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016 水のない晴れた海へ


 ねえ、誰よりも愛しているよ


 君に描く鎮魂歌(レクイエム)の中

 世界のスピードは緩やかに向かう


 破滅の世界へ

 黄昏の世界へ

 何も無い、世界へ


 たった1つの願いを叶える為だけに、僕は行く


 その約束を心に抱いて、

 僕は、Jewel() Fish()の暮らす『海』を目指しているよ


 今から君に、会いに行くよ











 水のない晴れた海へ、

 辿り着いた白い人魚の少女は――











「ほら、この丘を越えれば、海です!」

「わあ、わあ、わあ!」

 森番の少年に手を引かれ、真っ白なワンピースを翻して、覚束無い足取りで走っていく人魚の少女。

 それを見ながら、宝船宝は、かつての自分と、彼女を重ね合わせた。

 ――その先には、希望よりも多い絶望が、あった。

「そう、海はあった」

 宝の横を歩く森番の老人が呪文のように低い声で言った。

「あったんじゃ」

 宝が視線を丘の頂上に見やると、そこに、立ち尽くしている少年少女がいた。

 青年と老人も彼らに追いつく。

 そこに広がっていたのは。

「海が、ない」

 少年が唖然と呟いた。

「そう、海はあった。だが、もうない。消えた」

 老人は当然と、言った。

「…………」

 青年は泰然と目線を彼女へ送る。

「……ぁあ」

 少女は自然と、涙を流した。

 目の前には、海が広がっているはずだった。

 何もない、壮大に晴れた大地と、爽快に晴れた空だった。

 茫漠たる原野。

 太陽が、眩しかった。


 事の始まりは、昨日――





「朝起きたら時計ウサギさんとチェシャ猫さんがいなくなっててかなりの確率でがらんどうって感じだったのだけれど、もしかするとあの2人組は幻想、つまりはイリュージョンだったのかもしれないね……いや、ていうか朝って言っても今現在が朝か昼か夜か全くわからないんだけれどね、もう、相変わらず暗いねこの森は! 初めてのことがいっぱいで、全てのものに感興するよ! ところでタカラ、おはようお帰りなさい! ナナコは一日千秋の思いを胸に抱いて、タカラの帰りを待ちながら、飲み食いして四方山話に大輪の花を咲かせていたんだよ! ん、あれ? 喋ってたってことは、話し相手がいたってことだよね。てことは、やっぱりあの2人は幻想じゃなかったんだ、夢の様で、夢じゃなかったんだね! 無意識の中に潜む願望に偽装された充足だね! 真贋を見極めることは、難しいね! 端倪すべからず、だね!」

「うん、おはようナナコ」

 暗い暗い迷いの森のはずなのに、お互いの顔ははっきりと見える、妙に仄明るい森の中。まあそれはなぜなら、彼らの眼前にはその遥かな地平線まで一面に広がる満開の花畑、昼間のように明るい広い大地が広がっていたからだ。しかし魚々子たちは、宴を森の中でやった。

 まあ、あの2人組にとってあの花畑こそが、この迷いの森を構成した理由だからな……。

 半ばそんなことを考えながら、相対位置に座る宝と魚々子は挨拶を交わした、いつも通りに。

「あー! よく寝たよ!」

「よくまあ……木の根っこやら土の上で快眠できますよね。さすがナナコさん」

「何故に改まったの?! んー確かに何でかな。今までの野宿で慣らされたのかな、学習したのかな。謎は深まるばかり、迷宮入りになる前に解いとこうか……そういえば、ナナコは一応人魚である訳だけれどその時はどうやって寝ていたのかな? やっぱり海の中で? お布団? もしくは陸に上がって? いやでもそれはないか……って、あー! やなこと思い出しちゃったよー! あの盗賊さんぽかったお兄さんたち超怖かったね! いやあもう、今、生きてるね?! ああ良かったよー、タカラいてほんと良かった! まだまだ若くしてこの世を旅立ちたくなかったよ! うわあ、嫌なことじゃなくて、ナナコはタカラと会う前のことを思い出したいのに! 忘れちゃったら、思い出せないの、……かなー!」

 起きたて、朝っぱら(?)からジタバタじたばたと喜怒哀楽激しく動く魚々子。そんな彼女を宥める様に、小さく微笑んだ。

「大丈夫だよ、ナナコ。記憶っていうのは、覚えたことは決して忘れないんだ。ただ、思い出せないだけなんだよ。それに、僕は君の記憶を取り戻すためにも、海に行くんだ。だから心配しなくても、大丈夫だよ」

「大丈夫って2回言ったね」

「そうだね。とっても……大切なことだから」

「…………」

「…………」

「うん!」

 パアッと、彼女は満面の笑みになった。まるで、大輪の花のように。

「タカラが言うと、さり気に説得力満タンだね! 満腔の敬意を表するよ! ありがとう! ナナコ頑張る!」

「うん、偉いね、ナナコは……よいしょ」

 つられるように微笑みながら、彼は木に左手をあずけて立ち上がる。

「とりあえず、早く歩いてこの迷いの森を出よう。一応、肉食の獣とか生息していて危ないと思うんだ」

「え、ええ?! 虫さんの声とか鳥さんの鳴き声とかしないのに、なんで獣さんはいるの?!」

「彼女たちの気まぐれだよ……多分大丈夫だと思うけれど、こんな森にずっといたら、精神的にも身体的にも狂いそうな気がするからね」

「身体的に? ああ、身体的にか……確かに、今が昼か夜か分からなくなりそうだものね! 暗くてちょっと落ち着くかもって思うけど、正直なところ、ナナコは年相応にこの状況がかなり怖い気がするよ。よくも昨日はあんなにはしゃいでいたものだよ……。タカラが出発進行と言ったなら、ナナコは快く始めの一歩を踏み出すよ!」

「はい、じゃあ、ごー」

「唐突だね?!」

 静寂と闇に包まれた迷いの森の中を、道のような道でないような道を、時折木々の間から射す月光を浴びながら、感じながら、歩く。

 彼と彼女、歩幅はズレることなく、景色が大きく変わることもなく、風も吹かぬその森を。

 彼は足早に、彼女はそれに追いつくため少し小走りで。

 今は昼か、今は夜かが、月は追いかけてくるだけで満ち欠けなどせず、時間の経過という概念が無いようなその空間を歩き続けると――

「――あれ、明るい……?」

 月光のような優しい光だけではなく、眩しい、それでいて安らぎとエネルギーを、恵みを齎す、太陽の光が。

 先程のような暗く空を隠してしまうほどの木々達ではなく、一本一本が高く空を目指していて、足元の草花にもその光が届くようにと、風に揺れて、澄み渡っていて、鳥のさえずる声が心地良くて、遠くで沢の流れるかすかな音がして、

「んん……どれくらい、あの迷いの森の中にいたのだろう」

 太陽が、眩しすぎて、

「ん……」

「タカラ?」

 空も、眩しくて、

「た、タカラ、だ、大丈夫?!」

「いや、少し、立ち眩みが……だい、じょう、ぶ」

 空を見上げた瞬間、突然目を刺すような熱い痛みを感じ、それが頭の中を通り抜け、体中の力が抜けて、眼が瞑りたくなって。

「、だよ」

 片膝をついて体勢を立て直そうと奮起しようとするが、何かが切れた音が頭に響き、それを聴いたら、全ての力が無となって、彼はゆっくりと、頭から地面にバッタリと倒れた。

「た、タカラぁ!? え、あ、あう、あ」

 魚々子の焦った、何をしていいか何が起きているか理解できない声が聞こえる。こだまする、いちいちエコーがかかる。頭が痛くなる。煩い。

 グラリと世界が歪んでいって、何もかもが虚ろ気に、朧気になっていって、気持ち悪い、もう何も、見たくない。

 目を閉じる。

 聞こえる。

 何かが聞こえる。

 足音。

 2つの、足音。

 辛うじて薄く眼を開ける。

 一方の足音は、魚々子で、駆け寄り、触れて良いのか分からないのか、彼の身体を弱々しい力で揺らしていて。

 一方の足音は、なんだか少し遠くの方で、魚々子の後ろの方で、その方向へ視線を送ると、黒のサロペットから伸びる脚、マントのようなオーバーを翻して、深く赤い瞳、薄いグリーンのショートヘアの少年が、騒然として叫んだのが、解った。

「どうかしましたか! 大丈夫ですか?!」

 そこで宝の意識は完全に途切れた。






 ――行けないよ、その世界の中には、絶対にね


 知っていた。


 そう、欲しいだけあげるよ

 君が全て持てるというのなら

 そう、欲しいだけもらうよ

 僕は全て、持てるから


 分かっていた。


 この世界は、全部素敵で出来ているのかも!


 そんなわけない。


 お互い唯一の家族みたいなものでもあったわ

 だから気付かなかったのかもしれない

 だから気付けなかったのかもしれない、お互いのことを


 気付けるわけがない。


 好きということに、証がいる?

 好きということに、証はいらないわ


 分からない。


 知っているわよね

 知っているはずよ


 知らない……


「………………」

 木の天井。ベッドの上。そよかぜ。光。覚醒した瞬間、感じ取った情報。

 ゆっくりと起き上がる。髪の毛が少し濡れている。瞬く。辺りを見渡す。

 大きく白い綺麗なシーツ。木の壁。何かの植物の絵。木のテーブル。絨毯。窓の外の木々、夕暮れ。足音。

「ん……?」

 ふと宝がとあることに気が付いた時、扉が開いた。

「にゃ……にゃー! タカラぁー!」

 開けて目が合った瞬間、手に持っていたものを落とし、宝の腹部に凄い勢いで突進してきた魚々子。

「うぐっ」

「あうあうあう、わー、うー、よ、よかったぁー! タカラ、生きてたぁー」

 涙を浮かべた顔でこちらを見上げる魚々子。見ると、黒いリボンがあしらわれている大きめの白い帽子を被っていない。白いリボンで三つ編みの、漆黒の2つの黒髪が揺れ、そして着ているのは真っ白いワンピースではなく、ふんわりとした黒のロマンチックワンピースに赤い実の絵柄が可愛らしい白いフリルエプロン、白く小さな足元は、ちょこんと付いたリボンが飾られたストラップシューズを履いていた。

「ああ、ごめんナナコ。心配かけたね」

 宝がそう言って、彼女の頭を撫でながら微笑むと、魚々子もつられてにへらと笑った。

「もー! 辛いなら辛いって言わなきゃ駄目だよ! 確かにね、なんか今日のタカラは爽やかさよりも根暗さが増しているなとか思ったよ! ナナコもちゃんと一声掛ければ良かったね! これからはお互い気をつけないとねー……うん」

 と、またシュンとした暗い顔になったので、

「これからは気をつけるね。心配してくれて、ありがとう」

 優しく言うと、

「うん、ならいいの!」

 明るい顔に戻った。

 直ぐに、子ども故に、稚拙に、純粋に、単純に。

 宝は少し目を細め、彼女に問いかける。

「それにしても、そんな可愛いお洋服をどうしたの?」

「あのねあのね、タカラを一緒に運んでくれた人がね、貸してくれたの」

「そう。ちゃんとお礼は言えた?」

「なんとなく言えたよ! 前のお洋服もね、お洗濯してくれているんだよ!」

「だからだろうね。……どうして僕は、何も着ていないんだろう……」

 顔を俯かせ、かなり沈んだ声で宝が言うと、魚々子は宝から離れて、先ほど落としたものを拾いに行き、クルッと一回転して言った。

「それはね、タカラのも全部、お洗濯中だからだよ! はい、このお洋服を、お洗濯が終わるまで貸してくれるって!」

 そしてそれらをベッドの上に置く。

「……ありがとう」

 緩々と着始める宝。魚々子は、なにやらテーブルの上に置いてある自分の肩掛けカバンの中を漁り始めていた。あの中はまるで異次元空間のようにぐちゃぐちゃなので少し心配になる。その中から白いノートパソコンを取り出し立ち上げ始める。何やら少し木クズがついている。何気に自分の無精さ加減を痛感する。

 真っ白な長袖のドレスシャツに袖を通す。クリスタル調釦の黒いボタンを上2つまで開け、スラリと伸びた足をシューカットラインの黒い生地が包み、リアルレザーの質感が光る黒い靴を履き、金色の髪を整える。

 彼女は白から黒へ、

 彼は、黒から白へ、

「タカラ……よく見られそうな接待とか、ほすとの人みたいだよ……」

「なにそれ」

 さっぱりと一気に衣替え。清潔感のほかに、どこかシックで落ち着いた上品な雰囲気が漂う。

 と、ドアがノックされる。宝がどうぞと言うと、失礼しますと見覚えのある少年が入室してくる。

「あ、お目覚めになられたんですね!」

 先程の記憶と違うところは、その小柄な体躯にはマントのようなオーバーを羽織っておらず、その代わりにサロペットの上にディープネイビーのエプロンを着て、頭には同色のバンダナを着用していた。常に、活発な印象を持たせる少年である。

「貴方が……」

「はい! 大事に至らず、良かったです! わ、お洋服もぴったりで良かったです! さぁ、お食事の支度が出来ていますので、こちらへどうぞ!」

「タカラ、行こ!」

「あ、ああ」

 魚々子に手を引っ張られ、少しフラつく足でその部屋を出ると、広いゆったりとした空間があった。

 大きな丸い木のテーブルとそれに見合った4つの木のイス、どこかの部屋へ続くと思われるドアが3つ、入口だと思われるドアが1つ、窓が一つ閉じていて、窓が一つ開いていて外の夕暮れを映していて、室内なのに木製のフラワーポットに色取り取りの背の低い花々が咲き、背の高い植物が部屋の隅に並べられ、本や紙の束がぎゅうぎゅうと所狭しと並んでいる本棚、小さな仕事机、木の壁には何かの動物の絵が幾つか掛けられていて、帽子やオーバーやコートも掛けられていて、少々大きめのかなり長めの小銃がいくつかと、それよりも小さな拳銃もいくつか壁に掛けられていた。

 テーブルの上には温かそうなスープやこんがりと焼きあがったパンや綺麗な色どりのサラダ、何らかの動物の肉が丸まる一つローストされていたりとテーブルの上を芳しい香りで埋め尽くしていた。

 1つのドアが開いたと思うと、先程の少年がこれまた木製のポットとカップをトレイに乗せて運んできた。そして、その一番入り口に近いイスに、1人の老人が座っていた。小さな眼鏡をかけ、たくさんの皺と白髪、そしてその深く赤い瞳から、かなりの老齢を感じさせる。そして手にするノミと木の欠片。ここにいるのは、この2人だけのようだ。

「おじいさん、おじいさん! 夕食ですからね、道具は締まってください。そして見てください、旅人さんが目を覚ましました! 海を見に来た、旅人さんです!」

 ポットなどを置き終え、少年がきらきらと両手でこちらを示す。老人は手を止め、手に持っていた道具を床に置いてあった箱の中に放りいれると、こちらをジロリと見た。魚々子もこの老人とは初対面らしく、ビクッとしたのだろうか、握りしめる力が少し強くなった様な気がした。

「ええっと、こんばんは。紹介が遅れました、僕は、宝船宝と申します。彼女はナナコです。まずは助けて頂いてありがとうございました。服やベッドなどを貸してくださり、誠に感謝の至りです」

 真摯な面持ちで言葉を並べ、頭を下げる。少年の方が少し驚いたような表情をして、老人の方を見る。2人の内のどちらかが反応するまで宝は顔を上げそうにない。

 少し沈黙が続いて、

「んん……」

 老人が唸るように応答した。それを聞くと、宝はゆっくりと体を上げた。そして、微笑んだ。それを見て、少年も笑顔になる。

「それでは、食事にしましょうか! タカラさん、ナナコさん、どうぞそちらのイスにお座りください! 遠慮しないでくださいね!」

 宝と魚々子がそれぞれの席に座ると、

「改めまして、自己紹介致します! 僕の名前はシダー、おじいさんの孫で、森番をやっています!」

「森番?」

「はい、森番です! 迷いの森を囲むこの森の中と、その周辺を担当しています! 主に、動植物の保護や捕獲、内の整備や美化、探査や排除、まあ言うなれば、森の管理ですね!」

 ハキハキと、気持ち良いくらいに溌剌と喋るシダー。魚々子より少し年上くらいか。

「生まれた時からですか」

「そうです!」

 そして老人と少年は食前の祈りを捧げる。それが終わると、皆でいただきますをして夕食が始まった。互いにいろんな話をし、宝達は今までの旅の話をした。

「はあ! あの迷いの森を抜けて来られたんですね! 凄いです、あそこはたまに、神隠しが起きたりするんですよ!」

「へえ、そうなんですか」

 魚々子はパンを頬張りながらチラリと宝を見やる。ニコニコとしていて、その言動から、あの迷いの森のことは公言しないようにと語っているようだった。まあ特に深く考えず、魚々子は先程から空いた皿に盛ったり空いた皿を片づけたりと忙しない少年へ話しかけた。

「ねえねえ、シダー君」

「わわ、そんな呼び方やめてくださいよ! シダーでいいです!」

「おお! じゃあシダー、もしかしてこの凄い量且つとっても美味しいご飯は、全てシダーが作ったの?」

「え? あ、はい、そうですよ! ここの家事は全て僕が担っています、おじいさんは足腰も悪いし、やはりここは若い僕が働くべきところでしょう! 森番の仕事も大変ですが、家事はとっても楽しいです! あ、ていうかお兄さん、そんなに細いんですから、もう少し食べないとまた倒れてしまいますよ。はいはい、どんどん入れますからねー」

「……ああー、どうも」

 そうかなあと思いながらシダーに肉を盛られる宝。確かにとても美味しいのだけれど、正直なところ、お腹は一杯。

 というかもともと、食欲なんてない(・・・・・・・)のだけれど。

 宝は肉を一口サイズに切りわけながら話題を切り出す。

「ところで、僕達はどうしても海に行きたいのですが、どのような順路で行けば、この森を早く抜けられますか?」

「なら、明日の朝一緒に見に行きましょうか、海」

 シダーが、割とあっさりと答えた。

「はい?」

 宝のフォークを動かす左手が止まる。

「あの周辺も僕らの担当なので、たまに、たまーに見に行くんです!」

「ええー!? ほんと!?」

「はい! いいですよね? おじいさん!」

「…………んん」

「わあ、いいそうですよ! やりましたね!」

「わーい!」

 きゃいきゃいと手を合わせるシダーと魚々子。

「え……あの、」

「タカラさん!」

「え、あ、はい」

 気後れする宝を正すように、シダーのキラキラした深く赤い瞳が、彼の青い瞳に視点を合わせた。

「つきましては、今晩は今日お使いになりましたお部屋にお泊りください! 明日の早朝に向かいますからね、頑張って早起きしてください! 少し寒いので羽織ってくださいね、朝食はその後に取ります、はい、決まりです!」

「はーい!」

「…………」

 なんだこの子。

 宝は何故か圧倒されてしまい、そのまま承諾した。


 ・


 ・


 ・


「どうぞお寛ぎなさってくださいね! それでは、おやすみなさい!」

 そう言ってシダーが扉を閉めた後、魚々子は頬を紅潮させて叫んだ。

「うわいやっほぉ! タカラ、とうとう来たね! 来たる日が、来てしまったね! うはあ……胸が高鳴るね……欣快に堪えないね!」

「彼の……不思議と不愉快には感じない何故か晴れやかな気持ちになるようなあの押してくる感じが何とも……」

「タカラ、天にも昇りそうなこの心境が解る?!」

「さあー……でも、海に行った後朝食を取るってことは、結構近くにあるのかな」

 宝はイスに座ってスケッチブックに鉛筆で何やら描いていた。少し右手の先が黒くなり始める。せっかく、湯船にも浸からせて貰ったが、彼は全く気にしない。此処は森の深奥のはずだが(しかも近くには迷いの森もある)、電気も火も通っている。湯は熱過ぎるくらいで、魚々子もかなり()だっているようだった。

 当の魚々子はベッドの上ではしゃいでいる。さらに彼女は、ゆったりとしたくるぶしまでのロング丈の、胸元にリボンのついたアイボリーホワイトのネグリジェを着ていた。何から何まで貸して頂き、本当に申し訳ない。

「ねえナナコ。『人魚姫』っていう童話を、君は知らないでしょう」

 不意に宝が口を切る。

「童話? 童話と言うと、子供のために作られたお話のことかな? そうだね、知らないね! というか、聞いたところ人魚を題材にしているっぽいけれど人魚を題材にしてどうするの? それに姫って……人魚はそんなに崇高な生き物なの?」

「はは、これはねナナコ、神話でもあり、お伽話でもあるんだ」

「お伽話ってことは、伝説ってこと? でも、ナナコは存在しているよ、普通に」

「そうだね、でもね、異世界では、人魚は伝説でもあり、当たり前の存在でもあり、そして存在しないこともある」

「なるほどなるほど、それぞれの世界で、見方が違うんだね! 面白~い!」

 無邪気だなあと、宝は思った。

「多分載っていると思うけどな」

 夕方からテーブルの上に置きっ放しであったノートパソコンへと手を伸ばすと、起動ボタンを押した。パッと立ちあがる白い画面。スリープモードであったのだ。2つの人差し指だけで鳴るゆっくりめのタイピング音の後、宝は魚々子を呼んだ。

「たまには自分から人魚に触れてみよう」

「お、おー!」

 今度は宝がベッドに座って手を動かし始め、魚々子がイスに座ってノートパソコンへと臨んだ。 


 童話

 『人魚姫』


 深き海の底

 珊瑚の城

 透き通る深い海の色の瞳

 薔薇色に染まる肌

 無垢な末の人魚姫


 空を映して眠る海へ

 夜が明けるまでに帰る


 夢にまで見ていた

 地上の天国


 静寂に包まれた世界


 星すら瞬かず

 波さえうねらず


 何も、ない


 海の景色が変わる


 稲光

 風が吹き

 波打つ海


 その中で揺らめく美貌の少年


 一目で生まれた

 溺れてゆく想いは

 深く儚く溢れる様に


 魔女の秘薬

 禁断の秘薬


 足は歩く度に痛み

 声も奏でられない


 その身を焦がしても

 最愛の人のもとへ


 末娘ではない花嫁

 既存の許嫁


 運命


 波間から現れた姉の人魚姫

 閃光の短剣


 真夜中の寝室

 眠る最愛の人


 別れの口づけ

 振り下ろす短剣


 流れる涙

 落ちる短剣


 別れの口づけ


 海に舞う身体

 溶けていく

 泡になる


 日の光 


 何もない晴れた空へ

 昇りゆく嘆きの人魚姫


 風を送るために

 差し出した両手


 深き空の底から

 水もない晴れた海へ


「はあああん!」

 なんだかよく解らないが突然魚々子が身悶えしだした。

「切なっ!」

「だろうね」

「タカラ、タカラ」

「ん?」

「切ないよ!」

「そうだね」

 少し小さな笑みを作るが、宝の視線はスケッチブックから離れない。大学の課題だろうか。一体、何を描いているのだろう。

「すごおい! こんなお話があるんだね、凄いね、こんなんと子供の時に出会えるなんて、もう奇跡でも何でもないよ!」

「ネットは、色んな世界と繋がっているからね」

「異世界とも?」

「そうかもね」

「ひゃあ」

 魂消る彼女はイスから飛び降りると、ベッドの上でさらに元気よく転げ回った。

「凄いなあ、異世界があるって、凄いなあ……明日海に行けば、もしかしたら本当に記憶が戻るかもしれない! そしたら、海の事とかー、この首輪のこともわかるかも! この首輪の解除法! 軽いけれど、なんだかやなんだよね! なんか、俄然テンション上がってきた! ねえ、海に行けば、タカラの願いも、叶うかもしれ、な、い…………――――タカラの、願い」

 ――それは。

「うん。頼むからね、ナナコ」

 ここからでは、声だけでは宝の表情が分からない。

「君が人魚だからこそ、それが可能なんだ」

 だからか、声だけでは、自分の表情も分からない。

「失敗、しないでね」

 何か小さく、頷いた気がする。

「まあ大丈夫だよ。別に、その人魚姫と同じ運命を辿るわけではないのだからさ」

 宝の願い。


 “――――僕を、水葬(ころ)しておくれ”


 殺す?

 タカラは、死にたいんだっけ?

 人魚だから、出来ること。

 人魚のように、失敗せずに、すること。

 宝船宝。

 自分に洋服を与えてくれた。

 自分に名前を与えてくれた。

 自分に自由を与えてくれた。

「タカラ……」

 命の恩人だから?

 だからその願いを、叶えさせたいの?

 それとも……でも。

「あの」

「ん?」

 宝は呼んでも、こっちを見てくれない。

「どうして」

 そこからの言葉が続かない。

 天井を見上げたまま、魚々子は瞬きもしない。

「ううん、なんでもないの」

 目を閉じた。

「寝るの。おやすみ」

「おやすみ」

 宝はテーブルの方へ動いたようだ。

 魚々子はゆっくりと、眠りに落ちていった。


 引き金は、腕の中で――?






 翌日。

「おぉ? タカラが後ろで1つ、ちょんって一つ縛りをしているよ? 似合うね、可愛いね! なになに? 本気モードかな?」

 いつもの服装に戻った宝と魚々子。

「いや……なんか、伸びたかなって」

 宝は後ろで小さく髪を一つ縛りしていた。魚々子はいつもどおり、黒いリボンがあしらわれている大きめの白い帽子を被っていた。そして真っ白いワンピース。その上に宝のローブを羽織っていた。

 いまだ太陽は昇っておらず。

「御二方! 準備は出来たでしょうか、万端でしょうか? そろそろ、出発しますよー」

 少々肌寒い中、シギーは昨日と同様、大きめのマントのようなオーバーを羽織っている。しかしそこから伸びる足は素肌で、寒くないのかと疑問符が上がるところであった。彼の祖父は、シギーと同様のオーバーを羽織っているが、足元まで見えないほど丈の長いものであった。そして古い杖で自らの身体を支えていた。

「はい、いつでも出れます」

「ナナコも、いつでも行けるよー!」

「あ、じゃあもう行っちゃいましょうか!」

「わーい!」

「…………」

 この子はしっかりと予定を立てる癖に、その先のことを考える前に、流れに乗ってしまうなあ。

 やはりまだまだ子供である。

「…………」

「あ、なんでしょう?」

 ふと老人がこちらを見つめている。

「タカラさーん、どうしましたー? どうかしましたー? あ! 身体の容体でも悪くなりましたかー!?」

「え、ほんとー!? タカラー、大丈夫ー!?」

 ちょっと遠くを、既に彼らは歩いていた。

「あ、ああ、わあ」

 気付かなかった。

「すみませーん、直ぐ行きまーす」

 そう叫ぶと、遠くの2人はまたゆっくりと歩き始めた。宝も2人を追うように一歩踏み出す。老人も一緒に歩き出す。

 だんだん小屋から離れていく。薄暗い森の中を、歩いて行く。

 2人には自然に追い付いた。

 相変わらず、魚々子は歩くのが遅い。歩くのが上手くない。シギーが何度も振り返る。

「な、ナナコさん、大丈夫ですか?」

「えう? うん、大丈夫! ただね、ナナコ、歩くのはちょっと苦手で……」

「なら、僕が手を引いて差し上げます! さあ行きましょう!」

 ギュッと手を繋ぎ、歩いて行くシギーと魚々子。少し風が出てきた。森は少しずつ開けてくる。空気がさらに澄み始める。

 道が少し傾く。上を見て登るように歩く。空も明るくなっていく。

 道がまた少し傾く。気をつけて歩く。鳥の囀りが聞こえる。

 道が下がっていくのを感じ始める。遠くにぽつぽつと巨大な大木、そして樹海が見える。

 さわさわと流れる川を渡る。魚が跳ねた。木が揺れる。

「……あれ、遠くない、かな?」

「そんなことないですよ! もうすぐです!」

 また、小高い丘が目の前にあった。周りに木々はない。森を抜けたようだ。光が漏れている。太陽が昇ったようだ。

「ほら、この丘を越えれば、海です!」

「わあ、わあ、わあ!」

 森番の少年に手を引かれ、真っ白なワンピースを翻して、覚束無い足取りで走っていく人魚の少女。

 それを見ながら、宝船宝は、かつての自分と、彼女を重ね合わせた。

 ――その先には、希望よりも多い絶望が、あった。

「そう、海はあった」

 宝の横を歩く森番の老人が呪文のように低い声で言った。

「あったんじゃ」

 宝が視線を丘の頂上に見やると、そこに、立ち尽くしている少年少女がいた。

 青年と老人も彼らに追いつく。

 そこに広がっていたのは。

「海が、ない」

 少年が唖然と呟いた。

「そう、海はあった。だが、もうない。枯れた」

 老人は当然と、言った。

「…………」

 青年は泰然と目線を彼女へ送る。

「……ぁあ」

 少女は自然に、涙を流した。

 目の前には、海が広がっているはずだった。

 何もない、壮大に晴れた大地と、爽快に晴れた空だった。

 茫漠たる原野。

 太陽が、眩しかった。

 静かな静かな、地上。

 夢にまで見ていた地上。

「お、おじいさん……これはどういう」

「人魚じゃ」

 その言葉に、宝も魚々子も鼓動が少し速まった。

「人魚がやった。ワシは見た」

 少し下を見て、老人は言葉を続ける。

「数ヶ月前、白い女の人魚が、この海にいた。人魚は海を、水を操れる。海中最強じゃ。広い海でさえ、消すことの出来る、水で一国を滅ぼせるほどの、滅ぼしたほどの、恐ろしい輩……もっとも、最近は見んかった」

 少し冷たい風が肌を撫でた。

「この海の水は、どこへ行ってしまったんじゃ」

 と、老人がまたも呟くと、

「う、うおおおおおじいさん! ……ちょっと! これは、調査行きますよ! 一大事です! タカラさん、ナナコさん、少々お待ちになっててくださいね! おじいさんも、早く来てくださいね! え? ええ? ……わー!」

 なぜか唐突に叫びながら、丘から飛び降りる様に砂浜に降りると、シギーは大地を走って行った。

 海があったという。

 かなり遠くまで行き、きょろきょろと見回し、たまにしゃがみ、調査、をしているのが遠くのこの場所からでも窺えた。

「人魚の乱獲」

 老人は歩きだす。

「海の消失」

 老人はどんどん離れていく。

「なにか、あったんかの」

 その場で、立ち尽くす宝と魚々子。風で、少し砂が舞う。遠くで2つの影が、1つは俊敏に、1つはゆっくりと動いている。

「人魚が、やったって」

「…………」

「ナナコの記憶は喪失しているよ」

「……」

「まさか、ナナコじゃないよね? ナナコ、知らないもん。覚えて、ないもん……」

「……」

「人魚は、怖いもの……? お伽話みたいになるの? 海を、消すなんて……」

「ナナコ」

「うう」

 次の瞬間。

「うわ、ああ、ああああああ、ああ」

 両目から大量の大粒の涙を零して、

「た、タカラの、どうしてかわから、ないけれど、宝、が、どうしても、き、来たかったのに、海、なくなっ、ちゃった……ひ、ご、ごめん、ね」

 直ぐに、子ども故に、稚拙に、単純に、純粋に。

 けれども静かに、彼女は泣いて、謝った。

 静まり返った大地に少し、こだました。

「どうしてナナコが謝るの?」

 水のない晴れた海へ、辿り着いた白い人魚。

 何かを手にいれるために、何かを手放す両手。

 たった一つの願いをかなえるためだけの旅。

 ただただ泣く魚々子を無言で見つめる宝は、

「ふぇ……」

「はーいナナコさーん、泣かない」

「ふぇ?!」

 しゃがんで、濡れる魚々子の両頬を両腕でガシッと包むというか潰すようにムニュムニュする宝。

 咄嗟の事に、魚々子は驚きを隠せない。

「別にね、僕は海を知らないわけじゃないんだよ、ただ行った事が無いだけでね。海はね、この世界を包むように存在するんだ。どんなものでも、偉大な海には勝てないんだよ? だからね、今ここに海がないからって、全ての海が消えたわけじゃない」

「……そーなの?」

「そうだよ」

 魚々子から優しく両手を離し、

「確かに君と出会ったのは数ヶ月前だけれど、確かに君が僕と出会う前に何処に居たかは分からないけれど、確かに君は人魚で、今ここにあるはずの海はなくなったけれど……でも君は、水を操れない(・・・・・・)じゃないか(・・・・・)

「そーだけど……」

「それに、真っ白な人魚だよ? まず君は、髪色が正反対じゃないか」

「うん……」

「君がいつから記憶を失っていたかは分からないけれど、どう考えても君は海を消そうなんて思わない、そうじゃない?」

「うう……そうだね」

 正論のようにしか聞こえない宝の発言に、魚々子はただただ首を縦に振るだけである。

「君はまだ若いんだからさ、早く記憶を取り戻すために、次の海を探しに行こうよ」

「タカラも若い方だと思うけれど」

「全く、あれほど海に行きたがっていたじゃない」

「タカラもね」

「おかしいな、僕はそんな素振りはあまり見せていなかった気がするけれどな」

「そうかなあ?」

「そうだよ」

「うふふ」

 と。

 魚々子は、笑った。

「ねえタカラ、1つ聞きたいんだ」

「何?」

 あまり色の無い声で、宝は、沖の方へゆっくり歩き始めた。遠くの2つの影が、こちらに向かってくるのが揺らめいて見える。魚々子も、それについて行こうと、足を動かした。

「宝はどうして、何もしていないのに、あの人魚姫と同じように、誰かを置いて、海の中へ、空へ、行こうとするの?」

「んー」

「まだ、若いのに」

「んー」

 珍しく年相応でない落ち着いた声で聞かれたその質問に、宝はただただ相槌を打つのみで。

 いつもと違う、けれどもいつもと同じの、その歩く姿がとても、いいなあ、と魚々子は思って。

「ねえ、なんでなの?」

 ぴょんっと、宝の右手に抱きついて、

「まあ」

 そのまま手を繋いで、

「若気の至りじゃない?」

「ええー?」

 答えになっていないよと、魚々子は笑った。







「まず、これは地図です! 反対側と言うか、もうひとつの海は、この地図の目印の辺りを通って行けば近道ですよ! 多分線路が走っていると思います!」

「なるほど、ありがとうございます」

「そして、これは今日のお昼です! 今日中に食べてくださいね!」

「どうも、ありがとうございます」

「そうそう、少し寒い地域を通るので、この毛皮で編みこまれたオーバーも持っていってください! 肌触りもとてもいいですよ!」

「……何から何まで、どうも、ありがとうございます」

 朝食を取り、すぐに出発すると言うや否や、たくさんの品を持たされ、遠路が予測される次の旅の準備がほぼ整った宝と魚々子。小屋の前で、シギーと老人は見送ってくれるようだ。

「ほら、ナナコもちゃんと、お礼を言って。なんとなくじゃダメだよ」

「うう……」

 まだビクビクしている魚々子だが、おずおずと前に出て、背筋を伸ばし、

「お、お洋服を貸してくださって、あと、一晩泊めていただき、ありがとうございました!」

 しっかりと、大きな声で、感謝の気持ちを述べられた。

「また、あんな可愛いお洋服着たいです!」

「ん」

 と、老人は魚々子の頭を優しく撫でた。前にも言ったと思うが、魚々子は優しくされればすぐにその人を信じるので、それで魚々子の警戒が緩くなったのか、

「あの、あのお洋服は、誰のものなんですか? シギーの、妹さんか、お姉さんのですか?」

「え?」

 それを聞いたシギーが、きょとんとした顔をしていた。そして老人がまた重く口を開いた。

「シギーは一人っ子じゃ」

「え? じゃああれは」

「あれは全てシギーの物じゃが」

「「え?」」

 魚々子と宝は瞬発的にシギーを見た。シギーは何か言いたげそうな顔をしていた。

「しかし孫娘は……どれも着ん。悲しい」

「あ、当たり前です! あのお洋服は確かに可愛いですが、すぐに身動きが取れません! 森番としては、身の置き所がありませんよ!」

「「ええ?」」

 魚々子も宝も茫然とするのみだった。そして心の中で、色んな人が、色々勘違いしていたことをシギーに謝った。人は見た目だけでは、わからない。

「そうだ、ナナコさん!」

 シギーがクルリと魚々子の方を振り向く。そして言う。

「僕は生まれてから、ずっと森番として生きていましたから、外から来た人への対応の仕方や、配慮などに気を配る事が出来ず、様々なご迷惑をおかけしたと思います。もうあまりいませんからね、この手の人種は。でも久しぶりに、年の近い方とお話しする事が出来てとっても楽しかったんです! またいつか、絶対遊びに来てくださいね!」

 ナナコの手をぎゅっと握りしめた。

「いつかまた、お会いしましょう!」

 元気に真っ直ぐ、そんな彼女を見て、魚々子も微笑んだ。

「うん! また会おうね、シギー!」

 そんな微笑ましい、再開の約束をしている彼女たちを背に、不意に宝が、老人の耳元で囁いた。

「あの……さきほど、海で、人魚が一国を滅ぼしたと言っていましたが……どこでそのお話を? その国は、どこですか?」

「その国の近くに巨大な公園があっての」

「はい?」

「その公園を管理しとるという木偶息子が、メールで知らせてきた。その数ヶ月前に、海がなくなった日に、その国が滅んだと。その国の王は死んだと。王には息子がいたと。しかしその息子も行方不明だと」

「……」

 おかしいな。

 宝は思考する。

 日数が合わない。

 おかしいな。

 誰か、邪魔をしている人でもいるのかな?

「どこの国かは知らん」

 老人は、瞬きする。深紅の瞳が揺れる。

「そうですか、どうも、ありがとうございました。いろいろお世話になりました。それでは」

 青年と、人魚の少女は、老人と、少女の森番に、別れを告げた。


 別れ。


 旅をしているのだから、たくさんの別れがある。

 たくさんの出会いもあった。


 僕の旅の最期は延期された。

 それはかなりの誤算だった。


 が、まあ。

 そんな余興もいいだろう。


 異世界で誰かが色々準備をしているみたいだけれど、

 あの子のいない、これからの日々に、世界に優しくなれるように。


 引き金は、腕の中で。


 青年は、宝石のような人魚の少女と、

 さらなる海を、目指す。




 読了お疲れ様でした。

 この歌は……もう、なんていうか、綺麗ですよね……。

 切ないというよりは儚いというか。

 深くはなく、何か薄っすらと心に語りかけてくるものがあります。

 童話のような歌詞がすぐに脳内でイメージできるのも魅力の一つだと思います。


 私事ですが朗報で、

 GARNET CROW Special Fanclub Event 2012

 の当選葉書が来ました。


 ぶっちゃけると、大阪公演です。

 超楽しみです。


 サイトで拝見しました

 新曲の『Nostalgia』は

 七さんがいつも以上にお美しくて、

 おかもっちが、相変わらず肌白くて、また髪どしたって感じでした(笑)


 GARNET CROW livescope 2012 ~the tales of memories~は

 ゆりっぺが白雪姫みたいでとにかく綺麗でした。

 彼女の美しさは、神秘の極みです。

 なーに言っているんだかさっぱり不明ですね。


 はあ。

 とりあえず、

 今月は楽しみがいっぱいです。


 それでは、また。



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