紅い宝石を、湖に向かって投げ込んだ。

「何をしているの? リノちゃん」

「いやあ、この湖どれくらい深いのか測りたくなってさ」

 アマハの質問にはそう答えたが、湖に宝石を放り込んで、如何様にして深さなど測るのだろうかと王様は少し思考したが直にやめた。

 宝石達は幾度か煌めいて、やがて見えなくなった。相当、深いのだろうか。

 やっとのことで、皆一様にログハウスの立つ岸辺に辿り着いた。湖の周辺は小さな森林で囲まれ、遠くの方で翠嵐とした山々がちらほらと見える。まさに、嵐影湖光。どこにでもありそうなシンプルなデザインのログハウスの周りは多種多彩な花々が咲き香っていた。入り江には波が穏やかに打ち寄せ、風がとても暖かい。

 湖から上がり、服の水分を絞り出す。アマハは気球の残がいを全て岸辺に運び、何故故障したのかを調べていた。

「……この湖、流入している河川も流入する河川もないな」

 王様は周りを見渡し、考える。一部が水平線の彼方で、その周辺は山々に囲まれているのだろう。ということは湧水だけで? しかし、塩水である。それもかなりの濃度の。ならばと、気温が異常に高いわけでもない。それとも雨が極端に少ないのだろうか。しかしそれならこの面積の湖にはならないだろう。何か地質に謎があるのだろうか?

「王様、今スッゴク難しいこと考えてるにゃ?」

「え? いや、そんなことはないと思うが。というかアマハ、気球が故障した原因は分かったのか」

 猫が王様に腕をまわして飛びつく。彼は微動だにせず、妙に抑揚のない声でアマハへ問い掛けた。

「ああ、はいはいはい。え~っと、こちらをご覧ください」

 快く返事をした彼女は、カラフルな色の風船の一部を持ち上げ、王様の方へ向ける。

「まあ元々所々解れていて痛んでいたわけですね、風船が」

「ふむ」

「飛ぶだけなら全く問題はなかったんです。空気抵抗や突風にも耐性あったし、爆撃を受けたり大きな石を投げられたりしない限り破れませんわ、先程猫ちゃんが内側から破ったようにですね~。しかし、風船にはこんな傷が」

 その風船には、何か鋭利なもので切り裂かれたような跡があった。

「つまりは単純に」

「はい。単純に、ずっとあの中にいた猫ちゃんの鋭いお爪が当たっちゃったんじゃないかなって、それしか思いつかなくて……こう、サクッと~」

 猫が王様にまわした腕が、そーっと離れようとしているのを感じた。

「こら猫!」

「にゃー!?」

 王様は、猫に説教を始めた。

「毎度毎度、爪は仕舞えと言っているだろう!」

「にゃー! ごめんにゃさいにゃー!」

「それと移動中に無邪気に行動するでない! 命取りだぞ!」

「にゃー! ごめんにゃさいにゃー!」

「復唱せよ! 今後爪は出さないと!」

「にゃー! ごめんにゃさいにゃー!」

 延々と続くお説教。なぜなら、猫がしっかり聞こうとしないから。耳を抑えて、怒る王様の周りをパタパタ走り回っている。

「あはは、どっちが大人だかわからんな」

「……私の方だ」

「見えん見えん」

「…………」

 彼は、怒る気力が無くなってきたらしい。疲労からか、押し黙ってしまった。猫はそれに気付いてピタッと立ち止まったが、それだけである。ジッと王様を見つめる。

「うわっ、やな空気だ……。君、なんかギャグでも言って」

「え? え~っと……え~っと、……あ、先ほどの方がいらっしゃいましたわよ! ね、王、王様!」

「ん……ああ」

 一体彼は何に苛まれているのだろうというような面持ち。こちらへ向かって、少し小走りで、丘を登ってくる先程の女性。王様たちはとりあえずこの状況を後回しにしようということで、快く彼女と合流した。

「は、長らく、お待たせ致しましたであります」

 そう一言だけ言う女性。息は全く乱れていない。

 その女性の不明瞭だった全身が明らかになった。

 彼女の第一印象を一言でいうなら、無垢。その意味は、混じり気がない。

 スラリと背が高く、清楚な白いノースリーブラウンドネックワンピースが膝下で優雅に揺れ、そして彼女は裸足だった。さらには髪から何まで乾いている。そしてやはり足元にも、首両手首両腕同様の金色のリングが、両足に2つずつあった。

「貴方は……」

「は、吾人はこの湖に住んでおります、カトレアと申す者であります」

 王様は、何故に出会う女性のほとんどが自分より背が高いのだろうと心の中で疑問した。

 彼女は一心に彼らを見つめる。

 凛としていて、その視線を離さない。

「そーかにゃ! へー!」

 突然、猫が口を開き、そのまま自己紹介を始めた。

「にゃあは、にゃあにゃ!」

「彼女の名前は猫ちゃんですわ~」

「儂の名前は長いから、アンジェリークと名乗っておくよ。よろしく」

「本当に長くて、実は私め、ぜんっぜん覚えてませんもの~」

「私は」

「彼は、王様です~!」

「お、おい、シスター・アマハ」

 続けて自己紹介をしようとした王様が、いちいち首を突っ込んでくる彼女を注意しようとすると、

「は、そのような偉大な方だったとは知らず、とんだ数々の御無礼をお許し頂きたいであります。何かありましたらなんなりと、申し付けて欲しいであります」

 カトレアは突然、片膝をついて頭を垂れた。

「な、わ、私はそのような、そのような大それたものでは」

「お詫びに、今夜は吾人の家にお泊りくださいませ。何も歓迎できるものはないのでありますが、差し出せるものなら如何様なものでも差し出す所存であります」

 何だろうこの彼女から感じる違和感(オーラ)は。過度に、懇切丁寧な。

「……~~」

 王様は、声にならない声で反応する。

「やった、ナイスタイミングです。ね、王様、いいんじゃないんですかぁ? 丁度お宿を探しておりましたし」

 この女は遠慮というものを知らんのか。

「非常に不本意だが、今回ばかりはこの女の勢いに任せてみっか」

 宝石師は思考を遮断したらしい。流れに任せるらしい。そのまま湖に流れていてくれれば良かった。

「にゃあは、王様がいればどこでもいいにゃよ」

「…………」

 何か仕組まれているようなそんな感じがしてならないが。

 まあ見知らぬ土地、現地の住民と交流を図るのも良かろう。

「それではカトレア殿」

 結局、

「一晩、厄介になる」

 私も流される身なのだ。

「は、誠に光栄の至りであります。微力ながら、精一杯の限りを尽くさせて頂くであります」

 彼女は再度、これまた丁寧に腰を折った。

「カトレアさ~ん、この気球ここに置いておいても大丈夫ですかぁ?」

「どうぞ、心配には及ばないのであります」

 誰とでもすぐに交友関係を結べると言うべきか、アマハは何時でも何処でも誰にでも、馴れ馴れしい。

 そういえば、彼女は自己紹介をしていない。させなければ。今日明日と、世話になるのだから。

「おい、貴様もしっかりと名乗っておけ」

「は~い。私めは、王様の愛人の~」

「死ね」

 いつも通りの、圧制だった。一蹴りである。

 それを見たカトレアは驚いた素振りこそはなかったが、目を少し瞬かせた。

 宝石師はニヤリと、笑った。


 ・


 ・


 ・


 カトレアはログハウスの中に入るとすぐ、暖炉に火を灯した。そして彼らにシャワーを浴びるように促した。結構広いからという理由で女性陣はまとめて一緒に。姦しい声が響いた後は、王様が一人で湯に浸かった。面白いからという理由で教会では鍵を閉めても散々誰かが入室してきたが、今回は全く邪魔立てがなく、心の底から安堵し、心身共に休養できた。

 湯から上がると、なんと湖でずぶ濡れだったはずの洋服が洗いたての乾かしたてのピッカピカになってとても丹念に綺麗に畳まれてそこにおいてあった。限りなく自然な動作でそれらを着る。ふむ、とても着心地がよい。抜群である。

 暖炉のある部屋に向かうと、先程の姦し娘達も皆綺麗サッパリした変わらない姿でいて、晴れやかな表情でいた。カトレアがどうにかしたらしいのだが、探求しないで欲しいとのことだった。感冒などの心配が消えたところで、日が暮れる前にこのログハウスの案内をしたいとカトレアが発案、彼らはそれに従った。暖炉の部屋には多くの扉やどこかへ続く廊下があって、1つずつ回っていった。キッチンや浴室、吹き抜けの先の2階には幾多のシックだが明るいデザインの部屋があり、そして奥にはバルコニーがあった。オレンジ色の湖が臨めた。

 次々と部屋を案内する中、カトレアは1つの部屋の前を通り過ぎた。そこはまだ説明されていない。しかし彼女曰く、

「は、皆様、そちらの部屋には入室しないと吾人と約束してほしいであります」

 ということである。皆が了解したのを確認すると、カトレアは次の部屋のドアを開けた。

「カトレアは、あまり聞かぬ言葉を遣うな」

「そ? こっちが理解出来てんだから別にいんじゃね? 別に」

 王様と宝石師は歩きながら話す。

「別に、このたった一度の人生において、世界中の全ての人に出会わなきゃならない訳じゃないんだから」

「何をそう悟っているのだ」

「長生きすると、若者には悟りたくなんだよ」

「お前も充分だろう」

「おや、嬉しいこと言ってくれんね、ありがとよ」

 アンジェリークは彼にそう言うと、少し軽い足取りでカトレアの元へ行き、自分の部屋は何処だい、と尋ねた。

「は、アンジェリーク様は、こちらのお部屋を使用してほしいであります。お好きにお使いください。そしてその隣が猫様、次いでアマハ様、そしてその隣が、王様、御仁です」

「ああ」

「どうぞ」

「あ、ああ」

 その蒼い無表情な目で見下ろしてくる、彼女。

 アマハ達が自分たちの部屋を確認してる最中、見つめ合う2人。否、見つめ合わされているような、漆黒の瞳で見上げる、彼。

「は、入室しないのでありますか?」

「ああいや、使わせて貰う、ぞ」

 先程からの違和感は薄まらないまま、直立不動の彼女からの視線を振り切り、指定された部屋の扉を開け放った。

 風が通り抜けた。

 窓が開いていたらしい、沈みかけの太陽が目に映る。ベッド、テーブル、椅子、観葉植物、タンス、そして大きな本棚と、綺麗に整頓された飾り気のない質素な、広々とした、1人で使うには大きすぎるくらいの部屋。

「ほう……」

 また穏やかな風が通り抜けて、後ろを振り向くと、

「…………」

 彼女はまだこちらを見つめていた。猫達の姦しい声だけが聞こえる。先程から見つめられていて、少し気づいた。

 カトレアの表情は無のはずなのに、少し悲しげな、突いたら溢れそうな何かが、あるように思えた。

「……どうした、カトレアよ」

「いえ」

 目を伏せた。

「お気に召したでありますか」

「ああ」

 そして、彼女が瞳をゆっくりとあげると、

「王様ー! 見ろにゃー!」

 猫が乱入してきた、のが声でわかった。なぜ声で理解したかと言えば、その入室してきた人物の顔が、両腕いっぱいにある多種多様なぬいぐるみによって見えなかったからだ。

「にゃあの部屋にいっぱいあたー! やたー!」

 きっと満面の笑みだろう弾んだ声と共に、腕からぼろぼろ小さなぬいぐるみ達がこぼれ落ちた。たぶん廊下にも散乱している。

「猫、あまり浮かれるでない。それらを片付けよ、手を貸してやるから」

「あいあいにゃー」

 彼女の方へ向かい、ぬいぐるみを拾う。即座にカトレアも拾い始める。

「これで全てだな、ほら行くぞ。済まないな、カトレア」

「いえ」

 3人で猫の部屋へ行く。猫の使う部屋へ入ると、確かにたくさんあった。ぬいぐるみの山。壁際やベッドの側や机の上、窓も隠れそうなほど、終いには王様の背を優に超す巨大なぬいぐるみまで。カラフルなふわふわとしたマットの上にも、大量のぬいぐるみ。

「おお……これは凄いな」

「にゃろ? にゃろ? 凄いにゃー!」

 全てのぬいぐるみを片付け終えると、

「あれ王様、ここにいたんかい」

 アンジェリークがひょこっと猫の部屋の扉から顔を出す。

「宝石師か。落ち着いたか?」

「大体ね。でも広過ぎだよ。しかしまあ、儂の部屋には良い椅子があった。あれさえあればいーわ。ベッドも大きかったけれど使わないしねー」

「?」

 疑問符を掲げながら皆でどやどやと廊下へ出ると、

「は~王様、私めもやっと準備が整いまして、お部屋もベッドも万端で、もう私の生まれたままのその姿を見て欲しいとはぅあぐぇ!」

 シスター・アマハがいつものシスター服ではなく黒のシースルー生地のフロントホックベビードール、その下から透けて見える黒の下着だけというあられもない姿で困ったような笑顔で立っていたので王様とアンジェリークが迷いのない華麗な二段キックで彼女を指定された部屋へ押し込むと、

「まさかの身内の恥がどうのこうの。君、こういうのは教会の中だけにしんさいよ」

「いや教会の中でこそするでないわ! この、この部屋の、このドアの鍵を外から、掛けて、内側からは出られないようにせよ!」

「は、外から鍵は掛けられません」

「あっはっは。めっちゃ普通に答えられたしー」

「にゃがいも?」

 またまた激しい圧制、カトレアは再度、瞬きをした。



    **



「いくら好きにして良いと言われたからといって勝手な真似をするでないぞこの恥曝し」

「きゃあ、王様のお言葉遣いがどんどん乱暴に、まあそれはそれで素敵ですわよあら美味しいこのスープ!」

 陽も沈み、夕食を取る一同。パチパチと優しい光を放つ暖炉のある部屋で、王様の隣には猫が、猫の隣にはアマハが、アマハの隣には目前に座る王様を未だに凝視するカトレアが、1つのテーブルを囲んで緩やかにその時を過ごしていた。

 アンジェリークは、いない。部屋に籠もっているらしい。

 そういえば教会にいたときも、いやそれ以前も、彼女が食事をしているところを見たことがない。仕事が忙しいやら何やらで、そのときはあまり姿を見せず、姿を見せても四方山話を喋って部屋に帰るだけ。しかしいつまでも変わらない彼女に、それほど疑問は持たなかったが。

 それにしてもカトレアが異常に視線をこちらに向けるので、彼的には少々気まずい。まだアンジェリークの皮肉でもあれば良かった。

「カトレア、此処には昔からか?」

「はい」

 即答だった。手を止め、瞬きだけが機能しているかのようだった。またさらに彼はぎくしゃくする。別に居心地が悪いのではない。女性に見つめられているということもそうだが、何かが、何かが彼女にはあった。隣では元気に食べ散らかす猫の口の周りを楽しそうに拭うアマハの姿。暢気である。対照的である。しかし、王様がそう少し困った顔をすると、

「は、この湖には――とある曰く付きなお話があるのであります」

 カトレアが口を開いた。

「……」

 王様も興味を持ったような素振りで視線だけ向けた。

「は、昼間の通り、湖は壮大で、かつ美しくあります。青く青く澄み渡り、まるで……いえ、なんでもないのであります。しかしだからこそ、惹かれる何かがあるのであります。しかし夜となれば、変貌するのであります」

「変貌って、何にですか~? どゆことですか~?」

「はい、定かではない、凡そ不思議と称される者……その不透明な存在が犇めくように湖の上を、ゆらゆらと彷徨う、と」

「ええ?!」

「にゃんと!」

「視覚的にも、精神的にも、感知は可能であります故」

「ほわあ~」

「しかし海岸へ近づけば、その冷たい手に掴まれて、微かな記憶と五感の中で、冷たい水の中に、そして、そのまま」

「こわ~い!」

「にゃ~い!」

「そう、何か、惹き寄せられる何かが。――なので、夜は湖へ近づかぬようにと、言われているのであります」

「は~い、わかりました!」

「にゃー」

 元気に返事する猫とアマハ。

「ねえ、王様。王様……うおーい、王様ー?」

「え?」

 そしてずっと沈黙していた彼に、いつの間にかカトレアと王様の間に座っていた人形のような彼女が、彼の目の前で手をヒラヒラとさせていた。彼がやっと口を開いたのを確認すると、彼女はその手を目の横へ持って行き、ピースの手つきにした。

「なぬの話?」

 アンジェリークはニヤリと笑う。

「え?」

「なに疑問符飛ばしてんだ」

「それがですねリノちゃん、とっても怖いお話をしていましたの」

「ホラー?」

「ふぁい」

「ん、君なんか飲んでんな。はっ、ホラーとか、儂らの教会にもあっだろ」

「え?」

「なんだい王様、気づいているかと思ったよ」

「え?」

「無表情に疑問符飛ばすのやめろ」

 足をパタパタと揺らすアンジェリーク。そして食事を終えたのか食器を持って立ち上がったカトレア。

「片付けます。吾人はその後就寝します故。どうぞ後程も、ご自由に」

 スーッと移動して、キッチンの奥へと消え、食器の音が静かに鳴り響く。

「早くね?」

 まだ、陽が沈んだばかりである。

「で~す~か~ら~、早寝早起き気丈な子なんですよ~」

「お前大丈夫か?」

「あ、王様が戻ってきた」

 その広い部屋には彼らだけになった。

「じゃ、儂は部屋に戻るから」

「猫ちゃ~ん、カトレアさんと一緒にお皿、洗いますか? しくしく」

「や、猫にはやらせんでよい」

「そうにゃ! 浴びりゅのはよいけど指先にちょんってだけの水は嫌にゃ!」

「あとアマハ、お前もやるな。私が」

「吾人だけやりますのでお寛ぎなさって欲しいであります」

「はいじゃ王様、そっち持ってー」

 どんどん流れていく会話。

「あ、ああ」

 仕方なく後片付けをカトレアに任せ、何故か酔って歩けないアマハをアンジェリークと協力して運び、部屋のベッドの上へと投げる。アマハはそのまま、笑みを浮かべながら眠りについた。

 廊下へ出ると、猫が自分の部屋でぬいぐるみと戯れているであろう声が聞こえた。アンジェリークは「おやみー」とだけ言って颯爽と自分の部屋へ入ってしまった。王様も自身の部屋へ入る。中は暗かった。が、微かな月明かりで、明かりをつけなくても部屋の全容は伺える程度だった。窓がまだ開いていたので、閉めに行こうと窓際に向かうと、その薄い月の下、すぐそこにゆらゆらと湖がきらめくのが見えた。

“定かではない、凡そ不思議と称される者……その不透明な存在が犇めくように湖の上を、ゆらゆらと彷徨い、近づけば、その冷たい手に掴まれて――”

「…………」

 無言で窓を閉じる。ふわりふわりとなびいていたカーテンは止まり、そして部屋を見渡す。風がないので、隣の部屋からの音が無いから静かで、呼吸の音が聞こえそうなほど、静寂過ぎて。

 国が滅んだとき、猫に再会出来るまでの、1人だったときのように思えて。

 湖が見えたとき、猫と一緒に滅んだ城下をずっと見ていたときのように思えて。

 王様はゆらりと上着を脱ぐと、そのままベッドへ潜り込み、そして突然襲ってきた睡魔により、意識を無理矢理遠のかせた。

 イシキを、揺らした。

 キオクを、揺らした。

 迷いなく何かに向かった、不可解な情熱を連れて、

 正しさに向かえば、誰かが傷つくことを覚えたことを、

 はじめて誰かの為に泣いたあの日のことを、忘れはしない。


“アイツとお前は、わたしの光だからな”


 あたまのなかでこえがする。


“大丈夫、俺は2人とも永遠に愛してるって!”


 うたがきこえる。


“王子様、寂しくにゃいかっ”


 へんにひびいて、いたい。


“ごめんね、俺らの偉大な、王子様”


 いたいから、かなしい。


“この王国(くに)終わっちまったにゃあ――どんな心境にゃ?”


 かなしいから、


“高くつきます、あなたが、望むものは”


 ねむりたくて、


“にゃあはもう、ただの野良猫だから”


 わたしは――


「…………」

「…………」

 目を開けると目が合った。頬を何かが伝った。誰かが、自分の身体を押さえつける形で乗っている感覚。首筋に何か、冷たいものが当たっている感覚。

 その瞬間、醒めた。

「……何たる狼藉か、この、不届き者」

「…………」

 鋭い瞳。蒼い、瞳。

 まるで、湖の底のような。

 その瞳が、綺麗な蒼い空の色をしていたから?

 身体が動かない。

 けれども目は、慣れてくる。頭脳が、明晰になる。

 そして彼女はその手にしている短剣をスッと浮上させると、そのまま降り降ろした。

 漆黒の瞳が、瞬きする瞬間。

「おねーさんは、にゃにしてるにゃ?」

 暗闇に、2つの鋭い金色の眼光。

「は、この御仁は我々の仇と見受けられ、危険と判断されました。よって、速やかに排撃を遂行したい所存であります」

 猫は彼女の短剣をその鋭利な爪で抑え、カトレアはさらに力を加えようとし、そうお互いを牽制しているこの状態でも、猫の方を見ようともせずに変わらぬ落ち着いた口調で説明をする、夷険一節な彼女。

「如何様な吾人でも、寝れば赤子同然であります故、彼の時を」

「王様を(にゃ)かせんにゃあっ!」

 猫が反対の手をカトレアへ突き出したように見えた。速すぎて正確には分からなかったが、その瞬間身体が突然軽くなった。何かが頭上を通り過ぎ、そして窓の割れた音がした。カトレアが、猫の一撃をかわして、そのまま外へ出たのだ。すかさず猫の方を見ると、彼女は年相応から生まれた憤怒の表情をしていた、が、その隙のない表情は身体相応のものだった。外から水の、音がした。

「あ……!」

 吃驚で身体の緊張が解けた彼は、大雑把にカーテンを引っ張り、割れた窓を開け、下を覗いた。

 ゆらめく湖。波紋が1つ、2つ。彼女は湖に落ちたのだろうか。

「猫、明かりをつけよ!」 

 無音でついた部屋の明かりと、月明かりを頼りに辺りを見渡す。

 水音。

 そちらへ目を向けた。

 何か動いている。

 月に反射して映える銀色の髪、カトレアだ。

 彼女はずぶ濡れで、小さな岩の上に這い上がっていた。

 部屋の明かりだけで、目を凝らしてみれば。

「な……!」

 その白い肌に所々、宝石の様に輝く鱗のようなモノがあり、尖った鮮やかなグリーンの耳が濡れた銀髪から生えていて、水面に浮く白いワンピースの残がい、そして、彼女の足があるはずのところには、鮮やかな尾ビレが2つ存在していた。

「あれは……人魚……?」

 鋭い眼光でこちらを睨んでいる彼女。隣には、先程変わらぬ表情の彼女。毛が逆立っていて、そのゆらりと顔の前に上げた爪は鋭くて、今にも外に出て飛びかかろうとした、

「いかんいかん、あんなん食っても得しないぜって」

 のだが。

「……ひゃあ凄い、大変大変~」

 まるで仲良し3人組というような素振りで、彼女の両肩をがっしり掴んで抑制する、アマハとアンジェリークが、現れた。

「お前達……」

「ありゃ放っとけばもう一回全力で殺しに来るな」

「どうにかしませんと~」

「え? え?」

「君は相変わらず死んだように眠っていたんだね、王様。もう特技の域じゃねえか。いつの間にか死ねるとか、やめろよな」

 相変わらずその可憐な容姿からは想像できない言葉遣い。

「まあここは、老い耄れに任せときな、若人共」

 そう言って、アンジェリーク・フォン・ブラウン=カルゼン=ブラッカーは前線に立った。つまりは割れた窓から外へふわりと飛び降りて、湖の岸辺に立った。

「?!」

 吃驚する王様の前、もちろんニヤリ顔で、彼女は自身に纏うクローディアドレスの長い袖に手を入れ、

「見かけだけで判断しちゃいけないさ」

 何やら漁っていると思えば、そこから小さな宝石箱を取り出した。ピンクローズカラーの小さな花が装飾された気品溢れる調度品。

「宝石を採り、宝石を磨き、宝石を削り、宝石を創り、宝石を集め、宝石を愛でるだけが――――宝石師だと思うな、若造」

 そして金色の留め具を外したかと思うと、光が溢れた。

「この宝石は、夜でも使える(・・・・・・)ようにしてあんだよ」

「?」

「てーい」

 彼女の手から放たれたのは、宝石だとわかった。色取り取りの輝きを見せながら、魅せながら、真っ直ぐカトレアの方へ向かっていく。彼女の頭上へ舞った瞬間。

 それらは爆発した。

「?!」

 明るい閃光と巨大な音と爆風が、テラスに面した窓ガラスに罅を作ったのを理解させた。目を開けたとき、アンジェリークの細い背中が見えた。瞬間、アマハが王様の耳を塞いだので、特に彼への異常はなく、そしてアンジェリークの声が聞こえた。

「死ーんだっかなー」

 立ち込める煙の中にゆらりと動く影が見えた。王様はビクッとする。カトレアだ。変わらぬ表情で、傷1つない白い肌、口元に短剣を当てていた。

「宝石でありますか?」

「そ、宝石。儂は、宝石師なの。まあ1番ちっちぇえのだから、よえーなー」

「1番小さいだと?! うわ!」

 王様が言い終わる前に既に次の宝石を放ったアンジェリーク。宝石達は空高く舞い上がり、直下し、爆音、爆音。

「儂の宝石はほぼキャラアップだから、よく飛ぶね」

「絶対それ関係なくあそこまで飛んじゃってますわよねー、るんるん」

「楽しんでるでない!」

 しかし全てを回避しているカトレア、だが次に飛んできた宝石の群れに真っ向に対したかと思うと、水面から両腕を上げ、それに合わせて浮上した大きな水の塊まりをその終わらない先陣達へぶつけた、が。

「宝石の耐久性条件の1つに靱性ってのがあってさ、その辺かなり加工したからよ、水如きじゃ儂の宝石達は破壊できねーぜ」

 水の塊まりの向こう側からまたも幾重の爆発音がした。

「よっと」

 その水の塊まりをアンジェリークは歩いて難なく避けたので、

「わ、わー!」

 そのまま王様達の方へ勢いよく向かってきた。咄嗟に王様は目を瞑った。

「…………。……?」

 目を開けた。煙と共に霧が、立ち込めていた。何も、ない。衝撃や、水に濡れたような感覚など、何も。

「王様、お怪我はありませんか~?」

 頭上よりアマハの声が聞こえた。

「あ、ああ」

 辛うじて答えると、

「はい、良かったです。王様は、私めのお傍にいれば安全ですから~」

「?」

「はいじゃあこれはどうだい!」

 なんだか溌剌とした声になってきたアンジェリークの方へ目を向けると、

「のぉっ?!」

 彼女は頭上に宝石を掲げていた。それは、彼女の纏うドレスと同色のワインレッドカラーで、彼女がそのまま入ってしまいそうなほどの、巨大で巨大な宝石だった。向こう側のカトレアが見えるほど、美しく透き通っている。

「ほ」

 王様が彼女を呼ぼうとして、彼女がそれに振り返る。ニヤリ顔だ。そしてそのまま、彼女はその巨大宝石をカトレアへ投げた。しかしカトレアは、素知らぬ表情で、敏捷に真横へと避ける。もちろん大粒の宝石は宙を舞い、大きな水音を立てて湖の底へ沈んでいった。そして爆発したのか、爆音と共に水が高く夜空へ昇った。

「的が大きくなっただけだから避けれるか。まあ1回試してみたかっただけだから良いんだけど」

「真面目にやらんか!」

「はいよー」

 アンジェリークは地を蹴った。空中へ飛び立つと、その拳をカトレアへ突き出した。しかしカトレアはそれを受け止めると、流れるように手刀を繰り出す。それを回避し、丁度岩が突き出た点に着地すると、また違う岩や木へと移動するアンジェリーク。無駄に色々動いてはいるが、彼女は重力など存在しないかのように、華麗に優雅に、クルクルと。それを追いかけるカトレアは、湖の中を自在に泳ぎ、空中へ躍り出て、軽やかに尾を翻し、月明かりで鱗がキラキラと反射して、無駄な動きなどなく、しかし美しく舞うように。そしてピッタリ相対したかと思えば、各々に四肢を飛ばし、そしてお互いすれ違えば、また出会い激戦する2人。

「肉弾戦だと?!」

「あんれこっちもいける口かい」

「…………」

 するとカトレアはアンジェリークから大きく距離を取り、濡れる銀色の髪を翻して、かなり後ろへ下がったかと思うと勢いよく両手を水面へと叩きつけた。瞬間、そう例えるならば水のカーテンのような水の壁が、月夜を目指して空高く隆起したかと思うと、そうそれは大津波の如く押し寄せてきた。厚く、高く、速く、そのログハウスなど優に包み込んでしまうほどの。

「あー、うん。これは避けきれねーわ。儂小さいしな、いろいろ」

 思慮するように顎に手を絡ませると、

「だから避けずに留まるぜ」

 周りが青く染まったと同時に、彼女は水に飲み込まれた。そして波はそのまま王様達の方へ向かってくる。

「またか!」

「大丈夫ですよぉ~」

 焦る王様の頭を撫でながら、ほんわかするアマハ。その大津波が自分を包んだと思ったら、包んだと思ったのに、先程と同じで、何ともない。

「……お前、何かしているのか?」

「秘密です~。あ、リノちゃん」

「時代を感じるね。いいね」

 くぐもった、だがうっとりとした声が聞こえる。目前にいたアンジェリークは、その青い煌めきの中にいた。青い宝石が、彼女を閉じ込めているように、彼女を包み込んでいた。

「虫は嫌いだが宝石の中に閉じ込められている虫は美しい。時代によって出来た宝石、いいねえ。というか、宝石に閉じ込められていれば何でも美しい、今の儂」 

「何を抜かしておる……」

「んー」

 ちょんっと、内側を右手の人差し指で彼女が突くと、また周りが青く煌めいて、

「タイミング良いねえ」

 その青の守りが消えた瞬間、向こうより飛んできた小さな水の塊まり達。小さいが素早く、まるでそれぞれが意志を持っているかのように無造作にやってきた先駆達をアンジェリークはタイミング良く邀撃する。とりあえず回避しておいてまたUターンしてこちらへ向かってくる1番手短なものから1つずつ先程の宝石爆弾で破壊していく。

「あー、やっぱ宝石はカボション・カットだよなー。ファセットとかマーキスとか、ありえねーよなー。まあ儂もいくつか持ってるけどさ。だってあれも綺麗だもん」

「あいつは……戦闘中でも多弁だな」

「やっぱそこつっこんじゃいます?」

 迎撃しながら少しずつ軽やかに歩を歩め、ついには湖面の岩や木の上に立ち、そしてカトレアを見つけた。

「やほっ」

「……大概にして欲しいであります」

「君もな……ん!?」

 首尾良く彼女の目前へ到達し、次の襲撃を仕掛けようと目論んだアンジェリーク。少し余裕付いていただけかもしれない。そのひらひら揺らめくドレスの裾を不意に掴むと、そのままカトレアは、彼女を水面へ叩き投げつけた。頭からの水面衝突。まさか自身が纏うものに遅れを取られるとは思っていなかったのか、彼女は水の中で目を細めた。

 同じことしてやろうと思ったけどそういやあっちは衣服なんて纏ってないしなあ。

 暢気に考え事をしながらワインレッドの瞳をゆっくり開けると、やはりいつのまにか湖面へ浮き上がっていた。

「お、また危ねえ」

 遠くに、こちらへ向かってくる者の影。カトレアだろうと、体勢を立て直そうと頭を起き上がらせると、

「速っ」

 既に、眼前にカトレアはいた。

「は、吾人は、水の中なら負けないのであります」

「……まじかよ、人魚って、すげえな」

 直後、自らの身体が勢いよく隆起する感覚。アンジェリークを乗せて、まるでドラゴンのような美しい出で立ちのその水勢は、そのまま彼女を水面へと叩きつけ、そしてそのまま激しい轟音と水飛沫を立てながら、水中奥深くへと潜っていった。

「ああ!」

「王様!?」

 彼女たちを押しのけて、自分の部屋を出て、階段を下り、リビングの窓からテラスへ出ようとすると、

「王様は外へ出てはなりませんわ!」

「は、離せアマハ!」

 アマハに抑えられ、せめて両手を伸ばす王様。テラスから出ればすぐ岸辺、その先は湖、丁度、アンジェリークが沈んだところ。揺らめく水面には細かい泡沫、粉々になった宝石の欠片たち、そして、アンジェリークが髪を結っていた白いリボン――。

「ほ、宝石師、どこだ、あ……」

 そんな彼らの方へ向かってくる、ギラギラとした瞳で、短剣を構えた彼女。

「大丈夫です、大丈夫です」

 と、

「!」

 突如水の中から何かが飛び出し、カトレアへ向かう。それを一瞬で察知した彼女は、大きく後ろへ退いた。それらは、無数の宝石だった。何事もなく、それらは水面に小さな水音を立て、そしてそのまま水面で散らばり、ゆらゆら揺れている。

 ニュッと。

 水面から腕が伸びたかと思うと、その手は近くの岩を掴み、そしてその身体を持ち上げた。

「あー……」

 のたのたと、ずぶ濡れの彼女が上がってきた。解けてしまったブラウンの長い髪を身体にうねらせ、地面に滴らせ、岸辺に座り込む。

「死ぬかと思った」

「……ま、また、地味に登場したな。ほ、宝石師、無事か?」

「おうともー。いやー、あのドラゴン的物体はしつこかった。苦労した」

 彼がホッとした、安堵の表情を浮かべたのを、確認すると。

「あーあ、服もズタボロだよ、ったく、これじゃあ私の正体がバレちゃうじゃねーか」

 そう言って立ち上がった彼女の体は、

「! 宝石師、お前――」

 今まで一度も晒さなかった首まで覆われていた白い肌には傷一つついておらず、

「ま、いいか」

 ただ、服がズタズタに破けた、肩や、足、首、手の全ての関節部は、球体によって形成されている、角張った、その体つきは。

「人形のような外見をしてて本当に人形だとは誰も思わねーよな」

「な……!」

 目を見開き、驚くのはカトレア。

 そして、彼も。

「お前……」

 気球が墜落する中、触れる彼女の身体は、人間の感触、そのものだったはずだ。

「人間みたいだろ? でも人間じゃない。そう、私の正体は機械人形だ。従って飲み食いも睡眠も皆無である。痛みもねえ、年も取らねえ。しかし精神だけは歳を取って行く」

 表情を変えず、腰に手を置いて、いつものように。

「なんだか不死身の人間みたいじゃん? だからいつでも儂は、見た目の可愛いままなのさ、ふふん」

 しかし、どこかそのブラウンの髪で、自身のその身体を少しでも隠せるように、妙な動きを無意識にしているようで。

「関節が不自然な向きに曲がってしまう、関節を繋ぐテンションゴムが切れて人形がバラバラになってしまう、そんなことは起きませんぜ。そういう魔法で、創られたから」

 初めて彼女が自身のことを話したとき。

「全12世界の魔法使いたちのためだけに」

 世界は静寂だった。

「まあそんなどうでもいいことはまた詳しく話すよ」

 そう、それはまるで――。

「さて驚きの発覚があったところでもう一つびっくりなニュースだ」

 ふと王様に声を掛ける、アンジェリーク・フォン・ブラウン=カルゼン=ブラッカー。

「王様さ、ここに街が栄えていたこと、知ってたか?」

「街?」

「この湖の下にはこの湖によって沈められたような超栄えた街があったってこと。流入している河川も流入する河川もないのに。多分意図的に、沈めさせられた滅ぼさせられた街がありましたよっと」

「何?!」

「今、水中に叩き落されたとき、見えたんだよ。この湖、底が見えないけれどさ。それもそのはずだ。カトレア君が自分の家だと惚けたあのログハウスはこの街を見下ろせる高山の頂にあって、そしてその見渡せる先には結構栄えた街があった」

 カトレアは視線をずらさず、アンジェリークを見つめ続けている。

「結構な水の量だなあ。どっから持ってきたんだこんな量」

 辛うじて残った布生地を結び合わせ、

「とりま」

 片方だけになったウエッジソールパンプスをゆっくりと脱ぐと。

「儂が今日まで一生懸命隠していた正体をこんなにも簡単に破り捨ててくれるとはな……女は服飾も命なんだぜ!」

「っ!」

 そのまるで宝石のような鱗のある白い左腕に、無数の赤い宝石が、突き刺さった。

「ほーら、たまに使えるファセット・カットだ。超鋭利だから、ただそこにあるだけで痛いぜ」

 赤い血が、滲み出てくる。

「へえ、やっぱ人魚も赤いんだな。綺麗な色じゃん。でもやっぱ、角張っているのは嫌いだ」

 そしてどんどん、流血を始める。

「畜生っ、畜生だよ。この世で最も気高い花のような、この世で最も無垢な宝石の化身みたいな奴だと思ってたのに、本当の姿は美しく凛然たるも角張った宝石とはな……残念だよ、カトレア君」

 動こうとしても動けなかった。その宝石は、カトレアの腕共々小岩に深く刺さっていたから。彼女も理解したようで低く体勢を取り、そして周りの水が小さくうねり始めた。

「やっぱ一番無垢なのは、無垢の魚だな」

「……っ」

 彼女は片目を瞑り、歯を食いしばってその左腕を支えている。じゃらりと、アンジェリークが両腕に虹色の宝石を巡らせたとき、

「宝石師、そのまま、だ」

「あん? 王様?」

 彼女の隣には、岸辺に立ち、カトレアを見据える小さな彼の姿が。

「おいシスター、王様を離すなよ。つっかえねーなー」

「は、はううううう」

 構えた宝石はそのままに、悪態を吐くアンジェリーク。月の見えない、星がきらめく薄明るい空の下、少し弱々しい風が肌を撫でる中、王様が口を開いた。

「何故斯様な真似をした。言え」

「…………」

「…………」

「吾人は」

 顔と視線が沈み、カトレアは言葉を紡ぎ出した。

「吾人は、人魚の生き残りであります。人魚は捕虜や奴隷として多く乱獲され、けれども吾人は、生き残った、生き残ってしまったのであります。お伽話のような、我らの呪われた運命を覆すため、吾人は1人でも多くの人魚を救おうと、1人でも多くの乱獲者を殺そうと、決心した所存であります。そして、そして吾人は、まだ、どこかで生きているはずの、末の妹を、探しているのであります」

「まあ儂も機械人形の生き残りだけど。じゃあ今までのことはオール嘘だろ」

「は、如何にも、貴方方を迎え撃つただの陥穽であります」

「いやだからさー、何故に王様?」

「あのお方が、王様がやったと申し上げていたであります。小さな王冠を有している、王様を」

「あの方ってだ」

「宝石師」

「……」

 王様の一声により彼女が完全に沈黙したのを確認すると、再度視線をカトレアへ向ける。彼女も王様と視線を合わせた。

「は、これ以上は極めて困難故、ここはお力をお借りして、撤退するであります」

「ん?」

「では、失礼するであります」

 凛と、カトレアが言うと、カトレアの腕を張りつけていた岩が突然フッと姿形跡形もなく消えた。

「?!」

 と思うと、その岩が無くなった何も無くなった空間が、捻れた。そして、大きな見えない何かが風になったかのように、何かがその空間を揺るがす中、カトレアがその中に吸い込まれていくように少しずつ見えなくなる。

「おおう逃げるってかー?」

「ま、待てカトレア!」

「おうおう王様いかんって。多分あの捻れは1人分の通路だから君が行ったら君はバラバラになると思う、身体とか精神とか」

「……!」

 4人は息を呑んで、ゆっくりとカトレアが消えるのを見るしかできなかった。

「……御仁は」

 最後にアマハを一瞥すると、そのまま流れに乗って、カトレアは完全にどこかの空間へぱったりと消えた。ポタリと、最後に一滴の血が水面に落ち、そのまま溶けて無くなった。波は静けさを、取り戻していった。

「…………」

「王様、上着をどうぞ?」

「……ああ」

 アマハから上着を受け取った。

「王様……!」

 猫が不安げな顔で走ってきた。先程はとても凛然たる雰囲気だったが、今はとても稚拙な子供のようで。

「猫、お前にしては大人しくしてたな」

「にゃあ……あのお姉さん、めっちゃ怖かったんにゃあ」

「そうか」

 耳をパタパタと動かしワタワタと手を振る猫を安堵した表情で見つめながら、次に視線は彼女を探す。ボロボロの服と髪のまま、安座して頭を埋めていた。疲労からか、終わったからか、人形のようで、否、人形であるからか、彼女は全く動かない。王様は、彼女の肩にパサリと自身の上着を掛けた。

「あー……宝石師、あの」

「あのね、聞いて?」

 アンジェリークはそのままの姿勢で答える。

「儂が自分で自分の宝石に傷をつけるのは結構だけど他人に自分の宝石傷つけられると極致的に腹立つんだけど」

「……お前への配慮は無用だったな」

 そしてゆっくりと彼女は顔を上げた。その時、太陽が頭を出した。キラキラと湖面が光り出し、彼女の髪をも、美しく照らし出した。

「あの人魚……次は絶対ぇ締め上げるぜ」

「そうにゃー!」

「ま、猫!?」

「人魚は敵にゃー! 美味しそうだったけど駄目にゃー!」

「わかった、わかったからひっつくでない!」

 水際で騒ぐ彼らはそのまま朝を迎えた。そしてカトレアが本当にこの空間から消えたことを確信した後、ログハウスへ戻る。暖炉に火を灯し、明かりをつけようとしたが、もう辺りは陽の光で明るく、そして湖はまた青々と輝きだす。まさか、この湖が、大きく栄えた町1つを飲み込んでいたとは、到底思えなかった。昨日と今日で、大きく見方が変わり、大きく視線が変わった。そしてふと、ソファでごろごろと寝転んでいた猫が言う。

「ここも、誰か家族さんが住んでいたのにゃ?」

 彼女以外いないというこの家に、あんな趣味の散らばった部屋がたくさんあったのだ。そこからの違和感も、あったのだ。

 そして2階を見回っていたアンジェリークが階段から下りてきて、

「あの、カトレア君が入るなって言ってた部屋だけポッカリなかったよ。一体、あの部屋は何だったんだろうな」

 そう言って壁にもたれ掛かった。流れる髪でほぼ見えなくなっているが、彼女の身体を構成する関節球が垣間見え、本当に人間ではないのかと唖然とした。

「そんなに動いて、大丈夫なのか」

「魔法で創られたから大丈夫だって言ってんだろ、それに、人間の身体じゃねーからな。防御力は半端ないぜー。何十年か前に1回補強したし」

 アマハがお茶を淹れる音がする。青い花片が散りばめられたようなティーカップとソーサラーが、3つずつ。 

「お前……一体年は幾つなんだ」

「じゅーよん」

 見た目年齢は自身より低いのに。

「嘘を吐くでない」

「わかったよ。2000歳だよ」

「嘘を吐くでない!」

「マジだってばー」

「マジですわよ~」

 精神年齢は自身の約100倍。

「…………」

「どうでもいいけどさ、さっき王様が加勢しようとしてたけどしても全く無意味だったからな」

「な、なにを根拠に」

「君泳げねーじゃん」

「な!」

「浮いてるだけじゃ意味ねーんだよ。あとホラー系も苦手って域じゃなく半端なく駄目だよな。たまに教会に来たときにスプラッタなセットで脅かしたときは面白かったわー。あの異常な声の甲高さ。あと高いとこも駄目だし、女もちょっと苦手だろ? あれ、ほとんど駄目じゃねえかよ王様なのによ。まあそう刷り込んだのはほぼ儂と先代だがね」

「だ、」

「こっどもー」

 彼は、言い返さなかった。

 言い返せなかった。

 その頭上の小さな王冠を被り直す振りをして、身体相応に真っ赤な顔して、固まったままだった。











「世界はまわるというけれど」

 凛とした、少年の声がした。

 だがえらくゆっくりとした、どこか重厚な雰囲気があった。

(きみ)さ、世界がまわるとはどう言う事か、簡潔に述べてみてよ」

 そこは、何もない空間のようだった。

 その、真っ暗な部屋から逸脱しているかのように、真っ白な髪、真っ白な肌、悪戯好きな子供のようにも博識な大人のようにも見えるその整った顔つき、首元には黒く細いリボン、月の見えないその窓辺に、瞳を閉じて立っている。

 その左腕には、まるで真っ黒な紙に白いインクを落としたような、大きな大きな真っ白いうさぎのぬいぐるみが、その感情のない黒い瞳で、抱えられていた。

 そして、ゆったりと紫煙を燻らせ、小さな明かりを灯しながら、一本の煙草を咥える彼。

身共(わたし)的にはさ、きっと世界の方が身共についてきてないんだよ。世界は世界で一番大きいって言うけれどさ、実際の世界の大きさなんて誰も知らないでしょう? もしかしたら、泡のような影のような夢のような幻かもしれないのに、そんな自分の世界を信じて、よくのうのうと生きていられるよね、人間は。はじけて消えそうな、それだけの存在なのに。全く、そーゆー奴らが溢れかえっているから、そーゆー奴らがこの世界を牛耳っていると、支配していると勝手に思い込んでいるもんだから、身共らみたいなのが苦しまなきゃいけないんだ、ねえ?」

「…………」

 と――その女性は直立不動にただただ黙っている。

 ポタッ。

 カトレアの全身に衝動が走った。先程の傷が未だ癒えきっていなかったのか、傷口が耐え切れず流血した。不定期にくる痛み。それでも彼女は、微動だにしない。

「えーっと、大丈夫?」

 言葉では心配の様子が窺えるが、

「は、次は必ず、あの宝石師を」

「駄目だよカトレア、あれは人間じゃないんだから」

 ニコニコしているその表情からはその真意は窺えない。そして、

「駄目なんだよカトレア、人間を倒さないと。人間はあの王様であって、あの人間は、自分を自分で守れない、能力の無い、ダメな、特に、争いを好まないけれどもすっごく勇敢な子だ。倒せるビッグチャンスだったのにね。知らなかったと思うけれど、知らないで何かをやらかすということが、どれ程の罪か、考えたことはある? まあ、身共は考えたこともないし、知りたくもないけれどね。世界最強である、絶縁の白、クルシマ・マシロは、何にも知らないし、何にも出来ないからねぇ。まぁ、そんなことより、何でだろう。身共は、今日来た奴らの名前を知っていた。カトレア、何でだと思う? それにしてもびっくりだったね。あれもう3歳くらいの猫じゃない? あの猫ってね、成長が早い種族でさ、嬰児位になるともう、見た目的には20歳同然になるらしいよ。だけど中身は子供。まるで、彼我みたいだね!」

 飄々と長々と、ゆったりとした楽しそうな口調。煙草の火が燃える微かな音も聞こえるほど静まりかえった部屋。彼女は、

「は、深く謝罪するであります」

 深く頭を下げた。しかし視線は、腕に刺さる小さな尖った宝石。

「まーいいけど。しょうがないさ、だって人外いっぱいだったんだもんね。まさか人外が人間を守っているんだもんね。人外は人間を憎むのが普通なのに。それを1人で戦ったんだもんね、偉いよ、他のみんなは、約一対一なのに」

 カトレアが頭をゆっくりあげた。

「色んな世界に色んな刺客的なのをね、やったのよ。蛇さんの世界にはアルマでしょー。魚さんの世界にはクロさん、熊さんの世界には白火(はっか)ちゃんとかね。猫さんの世界にはカトレアー、で、狐さんの世界には(つゆ)に行って貰ったー。なんか知らないけど本人が行きたがっていたから」

「マシロ様は行かれないのでありますか」

「だって身共ラスボス的位置だもん。司令塔だもん。最後の砦だもん。勇者に倒される魔王の役だもん。前線出ちゃダメだろ?」

「参謀が表舞台に立ってはいけないという規則はないのであります」

「んー」

 左右に揺れるマシロ。腕の中でうさぎが揺れる。煙も揺れる。

「固陋だな、汝は。相変わらず角張ってるね、まあいいや。復讐ごっこ、頑張ってね」

 白い少年は、右手に煙草を持ち替え、漂い消えゆく煙の中で、クスリと笑った。

「身共も頑張って、全ての世界を、悪い悪い人間共から守るよ」

 腕の中のウサギは、虚ろな目のまま。

 夜の空にぽっかりと浮かぶ、独りぼっちの、月のように。

 いつまでも、独りぼっちのまま。

「お姉のためにもね」

 朧気な、しかし消えることのできない月のように。

 いつまでもそこで、笑っていた。




 長っ!

 読了お疲れ様でした。

 大変長らくお待たせ致しました末超長編。

 ありがとうございます。


 この曲ですが、ゆりっぺらしい作曲だなと思いました。

 そして相変わらず有名処を採用して取り込んでしまう鬼才・七さんっ。

 全く変わらぬ、しかし斬新で聴き入ってしまいます

 まだ真新しいところの、この曲さん。


 もうガネクロよ永久に続け!

 願うばかりです。


 正しさに向かえば傷つくこともあること覚えた

 はじめて誰かの為に泣いたあの日忘れない


 良い歌詞です!

 1番好きなところです!


 今回はバトりましたね~

 次回もバトります


 よろしくお願い致します。


 大阪のライブ楽しかったです。

 来年のツアーも楽しみです。


 そして来年のカレンダーも素敵。


 そういえば今度数少ないガネファンの方と

 朝から晩までガネクロオンリーのカラオケいってきます。


 わーい。

 ではまた。



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