第13話 配置転換:あなたが適任です
それは、業務開始前に告げられた。
「……業務連絡」
ログ=フェアが現れる。
いつもと同じ無機質な声。
でも、今日は少しだけ“間”があった。
嫌な予感が、確信に変わる。
■ 通達
「カナタ・シグレ」
名前をフルで呼ばれる。
「あなたの本日付の配置が、更新されました」
俺は、息を止めた。
「配置先:根系深層管理ブロック」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「……深層?」
リリエラの表情が、凍る。
「待って」
彼女が即座に口を挟んだ。
「深層は、まだ――」
ログ=フェアは遮る。
「決定事項です」
決定。
■ 深層管理ブロックとは
「……そこって」
俺が聞く。
「一番、壊れてるところですか」
ログ=フェアは淡々と答えた。
「はい」
即答。
「世界樹全体への影響度が高く、
同時に“切り捨て判断”が求められる区域です」
切り捨て。
胃の奥が、冷たくなる。
「……俺、切る判断なんて」
「期待されています」
ログ=フェアは言う。
「あなたは、現場判断能力が高い」
評価だ。
「数値と現実の乖離を理解している」
それも。
「何より」
一拍。
「自律的に判断できる」
第11話の“反抗”が、ここで繋がる。
■ 神の説明(善意)
アウル=ラディスの投影が現れる。
今日は、いつも以上に穏やかだ。
「突然で、驚かせてしまいましたね」
丁寧な声。
「ですが、これは懲罰ではありません」
分かっている。
「むしろ、信頼です」
信頼。
「深層は、経験と冷静さが求められます」
「感情に流されない人材が、必要なのです」
感情に流されない。
「あなたは、もう」
彼は微笑む。
「“聞こえない状態”でも、正確に処理できる」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
■ リリエラの抵抗(でも止まらない)
「……それ」
リリエラが、低い声で言う。
「“切れる人”を作る配置よ」
アウルは、少しだけ困った顔をした。
「必要な役割です」
「誰かがやらなきゃいけない?」
「はい」
即答。
「世界全体のために」
全体最適。
「あなたも、かつて――」
アウルは言いかけて、止めた。
その一瞬で、十分だった。
リリエラの過去が、確定した。
■ 契約書、再登場
ログ=フェアが、光の板を出す。
「なお、配置変更に伴い」
嫌な前振り。
「契約内容の再確認を行います」
再確認。
板の端に、小さな文字。
俺は、もう読める。
【世界存続に関する最終責任は、
管理補助者に帰属する】
逃げ道は、最初からなかった。
「……断れます?」
俺が聞く。
アウルは、穏やかに頷いた。
「もちろんです」
まただ。
「ただし」
来た。
「深層の対応が遅れた場合」
光の板に、赤い数値が出る。
【推定崩壊開始:72時間後】
「その責任は――」
言わなくても分かる。
■ 選択
静寂。
世界樹の振動が、足元から伝わる。
フィルタ越しでも、分かるほどに。
「……ねえ」
リリエラが、俺を見て言う。
「ここで引き受けたら」
「はい」
「あなたは、もう」
言葉を探す。
「戻れない」
第12話の続きだ。
俺は、ゆっくり息を吸った。
「……知ってます」
それでも。
「でも」
俺は、ログ=フェアを見る。
アウルを見る。
リリエラを見る。
「ここで断ったら」
一拍。
「世界は、切られますよね」
誰も否定しなかった。
■ 回答
俺は、光の板に手を伸ばした。
「……条件があります」
アウルが、少し驚いた顔をする。
「聞きましょう」
俺は、はっきり言った。
「一人では判断しません」
沈黙。
「深層での全判断」
「必ず、現場共有ログを残す」
「誰かが、見られる形で」
「それが無理なら」
俺は、板から手を離した。
「引き受けません」
世界が、止まった気がした。
■ 神の判断
長い沈黙の後。
アウルは、ゆっくり頷いた。
「……分かりました」
リリエラが、目を見開く。
「条件を受諾します」
あっさりだ。
「ただし」
当然来る。
「結果責任は、変わりません」
それでいい。
俺は、サインした。
■ 配置:深層管理ブロック。
それは、昇進でも、罰でもない。
選別の入口だ。
世界樹が、ざわ……と鳴る。
フィルタの向こうで。
――ありがとう。
俺は、静かに答えた。
「……まだ、切らない」
リリエラが、隣に立つ。
「行くのね」
「ええ」
「地獄よ」
「知ってます」
それでも、足は前に出た。
これは、
“世界を救う話”じゃない。
“切らないと決め続ける話”だ。
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