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 この後の話には全く出てこない新キャラが7人ほど出てきますが、

 2期や3期の方で主人公する人たちがほとんどです。

 そうです。

 これ、1期の話です。

 ご迷惑を、お掛け致します。




 「誰もがあるがままに、愛せたらいいのにね」


 切なくなるけれど耐えてゆける

 うまく出来たプログラム


 「使いこなしてゆかなくちゃ損でしょう?」


 不幸の始まりは愛し合った瞬間

 あの時点からすでに始まったのかもしれない


 「変わることと、変わらないこと――どっちが大切だと思う?」


 愛が、消費してゆく……――






「だからてめえは会って早々師匠にベタベタくっつくんじゃねーよこの犬! 迷惑極まりないって顔してんだろ気付けよ離れろよ!」

「うるさいなぁ……べつに、宝船宝は嫌がってないしぃ。なんなの? 久しぶりに会えたんだから、ほうようくらいあたり前でしょ。むしろ、あたいにほうようされて嬉しいと思うよ。気付けよ、猿が」

「だ~か~ら~、俺のことを猿って呼ぶんじゃねーよ! 何回言ったら解んだてめえ!」

「だってあたいら、犬猿の仲って呼ばれてんだろ? あたいが犬なら、猿が猿だ、きゃはははは!」

「……てめえとはそろそろ色々決着すべきだな……まあてめえが俺に負けることは前から決まっていることだがな!」

「2人共、呼び出しくらって来てみたら相変わらず突然ですね。人数集まるか知りませんが、僕としてはそろそろ行きたいんですけど」

 少々疲れ顔の宝船宝は、その紅い目を眠そうに瞬かせ、目の前の2人の諍いに終止符を打とうとしていた。

 1人は宝よりも遥かに背が高く、日に妬け鍛え上げられ引き締まった筋肉質な身体、長い栗毛の髪を1つに縛り、頬の刺青、鋭いミスティーグリーンの瞳をメラメラと燃やしながら高飛車に口を任せる、まるで武闘家の様な若い青年。

 1人は宝よりも遥かに背が低く、まだ未発達とも言い難い細過ぎる四肢を包むのは薄いシャツ1枚にクラッシュデニムショートパンツのみ、しかし思いっきり露出しているかと思えばそうではなく、顔に至るまで肌の部分はほとんどが白い包帯や様々な絆創膏に覆われていて、左手には鎖の拘束具、そして首には銀色の錆びついた鎖付きの首輪とまるで奴隷のような外見の少女だが、紅い瞳をクリクリ動かし、床につきそうな程のハネッ毛茶髪の長い髪の上には猫耳付きの黒い帽子、とてもとても楽しそうに笑みを浮かべていた。

「フォーさん、ナナちゃん、わかりますか? 早く行かないと、会議が始まってしまうんですよ?」

「おおっと師匠、いくら俺の方が師匠より年上だからと言って、師匠が俺に敬語を使うことはないぜ! さん付けは勘弁してくれよな!」

 と、前者の青年、フォーと呼ばれた彼は急に真面目な顔付きになって宝に雑に懇願する。すると、今度は後者の少女、ナナと呼ばれた少女が宝の腕にしがみ付いて言った。

「あたいは全然、もー何て呼ばれたってかまわないけれどねー。ほんとの名前が無い前に、記憶もねーし! ねえねえ宝船宝、呼び出しはサボってさぁ、あたいの世界に遊びにおいでよー」

「てめえ犬! だからくっついてんじゃねー!」

「あの……2人とも……」

 この2人は今まで出会ってきた人たちの中でも上位を争うほどに声が大きく五月蠅い。頭が痛くなってきた。

 少し頭がクラクラしてきたなと思った時。

「おー、相変わらずモテモテだね、たか君は。自分的には自分の弟子の出来が良いって感じがしてちょっと嬉しいかも」

 白い杖をコツンコツンと床につきながら微笑んでいる、けれどもその長いすみれ色の前髪でしっかりとした表情は分からず、ただ若いということだけは分かり、どこか貫禄のある和服の男性が歩いてくる。

「…………」

「あ! 師匠の師匠!」

 宝が在学しているリリィ・ホワイト学院付属景彩(けいさい)美術大学の理事長にして彼の絵の師。

「やほうフォー君、元気だねー」

大河(たいが)・リリィ・ホワイト! わーい、会いたかったよー」

「おっと、ナナちゃんも、元気だねー」

「犬、お前な……ほんと金持ち好きだなお前」

「はやくお部屋いこうよー、きゃはははは!」

 フォーをほぼ総無視で呵呵大笑する少女は、大河と呼ばれたその男性を引っ張ってすぐそこの部屋の扉を開けて中へ入っていく。

「ったくアイツは……行こうぜ、師匠」

 その2人に続いてフォーがその部屋に入っていく。宝も続いて入った。

「ぎゃー!」

 入って早々、フォーの叫び声が聞こえたと思ったら、銀色の瞳、スノーゴールドの髪、白い肌に映えるノルディックブルーのシスター服に身を包んだ清楚そうな女性に彼は押し倒されていた。

「あらぁ~? あらあら、私めとしたことが、宝さんとフォー君を間違えてしまいましたわ~、てへっ」

「てへっじゃねーっよ! 間違えねーよ! 宝石師、お前絶対こうなるってわかってただろ!」

 表情は相変わらずのニヤリ顔で、小さいが凛とした雰囲気で、一見ビスク・ドールのような宝石師の彼女は、フォーを見下ろしながら乾いた笑いを繰り出す。

「あはははははははは。ざまあ」

「止めろよこのやろー! そんでアマハ、とっととどけ!」

「え~?」

 宝は無言で扉を閉めると、すぐに視線を右斜めに動かした。どうしても、それは、とても目に付く者だったから。

 大きな、そう言うなれば熊の様な図体の、超巨大な人間が、戯れるフォーやアマハの前に立っていた。立っているだけだが、それだけでかなりの圧迫感を感じた。

 青い髪が入り混じった黒髪を上の方で纏め、ミスティシルバーの瞳を瞬かせ、腰に帯刀しているのは黒い鞘、普通の身長ならば細身に見えるが、その2メートルは優に超えている超巨体を包む衣服も子供が幾人か入りそうなほどの大きさだった。

「こんにちは、カンザキさん」

 宝が緩やかにその巨大人間を見上げて挨拶をすると、

「ん、おお、貴殿ですか」

 優しい、穏やかな声でこちらを見下ろすのは、カンザキと呼ばれた、温厚な笑みを浮かべた青年の顔。宝とそう変わらなそうなその若く整った横顔と、古風な出で立ち、ミスティブルーの瞳。

「久方振りですね。確か――宝船宝君、貴殿が大きく羽目を外して以来ですね」

 しかし何か、その落ち着いた言動には早熟な、どこか大人びたような違和感があった。

「その節は、どうも」

 宝は見上げることをやめ、目の前へと視線を動かした。辛うじて抜け出したのか、ヨロヨロとこちらへ向かってくるフォーがいた。

「よ、よお、英雄(えいゆう)。鍛え、てっか……」

「フォー・トウス君。はい、やはり歳には勝てませんが、精進しています。えっと……現今も、彼女とは仲睦まじいですね」

「フォローとか要らねえよ……ただの幼馴染だよ……ほんとアイツ昔から変わらねえよ……」

「涙無しには語れないって表情ですね、フォーさん」

「おっと師匠? だからさん付けはやめろって! 照れんだろうが!」

 何が? と、宝とカンザキは頭上に?マークを浮かべた。

「まさかお前が師匠の師匠より10は下とか、誰もわかんねーって!」

「フォー・トウス君は、照れると話が唐突に変わるのでしょうか」

 と、カンザキの目が自然に扉の方に向いた。

 直後に、扉を叩く音。

 そしてその扉が開いたかと思うと、左目にモノクルをした茶髪に金色の瞳、無表情な、一見使用人風の青年が、音もせずに入ってくると、

「どうぞ、お嬢様」

 と、無感情に言った。

「あ、ありがとうございます」

 少しして、そんな、オドオドした感じの幼い少女の声が聞こえたが、誰かが扉に入ってきたような気配はない。

「それでは失礼いたします」

 そう言ってその使用人風の青年は扉を閉めて出て行ったのだが。宝は目を擦りもう一度目をよく凝らしてみるが、その、今は言ってきた人物の姿を捉えることが出来ない。

 困ったなぁ。ちょっと気になったことがあったから聞こうと思ったんだけれど……。

 その時である。

「おや、リースティアじゃないですか!」

 大きな声。カンザキの声だった。突然大きな声を出すので、その場にいたほとんどの者が肩を震えさせたが、宝はその言葉を聞き、安心した。息を整えてそちらの方を向くと、見たかった人物が、やっと(・・・)存在していた(・・・・・・)

 艶のある白亜の長い髪、ミスティブルーの瞳、清楚で可憐、11歳という若さの彼女は、上品な白いドレスに身を包み、涼しげで透明な佇まいでカンゼキの前に立っていた。

「うわ! ……びくった、なんだ魚の嬢ちゃんか……」

「ぁ……」

 フォーが露骨に吃驚すると、リースティアと呼ばれた少女の顔が少し曇る。宝はすかさず彼女の元へ向かった。

「カンザキさん、いつも、ありがとうございます」

「いえ」

 なんの感謝か不明だが、宝は一言カンザキにそう言うと、小さな彼女の方へと向き合う。

「やあ、リースティア。調子はどうかな」

「ぁ……っ、はい。大変、い、いです」

 鈴の鳴ったようなたどたどしい小さな声で、少々恐々と、けれども一生懸命に、まるで体のすべてを使って話すかのように。

「まあリースティアちゃん、幾日ぶりですわね~」

 そこへシスター・アマハが来る。腰を低くして、リースティアの頭を優しく撫でて、微笑みかけた。

「アマハ、お姉様……」

「はい。シスターの、アマハさんですよ~」

 小さな彼女に少し明るい笑みが戻ったのを見て、宝はカンザキに話しかけた。

「そういえばカンザキさん、僕今まで迷いの森にいたんですが、時計ウサギさんとチェシャ猫さんが、アリスさんという方を探していましたよ」

「……! 困りましたね……だからあの2人には何度も言っているのです。彼女たちが捜しているのは私ではなく、私の祖父だということを」

「そうなんですか」

「そうなんです。……私の瞳も、祖父と同じミスティブルーですからね」

 視線の合わない会話の外、ダダダダダと凄い音と勢いでナナと呼ばれる少女が走って来たかと思うと、アクロバティックに宙へ舞い、そしてリースティアの真後ろに着地すると、さらに勢いよく肩を組んだ。

「おー! ちっちぇ金持ちじゃーん!」

「はぅ!?」

「やっと見えたやっと見えた! あ、金持ちじゃねーけど頭撫でてくれるねーちゃんもいる!」

「ナナちゃんは今日も元気で、良いことですわね、かいぐりかいぐり~」

「きゃははは! きっもちー!」

 和やかな時間が続く中、ふとフォーが口を切る。

「つーかよ、猫のおっさんと、あのムカつくヤローが来てねえけど、今日はこれだけなのか?」

 フォーの言葉を聞き、宝は部屋の中を見回してみる。広い、けれども窓など一つもないこの空間にあるのは、大きくシンプルなドーナツ型の、白いテーブルクロスのかかったミーティングテーブル、それに合わせて等間隔に並べられた12のシンプルな椅子。それとその輪から外れたところに、同じデザインの椅子が幾つか。それだけの部屋。照明など一つとしてないのに、妙に仄明るい部屋。扉側にいるのは6人、すでに椅子に座っているのは3人、あちら側の壁に寄りかかっているのは1人。輪から外れた椅子の内の1つに座っている宝石師を除けば、あと2人。

「フォーさん、ムカつくヤローって、誰です?」

「あ、勿論、師匠じゃないぜ! アイツだよ、アイツ」

「フォー・トウス君。それだけじゃあ、一体全体、誰だか分からないよ」

「だから、だ~か~ら~、あんのムカつくすかした野郎の」

「身共かい?」

 一瞬。

 ――――え?。

 その時、宝は一瞬、空気が凍ったような感覚に陥った。

 この声は――。

 この感覚と、雰囲気は――

 ――――まさか、そんなはずは。

 扉を開けて入ってきたのは、真っ白な、真っ白な――

「やあ」

 白い肌、白い髪。

 と対照的な、黒いロングシャツ、細い肩、アームウォーマーも黒、不規則に配置されたストラップベルト、カーゴパンツ、グレーのワークキャップ、左右非対称の無造作なスタイル。

 漆黒の瞳の、世界最高の魔法使い。

 皆一様に、目を見開いた。

 と、1人の青年がズカズカとその小柄な女性の行き先を阻み叫ぶ。

「うわてんめー、クルシマ・シルク! また性懲りもなく俺の目の前に現れたな!」

「ん? ああ、そうだね」

「前から決まっていることだが、師匠の一番弟子は、この俺だからな!」

「はいはい」

 ほぼ彼をスルーのノリで、シルクと呼ばれた妙齢な女性は、宝の前に歩み寄った。

「こんにちは、お師匠(ジュエル)様」

「だから、その呼び名はやめてくださいって」

「ふふ、相変わらずだねえ」

「貴方こそ、なんです? その格好。スクリュウさんみたいですね」

「格好良いだろ? 実は今旅行中で、ちょっと人に服を借りていてね、というか服を借りることが楽しくなっちゃってね、現在約6日目なんだけど、今日借りたこの服が一番、格好良いかも。たまには若い格好もいいもんだね」

「ほんと、相変わらず、信念を簡単に曲げる人ですね」

「妥協と言ってほしいね」

「…………」

「なんだよお師匠様。まるで、なんでこんなと(・・・・・・・)ころにいるんだ(・・・・・・・)?みたいな表情じゃないかね」

「……そうですか?」

「ああ。まるで、身共が出られる(・・・・・・・)はずのないところか(・・・・・・・・・)ら出てきていて(・・・・・・・)、驚いているようだよ」

「…………」

「さ、席に着こうじゃないか。そろそろ時間だろう」

 彼女がそう落ち着いた声で言うと、立っていたすべての者がまばらにテーブルへと近づく。

「クルシマ・シルクさん、またえらく、サイズの合わない服ですね」

「そこがいいだろう? まあ汝にはまだまだ、小さい方だがね」

 カンザキの問いかけに、シルクは悠々閑閑と答える。その近くで、小さな儚い透明な少女はというと、何か尊敬の念を抱いたキラキラとした眼差しで彼女のことを見上げていた。

「………………」

 宝は自分の椅子に向かいながら、シルクをじっと見ていた。

 ――――まさか、そんな。

 もう幾人かが、そのテーブル席に腰を下ろしていた。その内の一人は、大河・リリィ・ホワイト。我が師であり、そして、河魚(かな)の――。

 その時。

「どーも皆さーん、かーみさまでーすよー」

 突然、若い少女の声が、その空間に響く。

「出席を取りまーす」

 その声の主はどこにいるかわからず、ただただ声だけが。

空色の猫(ラズライトキャット)――あ、間違えた。えーっと、柑橘の亀(クォーツタートル)がいて――」

 声だけが、支配を行っていた。

無垢の魚アクロアイトフィッシュ――エドワード・リースティア」

 消えかかるような声で、少女は「はい」と返事をした。

青蓮の熊(ベルベッティベア)――アリス・カンザキ」

 気の抜けたような声で、英雄は「はい」と返事をした。

震緑の蛇(ペリドットスネイク)――フォー・トウス」

 自信に満ちた挑発声で、青年は「おう」と返事をした。

血染の犬(ルビードッグ)――名無し」

 妙に明るい変調な声で、少女は「あーい」と返事をした。

鮮明の蝶ムーンストーンバタフライ――シスター・アマハ」

 ゆったりほんわか声で、彼女は「は~い」と返事をした。

緑玉の狐(エメラルドフォックス)――神藤戌威」

 沈着冷静且冷めた声で、彼は「はい」と返事をした。

白亜の兎(ダイヤモンドラビット)――クルシマ・シルク」

 落ち着いた綺麗な声で、魔女は「はい」と返事をした。

桜花の龍(コーラルドラゴン)――スクリュウ」

 淡々とした悠長な声で、少年は「りい」と返事をした。

紫水の虎(アメジストタイガー)――大河・リリィ・ホワイト……で、ラスト」

 矍鑠とした心若い声で、老人は「いるよ」と返事をし、そして。

深紅の鴉(ガーネットクロウ)――宝船宝」

 色の無い無調子な声で、青年は「はい」と返事をした。

「それではこれより、12人の魔法使い+αで、異世界会議を執り行いまーす!」

 少女の声は、高らかに。






「おや、これはこれは、クルシマ・シルク様のペットであらせられる黒子猫の稀生様ではございませんか。斯様な場所で一体全体何をしていらっしゃるのですか?」

「阿呆か執事お前、魔法使い以外はあの部屋に入れないからな、ただの待ちぼうけだ。それとボクはペットじゃない、使い魔だ!」

「左様ですか。申し訳ございません、そのような風貌に全く見えなかったものでして……なんせ、崇高で可憐なお嬢様自余の皆々様は、恐れながら存在根拠が全く無いものと常に思っております故」

「お前相変わらず辛いな」

 その宝達が入っていった部屋の前で、その執事の男と猫のような少年が対峙している。前者はほとんどがもうどうでもいいみたいな興味のない澄ました顔で少年を見下ろし、後者は少し機嫌の悪そうな顔で男を見上げていた。

「まあ待ちぼうけというのはいつものことでございますが……」

 2人して、部屋とは反対の方を向く。

「なんだお前、どいつに付いてきたんだ」

 稀生が話しかけた相手は対峙していた執事風の若い男ではなく、そこでふよふよ浮いている小さな少女だった。

 彼女は、黄金色のふわふわの長い髪とエメラルドの瞳、そして透明な羽を持っていた。

「ほう……妖精ですか。我が主であるお嬢様の世界には斯様な生体は存在しない上、初見でございます」

「はん! ボクは何回か見たことがあるぞ、ボクの方が先輩だな!」

 約男の手のひらサイズ、身体中にリボンの様な細い布を纏い、つりあがった両目で2人を凝視している。少しして、高く震える声で、彼女は答えた。

「り、リュウよ。桜花の龍の」

「ああ」

「へえ」

 2人の反応の薄い返事を聞いた後、

「ねえ、なんで私たちはこの中に入れないの? ていうかなんなの、呼び出しくらったとか言ってたけど、私全然わからないのだけれど?!」

「妖精が五月蠅い」

「煩瑣で無知な妖精でございますね。しかし申し訳ございません。女性からの要請である上、私は全ての問いにお応えできる気力や知識も恐れながら持ち合わせておりますが、生憎私の全ての行動はお嬢様のためだけに用立てようと決心した所存でございますので」

「ダブルで迷惑がられた?!」

 この2人、かなり距離を持って立っているうえ先程から喧嘩腰な長広舌だったのに、妙に同じようなタイプだと彼女は感じた。

「と、とりあえず自己紹介をしなさい! 名前がわからないのはなんだか嫌だわ!」

「はあ? 自分から名乗れよ」

「…………」

「執事の方は無視か!? うう……私の名前は、アカリナーテ」

「ボクは稀生。白亜の兎の使い魔だ! へへん」

「はあ……私は、無垢の魚にお仕えしております、ロードナイトと申す者にございます」

「で、この部屋の中には何が起きているのよ?!」

「ばとるろわいやる」

「まじで!?」

「まあ、ある意味そうとも取れます。さて、この部屋の中には12人の魔法使い様方、そして魔法使いしか入れないはずの部屋に、何故か今日は12人の魔法使いの証の要であります宝石を創られた祝福の宝石師であらせられますアンジェリーク・フォン・ブラウン=カルゼン=ブラッカー様が出席しておられました。ゲストでしょうかね。一体全体、あの皮肉屋で腹の中はドス黒そうなフリル野郎が何の間違いか麗しのお嬢様と同席するとはどういうことでしょうか……。ということでこの12人、極めて稀に13、4人で、不定期に異世界会議というものを開くのです。異世界同士、やはりバランスというものが存在するらしく、互いに管理する世界の状況や軌跡、情報交換、互いの世界への干渉、支援、様々でございます。そんな斯様に凄絶な場所で、お嬢様は大変な不屈の精神で奮闘されていて……ご理解いただけましたでしょうか、能無しの妖精アカリナーテ様、そして自称使い魔・ペットの稀生様」

「「すごい喋った?!」」

 2人で聞いて、驚いた。辛い発言はスルーし、2人して身震いする。そしてロードナイトと名乗った使用人風の青年は、再度口を開いた。

 やはり、無調子で、無感情に、無表情に。

「そして、それを仕切るのが、何故でしょう、それらをお創りになった、神様らしいですよ」

「…………か、は、はぁー!?」


 ・


 ・


 ・


 けたたましい少女の声がドアの外から聞こえる。

「可愛い女の子の声が聞こえてきますわね~」

「だれのこえだよー?」

「桜花の龍が連れてきた子、だろう?」

「り」

 クルシマ・シルクの問いにそう一文字だけ答えたのは、桜花の龍と呼ばれた一見少女のようなかなり整った顔つきの、紅い瞳、伸びた薄い赤髪、首にマフラーを巻いた長身の美少年。ボーっとした視線でこちらを見据えている。

「お前が何かとつるむとか想像できねーな」

「いあ?」

「相変わらず何を言っているかわからないところが面白可愛いですわ~」

 アマハが生き生きと言う。

「誰かしらを連れてくるとか、理解出来ねーな。俺も、俺の弟子がこの会議に連れてけ連れてけっつーけど絶対ぇ連れてこねーわ」

「あー、フォー君弟子取ったんだよねえ、凄いねえ、さすが才気煥発、色々優秀だもんね。師匠の教えが良かったんだね。成る程、自分から見ればそのフォー君の弟子は、自分の弟子の弟子の弟子ってことだね」

「うわわわわ、師匠の師匠! そんな大したこと、いや、師匠の教え方はマジすげえけど、なんか弟子とか勝手に持って調子に乗って済まねえ!」

 あたふたと、フォーは丁度向かい側に座る大河とその隣に座っている宝に叫んだ。

「いやそんな……フォーさんは弟子を持って当然ですって」

「うおう、師匠から有難き言葉を貰った……」

「フォー・トウス君は、本当に面白い方ですね」

 カンザキの穏やかな声が続いた後、見えない主の声が響く。

「ちょいちょい、雑談してないで、会議すーるーよー!」

 その一言で、ざわついていた部屋が一気に静かになる。

「うん、静かになった。やっぱり、場の支配って気持ちいーね!」

 そして何か、幾重の紙を漁るような音がした。

「まあ今回の招集は色々喋りたいことあるけれどまあ一番はあれだね」

 3秒のラグタイム。

「空色の猫――ウタウ・ワンダーランドがお亡くなりになったよ」

「……! !!!!!?」

 最初、ざわつく中、ただ一人、ナナと呼ばれる小さな少女が、獣のような音で、絶叫した。そして急に電池が切れたかのように、ガクンと椅子にもたれかかった。

「ナナちゃん……?」

「お、おい」

 彼女の両脇に座っていたシスター・アマハとフォー・トウスが愕然とした表情で、彼女を危惧する。長い髪で隠れて、顔は見えない。

 すると突然、

「で、それでー?」

 突然顔をあげたかと思うと、何事もなかったかのようにケロッとした顔で、ナナと呼ばれる少女は笑顔を見せた。本当に、何事もなかったかのように。

「「!」」

 その彼女の両脇の人間は、嘘のように静かになり、動きを止めた。

「死因は、死因は――なんだらほい。えっと、解っていません!」

 ざわつく、ざわつく。

「ウタウ・ワンダーランド君。あの、唯一の存在が……?」

「マジかよ……」

「あの、確か彼には、ご子息がいるのではありませんでした?」

「そうそう、そうだよたか君。とても若い子だよ。うん、いたいた。そういえば最初、って言っても20年以上前だけど、その子と自分の孫同い年だから結婚させよーって、ウタウ君と与太話してたなあ」

 静かにそう言った後、大河は自身の弟子に顔を向けた。こちらに、刺すような視線を放っていた。

「なんだよー金持ちの大河・リリィ・ホワイトー、過去の話なんてどうでもいいだろー? きゃはは!」

 すっかりといつも通りの異常に戻った彼女は、明るく問いかける。

「いいやナナちゃん、過去の話を笑い話にして思い出に浸るのが人間ってものだよ。思い出はね、お金じゃ買えないんだ」

「ええ?! 金じゃ買えねーものがあんの?! ほんと?!」

「そうだよ、まあ、ガラクタになりやすいものだけれどね……愛とかも、お金じゃ買えないんだ」

「え? いや、あたいの御主人様、この前、愛をお金で買わされるとこだったよー?」

「それは……それは御主人様は、何をしていたのかな?」

「知らねー! でも、しんらいだけは金で買えないって言っていた気がするー」

「そ、そう……」

「はいはい雑談はお終いにして――それでね、」

「ちょっと待てくれ神」

「ん?」

 仕切る少女の声を遮ったのは、フォー・トウス。

 何か思うものがあったらしく、問い掛ける。

「そのことを知っていた奴、いるだろ。ただし、紫水の虎以外で」

「まあ自分は、知りたくなくても知っちゃうからねえ勝手に。じゃあ、知っていた人は、挙手すれば?」

 その大河の一言に、皆一様に周りを見渡した。すると、

「は、はい~」

 シスター・アマハが、おもむろに右手を挙げた。その後ろで、まるで飾られている人形のように座っていたアンジェリークも、少し遅れて挙手した。

「その、今、王さ……空色の猫の世界で教会を開かせて頂いておりまして、宝石師の仕事場の、です。それで、その、その~……3日ほど前に」

 そう言って、彼女は丁度向かいの席を見る。そこにはいつも、空色の猫が座っていたから。

「……お前、ちゃんと自分の世界には帰ってんだろうな」

「え? あ、はい」

「ならいい、わかった。なるほどな。で、だ」

 何か承諾したようにシスター・アマハとアンジェリークに手を下ろすように促した後、視線を右上に動かし、そこに座って左手を挙げている彼女に少々険のある物言いで再度問いかけた。

「てめえ、どう考えても、前から知っていた感じだよな?」

「そうだね。だってまあ、身共は世界最高の魔法使いだもの。何でも知っているよ」

 クルシマ・シルク。聞いた限りでは、何か崇高な位置に居座っているらしい彼女。だがしかし、現在の彼女は身も心も軽装に見えて、そして、不敵な笑みである。

「なにか、出来なかったのか?」

「しようと思ったよ? けれどね、ちょっと閉じ込められていたんだ」

「閉じ込められて?」

「うん。お月様に」

「はぁ?」

 その場にいるものはほとんどの者が理解できなかったが、彼女はもうそれ以上語るような素振りは見せなかった。

「それはどういう」

「はーいはいはいはい、脱線しすぎなの、震緑の蛇ー。何か議題を語り合うのはいいけれど、関係ないこと喋るのは時間の無駄よ。神様が仕切る会議でこれ以上においたが過ぎるなら、君の世界をなかっ(・・・・・・・・)たことにしちゃうよ(・・・・・・・・・)ー?」

「…………」

 フォー・トウスは、押し黙った。

「はい、で、ウタウ・ワンダーランドが死んだことによって。空色の猫の世界は滅ぶはずだったんだけれど……全然滅ばないから、なんでだろうねっ」

 少女の声がルンルンと響く。

「んー、ねえ、例えば、たか君のペンダントとか、自分の杖とかさ、アンジェリークちゃんの創った魔法使いの証である宝石はさ、その持ち主の生命力を感知していて、持ち主が死んだらアンジェリークちゃんは解るんでしょ? 確か、ウタウ君のは王冠だったよね。もし死んだのなら、その時点でアンジェリークちゃんは解っていたはずだよね? それとももしかして、まだ死んではいないとか?」

 大河・リリィ・ホワイトが、語る。

「分かるよ。そのはずだ。けれどその間の期間、儂が彼の宝石については何かを感じることはなかった。ああ、何か機能が不全だということではないぜ。しかし神は死んだと言った。矛盾の生起だ」

「神様は嘘つかない!」

 アンジェリークの発言に、少女の声が叫ぶ。

「はい、緑玉の狐! 多分もう解っているだろうから、とっとと会議の輪の中に入ってきてよ!」

 そう少女の声がさらに叫ぶと、全ての者の視線がその者に降り注がれた。萌葱色の着物そして羽織、無地の薄青蛇の目傘を部屋の中で差して肩に引っかけている可笑しな背格好の、奇っ怪で不機嫌そうな男。右手で狐の面を目深に被り直すと、左手の煙管を傾けて、ボソッと言った。

「もうすでに、その世界を支えている者が存在しているんじゃないか」

「「?!」」

 狐面の男がそう言った瞬間、解っていたことだが、多くの者が、戦慄した。

 誰が?

 まさか?

「あの、鮮明の蝶さん。そういえば貴方達は、どのようにして空色の猫さんが亡くなったことを知ったのですか?」

「…………えーっと」

 突然のカンザキからの発言に、彼女は、なぜか笑顔で固まっていた。

「あの」

「それはだよ、靑蓮の熊。空色の猫が王様をしているという国に遊びに行ったらね、なんと、彼の国は滅亡していたんだ」

「ええ?!」

「大洪水に遭っていた。街はおろかすべてが水面下でね、辛うじて多分国の中心だったんだろう城だとわかるような建物だけが顔を出していて、とても静かだった。シスター・アマハと辺りを散策してみたけれど、空色の猫の姿は見えなかった。だが儂は宝石に何も変化がなかったので、どこかへ逃れられたのだろうかと」

「その、ご子息の姿などもなかったのですか?」

「そうだね。見ていないね(・・・・・・)……やはり、だれかが空色の猫の王冠を持って、そのまま次代の空色の猫になってしまったのかな?」

 宝船宝からの問いかけにスラスラと答えるアンジェリークに、アマハはただただ感嘆するのみで、そして安心していた。

「ほんと、誰なんだろう……紫水の虎さんは」

「ごめんね、なんでだろう、自分もそこまで視えないなー」

「そうですか……」

 大河の答えに、残念そうに返事をするカンザキ。

「つーかアイツは?」

 次に発言したのは、それまでずっと塞ぎ込んでいたように黙っていたフォー・トウス。

「大宅世継は?」

「あれ? そういえばいないねえ」

「情報と言ったら、奴だ」

 フォーの発言に少々ざわめく。

 語り部。

 大宅世継。

 彼らが求めるその人物。

 この空間には、存在しなかった。

「世継ちゃんは」

 と、唐突に、空の席である空色の猫の右隣に座っていた老人が、

「本日は出たくないと言っとった」

 とだけ言って、

「ふぉっふぉっふぉっふぉ」

 朗らかに笑った。

「だー! んだとー! 何が出たくないで来ないだああああ?!?!」

 それを聞いてフォーは怒りの炎を上げた。

「五月蠅いなあ、五月蠅いよ、へびー」

「情報がねえと何も出来ねえだろうが! 今何が起ころうとしているか、誰が何を起こそうとしているか、知ることこそが運命だ、そうそれはもう、前から決まっていることだからな!」

 フォー・トウスは、溌剌に言った。

「もぉー、知ってても知らなくてもいいじゃないですか、もっとこう、性的な……」

 突然嬉しそうに赤面して、シスターアマハは困ったように笑った。

「まあ知るだけならいんじゃなーい? どーせ忘れるだろーけど、まーじうーけるー」

 身体の包帯をくるくる弄りながら、少女は快活にケラケラ笑う。

「知れば、世界が歪みますけれど。無垢の魚、貴方はどう思います?」

 その熊のような大男は言った。

「あう、し、知りたい、です」

 すこし考えて、その透明な少女は言った。

「知るべきだ」

 煙管を吹かし、狐面の男はボソッと言った。

「あ、じゃー提案提案ー」

「なんだぁ? 宝石師?」

 その小さな手をスッと挙げて、シスター・アマハの後ろから発言したアンジェリーク。ニヤリ顔にさらに磨きがかかったかのように、どこか自信のある顔だった。

「その謎を打開する一番の方法だけれど、聞いて知るより、実際に見て知った方がいいと思うんだ。うん、ごほん」

「なんだよほうせきしー、ていさいぶるなよー」

 血染の犬に促され、祝福の宝石師アンジェリーク・フォン・ブラウン=カルゼン=ブラッカーは今回のこの会議に終止符を打った台詞を言い放った。

「えっとさ、もう一度空色の猫の世界に戻って、次代の空色の猫を探してみるよ。百聞は一見にしかずだよ、大宅世継からとか誰かからの未確認情報より、実際に王冠を持つものが存在しているという確立された情報を元に探して見つけるのが一番だと思うんだぜ。みんな忙しいと思うからさ、儂とシスター・アマハに任せてくれ。で、見つかったらまた即、会議ればいいと思うよ。それでいいよね神的存在? みんなも――何かほかに、要望はあるかい?」







「話し合って解決しない、解決できないこともある。語りえないことでは人は沈黙するのみです。まあその考えは、この会議では無意味なものですが。同じ世界の者同士ならばこの定義は成り立ちます、しかしどうも異世界同士の会議では成り立ちません、無理にでも話し合う、無理にでも答えを出す。意見や質問、結果や原因はすべて投げられるように繰り出され、言い合い、投げ合い、疑い合いのオンパレードです。しかしすべては放り出されることなく必ずどこかの世界で跳ね返され、どこかの世界で優しく受け止められ、混沌として上手く繋がらないはずの世界達は、無理に結論を出す必要がないのに、無理にでも可能に、どこかズレていっているのに、簡単に答えを出す、簡単に変わって行けるものなのです。まあ12も異世界があれば、きっかけなんてどこにでもありますよ。ね、どうしようもなく不可解でしょう?」

「すまんわからん」

「貴方の言い方は難しいけれど、なんとなくわかったわ」

 待ちぼうけ3人組は、この会議中、ずっと雑談をしていた。前回まではロードナイトと稀生の罵詈雑言飛び交う熾烈な雑談であったが、各々の世界のことを話したり呆け突込みをかましたりとワイワイ過ごしていた。

「シルクはな、凄い優しいんだぞ。頭撫でてくれるしな、何でも知っているしな、たまに、ボクの姉ちゃんのことも喋ってくれるんだぞ」

「ええ、いいないいな! リュウなんて、私をでこピンして飛ばすのよ! 羨ましい……」

「ただただ真っ白いのとただただ何言っている解らない不思議異邦人はともかく、貴方方も見受けられたでしょう、お嬢様の慈悲深きお言葉と繊細なお心を」

「リュウの悪口言うなー! このでくのぼー!」

 途中から自慢大会みたいなものになっていた。

 ポカポカとロードナイトの頭を叩くアカリナーテだったが、彼的には、なんかくすぐったいくらいのものであった。

 そして。

「おっ先ー!」

 突然勢いよく扉が開いたかと思うと、栗毛の青年フォー・トウスが結構な慌て顔で中から走り出てきたかと思えば、そのまま廊下の彼方へと凄いスピードで走って行ってしまった。続いて、薄い赤毛の美少年がのろのろと出てきた。

「あ、リュウー! 終わったのね、お疲れ様ー!」

「る? りいかい?」

「違うわよ、この人たちも偶然外で待ってただけよ!」

「らえらえ」

「そんなこと言わないでー、って、待って―!」

 不明な会話をして、その2人も廊下の彼方へ歩いて、1人は飛んで、行ってしまった。続いて狐面の男、白い杖をついた若く見える男、見慣れない風変りな杖をついた老人が出て行った。少しして、小さな少女が、おずおずと歩いて出てきた。

「あ、ろ、ロードナイトさん……お待たせ、しました。終わり、ました」

「はい、お疲れ様でございました」

 微笑んだ。

 なので、稀生は身震いしてしまった。そして、スタスタと彼らも廊下の彼方へ歩いて行った。

「こんどは宝船宝の世界にも遊びに行くからね、あたいとおんなじ名前みたいな子がいるんだろ?」

「…………」

「きゃはははは! じゃっあねー!」

 タッタッタッタっと軽快なテンポで走っていく奴隷のような少女は、大きく手を振りながら廊下の彼方へと消えていった。

「名前、ね」

 手を軽く振り返し、宝は後ろでカンザキと歩いてくるシルクを一瞥する。

 自身の、魔法の、弟子だった、年上の、彼女。

 今では、あちらの方が何より優位である。

 ――だから昔、僕は戦争を起こしてしまったのだろうか。

 ともかく、宝船宝も廊下の彼方へと歩を進めていった。

「あー、お腹空いたなー」

「おや、貴殿はまだ食欲を?」

「ああそうさ。カンザキ、汝は全てを失くしたようだがね」

「ええそうですよクルシマ・シルクさん。食欲を失くしたのは40年程前です。魔法使いなんて、みんなそうですよ。でもまあ、また盃でも、酌み交わそうではありませんか」

「また、ね」

「では失礼いたします」

 続々と、その扉をくぐっていく中、クルシマ・シルクはそこにいたからという理由で真っ先に目についたシスターを呼び止めた。

「おいそこのシスター」

「ふえっ?! は、はい……まあ、シルク様……」

 困ったような笑顔で、彼女へ返事をしたアマハ。

「元気そうだねえ、若いって、いいねえ」

「い、いえそんな、シルク様も私めと全くお変わりになりませんのに、お肌とか綺麗で羨ましいですわ~。あ、リノちゃん、先に行って頂いてても、よろしいですか?」

「別にいいけど儂を待たせ過ぎたらどうなるか分かってるよな」

「うひゃあはい!」

 不敵に笑うアンジェリークが緩やかな動きで部屋の外へ出ていくのを見送ると、クルシマ・シルクが発言する。

「いやー、ほんと、あの空間抜け出すの、大変だったんだよ」

「………………」

「さすが、次期世界最高の魔法使いの候補に挙がっているだけあるねえ。鮮明の蝶ってだけあるよ」

「……えっと、何が何やら」

「とぼけんなよ」

 その一言に、シスター・アマハは困った。笑えなかった。

 その漆黒の瞳に吸い込まれそうなほどの真っ白な存在に、身体が固まってしまった。

「汝らが、何かをしようとしているかなんて当の昔に気付いているよ? それに汝は下っ端も同然だ、早く足を洗って、ただのシスターに成り上がりなよ。正直言って、汝が敵の位置にいるというのは非常に不本意だ」

「………………」

「何で知っているんだみたいな顔をしないでおくれよ」

 彼女は、笑った。

「知っているのと知らないのでは、全然違うんだからね」






 そのとても大きな木の幹に、光る軌跡が走った。根本から天を目指して、そして突然横に曲がり、そしてまた下に落ちていって、円を描き、そして光は消えた。ドアのようなものが、現れた。

 不意にそのドアが開いたかと思うと、1人の青年が現れた。

 宝船宝だった。

 彼の瞳は、まだ紅い。

 そして光の軌跡は消えた。

 迷いの森。

 見上げれば、暗い森で狭まり、遠くに見える空に小さな月がぽっかりと浮いていた。

「お帰りなさい」

「お帰りなさい」

「……どうも、ただいまです」

 チェシャ猫と時計ウサギの出迎えがあった。相変わらず不敵な笑みを浮かべ、双方自身の自慢の耳をピコピコと動かしている。

「アリスは唯一の存在」

「アリスは唯一の存在」

「ねえ、アリスに会った?」

「あら、アリスに会ったの?」

「いいえ」

「そう」

「そう」

 くすくす笑いながら、2人してふわふわと動き、そこの木の下で宝のローブに包まってすやすやと寝息を立てる魚々子の頬っぺたをふにふにと突き始めた。結構2人で弄っているが、彼女が起きる気配は一向にない。熟睡である。その周りには、消えかけた焚火と、何か色々飲み食い散らかした跡があった。

「何かあった?」

「何かあったんでしょう」

「深紅の鴉さん?」

「深紅の鴉さん?」

「……………………」

「夜明けって、意外に早く来るものだね」

「は?」

「は?」

 宝の一言に、2人は笑顔で可愛く否定する。

「この迷いの森に、夜明けなんて来ないわ」

「この迷いの森に、夜明けなんて来るはずない」

「この森は永遠に夜なのよ」

「この森は永遠に昼なのよ」

「鴉さんは知っているわよね」

「鴉さんは知っているはずよ」

「くすくす」

「くすくすくす」

 魚々子からふわりと離れて、2人は森の奥の方へ駆けて行ってしまった。

「知らない方が、良かったんだ、本当に」

 その背中を見送りながら、宝は呟いた。胸元の赤いペンダントを握り締め、空を見上げる。

 彼の瞳は、碧色に戻った。


 唯一、空に浮く満月だけは皓皓と、彼らを虚しく照らしていた。



 あのほんとこの曲を聴くと、

 古井さんのゴッドハンドによる編曲は凄いなと思います。

 あとこの思い切った歌詞が好きです。

 ガネクロの数々の作品の中で、少し異彩を放っているというか、

 私の見方ですが、

 一回聴いただけで、頭の中にすぐ残って、

 だんだん好きになるなーって感じです。


 GARNET CROW Special Fanclub Event 2012

 激楽しみですね!


 歌ってほしい曲?

 全てですね!


 ということで、本日もご読了、

 ありがとうございました!



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