第20話 止められなかった人
その日は、業務終了後も誰も帰らなかった。
深層は安定している。
ログも綺麗だ。
評価は、最高。
帰る理由がない。
でも、残る理由もなかった。
■ 休憩室
明かりの落ちた休憩室。
いつもより静かだ。
リリエラが、先に口を開いた。
「……今日の判断」
俺は、何も言わなかった。
否定も、肯定も、
もう浮かばない。
■ リリエラの視線
「あなた」
リリエラは、俺を見て言った。
「今日、
切った根の名前」
胸が、わずかに動く。
「……覚えてません」
正直に答えた。
リリエラは、目を伏せた。
「そう」
それだけ。
責める言葉は、ない。
■ 過去の話(静かに)
「昔ね」
リリエラは、椅子に腰を下ろした。
「私が、まだ」
一拍。
「止める側でいられた頃」
止める側。
「深層で、
あなたと同じ顔をした人がいた」
エルンだ。
名前は出さない。
「その人も、最初は」
彼女は、淡々と語る。
「迷ってた」
「苦しんでた」
「でも」
一拍。
「判断は、正しかった」
俺は、何も言えない。
■ 止めなかった理由
「……止めなかったのは」
彼女の声が、少しだけ低くなる。
「私」
「え?」
「止めなかった」
否定じゃない。
告白だ。
「世界が、壊れそうだった」
「数字が、全部正解だった」
「神も、褒めてた」
条件は、今と同じだ。
「だから」
彼女は、静かに続ける。
「正しい人を、止められなかった」
胸が、締め付けられる。
■ 後悔の質
「後悔してる?」
俺は、聞いてしまった。
リリエラは、少し考える。
「……違う」
違う?
「遅れた」
それだけだった。
「止めるタイミングを、
見誤った」
「正しさが、
感情を追い越した瞬間を」
彼女は、俺を見る。
「今、あなたが立っている場所」
■ 共犯の宣言
「だから」
リリエラは、はっきり言った。
「今日のことは」
一拍。
「あなた一人の責任じゃない」
胸の奥が、少しだけ揺れる。
「私が」
彼女は続ける。
「一緒に、そこに立ってた」
立ってた。
■ 主人公の反応
俺は、しばらく黙っていた。
そして、こう言った。
「……じゃあ」
喉が鳴る。
「俺が、
壊れたら」
リリエラは、即答した。
「私も」
短く。
■ 止められない現実
「……でも」
俺は、視線を落とす。
「もう」
言葉を探す。
「止まれない気がします」
リリエラは、否定しなかった。
「ええ」
「分かってる」
それが、怖い。
■ 条件
「だから」
リリエラは、静かに言った。
「一つだけ、約束して」
「何ですか」
「独りで、決めないで」
また、その言葉だ。
でも、意味が違う。
「止められなくてもいい」
「でも」
彼女は、俺を見る。
「必ず、私を巻き込んで」
それは、逃げ道じゃない。
責任の共有だ。
■ 最後に
休憩室を出る前。
リリエラが、ぽつりと言った。
「……今日のあなた」
「はい」
「もう、
エルンに近い」
近い。
その言葉は、
責めでも、警告でもない。
事実だ。
俺は、静かに答えた。
「……それでも」
一拍。
「エルンには、ならないつもりです」
根拠は、ない。
でも、言わずにはいられなかった。
リリエラは、少しだけ笑った。
「それを、
最後まで言えるなら」
希望か、祈りか。
分からない。
■ 終わりに
その夜。
深層は、変わらず安定している。
世界は、静かだ。
それでも。
二人は、同じ場所に立った。
止められなかった側として。
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